「楽天が漁夫の利を得る可能性も出てきた」 専門家が占う大激戦パ・リーグの行方

楽天・石井一久監督【写真:荒川祐史】

石井監督は岡島の2番起用で「チームを動かした」ことが奏功

大混戦のパ・リーグの行方は、ますますわからなくなった。首位のオリックスは2日、本拠地・京セラドーム大阪でのソフトバンク戦に6-0で大勝し、2位のロッテに1.5ゲーム差をつけた。51年ぶりの優勝マジック点灯まであと1勝としていたロッテは、9月28日~30日の対オリックス3連戦でまさかの3タテを食らい、2日の楽天戦にも1-6で完敗。逆に、3位の楽天はオリックスに4ゲーム差、ロッテには2.5ゲーム差に迫り、にわかに不気味な存在として浮上してきた。

「楽天が漁夫の利を得る可能性まで出てきました」。こう語るのは、現役時代にヤクルト、日本ハム、阪神、横浜(現DeNA)で計21年間捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏である。

楽天は9月20日のソフトバンク戦に敗れた時点で、当時首位のロッテに6ゲーム差をつけられ、優勝の可能性はほぼ潰えたかにみえた。しかし、その後も5勝3敗1分(成績は2日現在、以下同)で粘り、ロッテがオリックスに3タテを喫したこともあって、にわかに光明が差してきた。

楽天には浮上のきっかけがあった。9月29日の日本ハム戦(楽天生命パーク)で、主に5番を打ちチームトップの打率.309をマークしているベテランの岡島豪郎外野手を今季初の2番で起用したのだ。

岡島は1回無死二塁で迎えた第1打席で、いきなり相手の虚を突くドラッグバントで一塁内野安打を奪い、続く浅村栄斗内野手の右犠飛で先制。この試合をモノにした。「石井一久監督は打順を動かし、作戦で選手を動かし、沈滞気味だったチームを動かした」と野口氏。「私は29日と30日の2試合を見ましたが、主砲の浅村の打球は、1本の遊ゴロ以外、全て逆方向の右翼へ飛んでいた。チーム打撃に徹している表れです。楽天の野球は明らかに変わってきました」とも指摘した。

「パ・リーグのペナントの行方は本当にわからなくなりました」と明かす野口氏。楽しみは、3チームの監督が秘める“奥の手”だと言う。

25年ぶりVを目指すオリックスの中嶋監督が「不動の構え」を見せる理由

1996年以来25年ぶりの優勝が現実味を帯びているオリックスは、エースの山本由伸投手が16勝、弱冠20歳の宮城大弥投手が12勝を挙げ、チームどころかリーグでも突出している。しかし、中嶋聡監督には残り20試合を切った今も、山本と宮城の登板間隔を詰めてフル回転させる様子はない。

「下手にスクランブルをかければ、選手たちは『ウチは今、そんなに切羽詰まった状況なのか』と浮足立つ恐れがある。長らく優勝から遠ざかっているオリックスなら、なおさらです。慌てず、どっしり構えて戦わせたいのでしょう」と野口氏は見る。「オリックスは24年間優勝していないけれど、中嶋監督は個人的に移籍先で何度も優勝を経験している。その辺は心得ているはずです」とも。中嶋監督は、1996年にオリックス最後の優勝に正捕手として貢献した後、西武、日本ハムで優勝に貢献している。

追う立場のロッテ、楽天はどうか。野口氏は「井口資仁監督と石井監督が実際に何を考えているかはわかりません。ただ、外から見ている限りでは、先発投手が打ち込まれるケースが増えてきたロッテの場合は、ここまで慎重にインターバルを置いて登板させてきた佐々木朗希投手を、間隔を詰めて先発させるとか。守護神の松井裕樹投手を故障で欠く楽天の場合は、過去にリリーフ経験のある則本昂大投手を配置転換するとか。いろいろ“奥の手”が考えられます」と語る。

既に選手たちは満身創痍で戦っているだろうが、ゴール直前にきて監督がどこで“鞭を入れる”かによって、結果は大きく変わってきそうだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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