千葉市のガソリンスタンドに無人コンビニ JR東日本グループ企業が鉄道生まれの技術を展開【コラム】

報道公開で取材に応じる諏訪原太陽鉱油部長、阿久津TTG社長、近藤MCE部長=写真右から=(筆者撮影)

畳四畳半ほどのスペースに、弁当や菓子、日用品を中心に約170アイテムの商品をそろえた、無人のミニコンビニエンスストアが2021年10月1日、千葉市美浜区のガソリンスタンド(GS)にオープンしました。JR東日本グループのTOUCH TO GO(タッチ・トゥ・ゴー=TTG。企業名)が、石油製品の商社・三菱商事エネルギー(MCE)、ガソリンスタンドを全国展開する太陽鉱油の両社との協業で、GSのサービス基地化を実現しました。

TTGは、新興企業育成を受け持つJR東日本スタートアップが出資して、2019年に設立されたスタートアップ(ベンチャー)企業。鉄道関係では、JR山手線目白、高輪ゲートウェイの両駅や西武新宿線中井駅に無人店舗を展開しています。ここではGS全国第一号になった、太陽鉱油千葉新港サービスステーション(SS)を取材。鉄道とGSを比較しながら、無人コンビニの狙いなどを考えました。

Suicaやクレカで支払い アプリは不要

TTGはJR東日本スタートアップと、システムコンサルティングなどを手掛けるサインポストの合弁会社。自社開発の「TTGーSENSE MICRO(ティーティージー・センス・マイクロ)」と名付けた無人決済システムは、カメラやセンサーで利用客の購入商品をチェック。店舗内の無人レジで決済する仕組みです。

支払いに使えるのは、現金のほかSuicaなどの交通系ICカードとクレジットカード。クレカやICカードの情報通信には、光ケーブルを使用します。GSの無人店舗はSuica普及に力を入れるJR東日本にとって、カードがドライバーに広がるメリットが期待できます(営業時間は7~23時)。

Suicaによる決済の様子。購入商品や金額が画面表示されます(筆者撮影)

一般的な無人決済は、スマートフォンにアプリをダウンロードして支払うスタイルですが、TTGーSENSE MICROにアプリは不要。スマホを使い慣れないドライバーにも、ハードルを下げたのが利用者側のメリットです。

トラックドライバーを考えたサービス

千葉新港SSがあるのは、千葉街道(国道14号線)と東京湾岸道路(国道357号線)を連絡する幹線道路沿い。周辺には物流倉庫や工場が建ち並び、トラックの給油が多いところです。

ガラス越しに見た無人店舗外観。「1はいる」、「2えらぶ」、「3でる」の3つのキーワードで特徴を表現します(筆者撮影)

トラックは車長の関係で立ち寄れるコンビニが限られるほか、緊急事態宣言期間中はトラックの走行時間帯に閉店してしまう飲食店がほとんどで、協業3社は〝鉄道発トラック行き〟の越境ビジネスを着想しました(宣言は2021年10月1日に解除されましたが)。

スペースはミニでも買いやすさは万全

店内の様子。商品が棚に整然と並びます(筆者撮影)

GS内の「フード&カフェ」コーナーとしてオープンした無人店舗は、幅2.4メートル、奥行き3.2メートルのミニサイズ。GSの休憩スペースを改装した店舗は、左側に入り口ゲート、右側にレジと出口ゲートがあり、買い物客がゲートに近づくと自動で開閉します。入り口から無人レジまでの動線は1本に分かりやすく整理され、客は商品を選びながら店内を一周します。

決済コーナーでは、自動でレジに購入商品や合計金額が画面表示され、ICカードやクレカで決済できます。出口脇では、最近のコンビニの定番、ホットコーヒーなどのカフェメニューも提供します。

「GSのサービス基地化に弾みが付く」

千葉新港SSは元々、無人のセルフスタイルで、給油客は無人決済システムにも抵抗を感じないようです。MCEや太陽鉱油はTTGとの協業を、「目標とするGSのサービス基地化に弾みが付く。店舗の省力化が可能になり、人材不足の解消にもつながる。新型コロナウイルス感染症対策としても有効」と歓迎。鉄道駅とGS、ジャンルは違ってサービス基地化を目指す基本は共通だったわけです。

開設時のハード面では、事前に組み立てた店舗をGS内に直接搬入。現地での工事が不要になって、短時間でのオープンが可能になります。

新規事業セミナーが協業のきっかけ

本来はライバルともみられがちな、鉄道とGSが協業に至ったのは少々ユニークな背景があります。新規ビジネスのセミナーで、TTGのビジネスコンセプトが披露され、それにMCEが興味を持ったのがきっかけ。JR東日本と三菱商事、どちらも日本を代表する大企業ですが、小さな人のつながりが新しいビジネスチャンスを生み出しました。

GS業界では、もちろん有人のコンビニを併設するスタンドもありますが、大都市や幹線道路沿いでないと経営的に成り立たせるのは難しい。しかし人件費ゼロの無人店舗なら、地方都市でも開設可能です。MCEの担当者も「従来は自動販売機しか置けなかった極小スペースでも、物販が可能になる」と話していました。

TTG-SENSE MICROのスペック。棚数やアイテム数は店舗スペースに応じて柔軟に対応できます(画像:三菱商事エネルギー)

日商目標は3~10万円

ビジネスモデルとしては、TTGがGSのスペースを借りてテナントとして出店。千葉新港SSにはシャワールームがあるため、鉄道駅に比べ洗面具などの日用品を豊富にそろえました。今後の店舗展開では、観光地のGSでは土産品を販売。GSの無人店舗は日商3~10万円の売り上げを期待します。

TTGは今後、オフィス、病院、工場などへの事業展開を構想しますが、「JR東日本発のビジネス」として交通を得意分野にしたい考え。駅や今回のGSのほか、空の交通では羽田空港に出店済み。引き続き、高速道路のサービスエリアやパーキングエリアへの事業展開を目指します。

千葉新港SSの無人店舗オープンを前にした2021年9月28日の報道公開には、協業3社からTTGの阿久津智紀代表取締役社長、MCEの近藤健一郎経営企画部長、太陽鉱油の諏訪原高博経営企画担当部長が出席、それぞれ無人店舗成功やGSのサービス基地化に向けた決意を語ってくれました。

記事:上里夏生

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