鷹が描く壮大な拡大3軍制プランとは? リスク覚悟で外国人育成に乗り出す意味

ソフトバンク・工藤公康監督【写真:藤浦一都】

16歳のヘラルディーノら中南米の有望株3人が入団する

ソフトバンクは4日、来季の新戦力として、16歳のフランケリー・へラルディーノ内野手、21歳のマイロン・フェリックス投手、17歳のアレクサンダー・アルメンタ投手が育成選手として入団すると発表した。異例の中南米有望株3選手の獲得の背景には、来季計画している3軍制拡大プランが隠されていた。

この日、3選手獲得に伴い、オンライン会見を行った三笠杉彦取締役GMは「我々は世界中から有望な選手を集めて強いチームを作りたいというコンセプトでやってきている。来季は育成で日本人だけでなく外国人も獲得して、ホークスの土壌の中で育てることにチャレンジしたい。ファームの制度も検証して、3軍の試合数を拡大して、保有する選手も増やして3軍制を拡大して取り組んでいこうという計画を持っている」と説明した。

ソフトバンクは2011年から本格的に3軍制を採用。その初年度に育成選手として入団した千賀滉大投手や甲斐拓也捕手は球界を代表する選手に成長した。2016年には福岡・筑後市内にファーム本拠地「HAWKSベースボールパーク筑後」を完成させ、育成拠点に。それから5年が経過し、さらに育成制度の拡充を図ることになった。

現状の育成選手数を増やし、支配下登録も合わせて100人編成とする計画

拡大の計画としては現状、年間80試合程度の実戦機会を倍近い130試合から140試合に増加。それを可能にするためには選手数も必要となるだけに、育成選手数を現在の20人前後から30人ほどまで増やし、支配下登録選手と合わせて計100人超のチーム編成とする計画だ。10月11日のドラフト会議でも「育成の指名は従来より多い」(三笠GM)という。

外国人の若手有望株獲得は球団にとっても新たなチャレンジとなる。今回、加入が決まった3選手のうち、最年少は16歳のへラルディーノ。アルメンタも17歳と、日本では高校1年生と2年生の世代だ。当然、これまでにそれほどの若い世代をチームに抱えたことはなく、三笠GMは「日本人でもその年齢の選手を迎え入れる経験ないので、大きなチャレンジと思っている」という。

家族と離れ、言葉も文化も分からない異国へ移り住んでくる3選手。経験ある外国人選手でも適応に苦労するだけに、若い選手の苦労は計り知れない。それだけに、球団としても「大きなチャレンジで、従来の外国人選手を迎え入れるのとは違うサポート体制が必要だと思っています。プロ野球での外国人サポートという枠を取り払って考えた方がいいかな、と思っていて、高校に留学してきたりする選手がいるので、受け入れてる学校にもアドバイスを聞いて、独自のプログラムを作っていきたい」と思い描いている。

ドミニカやメキシコの選手はキューバ出身選手のような“亡命リスク”はないが…

近年、ソフトバンクはデスパイネやモイネロ、グラシアルといった“キューバ路線”で補強を行ってきた。一方で、今回の3人はドミニカ共和国とメキシコの出身者だ。キューバは米国と国交が断たれており、若手有望株が亡命のために失踪することが頻発。ソフトバンクでも、コラスやロドリゲスが在籍中に姿を消している。

米国と国交のあるドミニカ共和国やメキシコの選手には突如、姿を消すリスクはないが、別の“リスク”は拭い去れない。MLBのように全選手が一定年数経過したのちに自動的にFAとなるような制度はNPBにはなく、外国人の場合は、育てた選手がすぐにMLBへ流出してしまう危険性を孕む。三笠GMも「懸念はありますし、外国人枠の問題もあります。保留の期限というのも課題かな、と思っています」と認める。

では、リスクがあるから獲得しないかと言えば、それは球団の方針にはそぐわない。「我々としては優秀な人材を集めて世界一の球団を目指すというところで、机上ではなく、やってみてどれくらいの効果があるか、まずはやってみようと」と三笠GM。まずは挑戦する。やってみた先に生じる課題を潰していくという考えだ。

もちろんチーム強化が第一義ではあるが、球界全体へ与える影響も考える。「日本のプロ野球が培ってきた土壌を生かして、活躍できる若者を世界中に広げる。野球の普及、発展強化としてもやるべきだと考えている。考えて行動しないのではなく、獲得して育成してやらせてみたいという機運になることが重要じゃないかと思っている。チャレンジして、自分たちが球界全体の刺激になればいいと思って取り組みたい」。日本球界にとって新たな刺激、選手育成手法の一例となればいい、との思いも球団は抱えている。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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