ハーゲンダッツの故郷!野生のラッコもいる漁業と酪農の町【北海道浜中町の旅1】

北海道東部に位置する「浜中町」。可憐な花々が咲く湿原、雄大な岬、手つかずの無人島、のどかな牧草地──。空と海と大地が溶け合うこの地では、観光よりも“感じる旅”がおすすめ。五感から心癒やされる浜中町の旅を、8回にわたりお届けしましょう。

浜中町とは?

「浜中町」と聞いて、その場所をすぐイメージできる人は多くないかもしれません。おおまかに地理的な説明を加えると、浜中町は釧路と根室のほぼ真ん中に位置し、海岸は太平洋に面します。釧路空港からは車で約90分、中標津空港からは約70分。数々の湾と島を有する自然豊かな漁業と酪農の町です。

2021年3月には、浜中町の一部が国内で58カ所目の国定公園として「厚岸霧多布昆布森国定公園」に指定。道内では21年ぶりの指定となり、地域の魅力のさらなる充実が期待されています。

多種多様な植物を育む、絶景の湿原

(C)浜中町

町のシンボル的存在が、約3,000平方メートルと国内有数の広さを誇る「霧多布(きりたっぷ)湿原」。そのスケールは東京ドーム600個以上! 特別天然記念物のタンチョウをはじめ希少な野鳥を間近に観察でき、その自然環境の豊かさから1993年にはラムサール条約に登録されています。

春の雪解けとともに徐々に緑が生い茂り、夏から秋にかけては約300種の花々が湿原を彩ることから「花の湿原」という別名も。青と緑の大パノラマを前にすれば、身体も心も解きほぐされることでしょう。

ハーゲンダッツに選ばれた酪農王国

古くから酪農が盛んな浜中町。人口5,500人に対して、飼育される乳牛は約2万4,000頭! 北部は、ほぼ全域が酪農地帯となっていて、360度見渡す限り牧場が広がります。

冷涼な気候や台地といった酪農に最適な土地であることに加え、海のミネラル分が海霧とともに牧草地に降り注がれるという環境も大きな特徴です。栄養たっぷりの牧草で育つ牛が作り出す生乳は極めて上質。さらに地元農協による徹底した品質管理が功を奏し、ハーゲンダッツの原料にこの浜中町の牛乳が指定されているほど。

広大な牧場でのびのび過ごす牛たち。1日中牧草を食べたり、水を飲んだり、寝たり起きたり。牛にとってストレスなく、居心地のよい環境を与えることは、おいしい牛乳づくりに不可欠なのだそう。

そんな酪農王国、浜中町の楽しみといえば搾りたての牛乳。直売所を併設する小松牧場では新鮮な牛乳を味わうことができます。

レトロな瓶入りの牛乳は持ち帰り150円、その場で飲めば100円。口当たりなめらかで、濃厚なコクとまろやかな甘みが印象的です。牛乳特有のニオイが苦手な筆者でしたが、そんなクセなど全く皆無。決して大げさではなく、こんなおいしい牛乳は初めて! ほかにドリップコーヒーを使用したコーヒー牛乳、果汁5%のフルーツ牛乳もあります。

小松牛乳店

住所:北海道厚岸郡浜中町霧多布西4条1-127

電話番号:0153-62-2749

営業時間:10:00〜17:00

定休日:不定休

大自然が生み出した、奇跡の造形美

雄大な景観に抱かれる浜中町。自然のダイナミックさを存分に体感するならば、ぜひ岬へ。霧多布半島の西端にある「アゼチ岬」は琵琶瀬湾に突き出た岬で、独特の形をした3つの無人島を一望。聞こえるのは風と波の音だけ。まるで異世界に迷い込んだかのような、不思議な感動を覚えます。

https://youtu.be/vybGM-IiyVw

霧多布湿原から豊富なミネラル分が流れ込み、昆布の生育に絶好の環境である浜中町の海。水揚げ量は全国の1割を占めるほど。6月〜10月の早朝にはアゼチ岬から昆布漁を見ることも可能です。一斉に海へ繰り出し、競うように猛スピードで舟が走る様は圧巻!

水揚げ後、昆布は速やかに小石を敷き詰めた干場(かんば)に干されます。その日のうちに天日乾燥させるため、干し作業はまさに時間との戦い。広大な昆布のじゅうたんは浜中町の夏の風物詩ともいえる風景です。

こちらは霧多布半島の東端にある「霧多布岬」。先端のやや手前に立つ湯沸岬灯台は、2010年公開の映画『ハナミズキ』に登場したことで一躍有名に。赤と白の可憐なコントラストが青い空と海によく映えます。

太平洋の風と荒波が作りあげた断崖絶壁が続く岬。白波が岩礁に激しく打ち寄せ、まるでサスペンスドラマの舞台!と思いきや実はここ、野生ラッコが観察できる希少な場所としても注目を集めているんです。海に近づくべく、遊歩道を下っていきましょう。

かなり遠目ですが・・・、ラッコ発見!

https://youtu.be/BzpyFLqE7cI

(C)Mari Moro

仰向けでぷかぷかと浮かぶラッコ。寝ているのか起きているのか不明ですが、手足を動かす仕草さがたまらなくキュート。と同時に孤高に生きる姿からは勇ましささえも感じます。

ラッコは本来、千島列島から米国沿岸に生息していましたが、良質な毛皮を持つため乱獲され、1900年代初頭には絶滅寸前に。一方で近年の保護により復活し始め、北海道東部の海にも戻りつつあるのだとか。霧多布岬周辺で初めてラッコが確認されたのは2016年のこと。現在では5〜7頭が生息するとされ、年間を通してその姿を見ることができるようです。

琵琶瀬湾に浮かぶ嶮暮帰島(けんぼっきとう)。約3,000年前に海底が隆起し、波の浸食によって削られた無人島です。外周は約4.5km。まな板が横たわったような不思議な形状が特徴的。その昔、ムツゴロウさんこと畑正憲さんが1971年から約2年間住んだことでも知られます。この移住こそが、かの“動物王国”の基礎となったのだとか。数々の伝説を持つムツゴロウさんですが、やっぱりすごい人!

手つかずの自然が残る島には、スズランやエゾカンゾウの群落が点在。自然保護のため島への出入りは制限されていますが、指定ガイド付きツアーを利用すれば上陸可能。丘の上で花に囲まれながらランチを楽しむ・・・なんて贅沢体験ができるそう。

マストで立ち寄りたい町役場

湿原、牧草地、海、無人島という多彩な自然美を一度に望むなら「浜中町役場」がおすすめ。旅先で役場?と思われるかもしれませんが、この役場、眺望はもちろん、実に新鮮な驚きが満載なんです。

津波対策として標高42mの高台に建てられた町役場の新庁舎。3階の共有スペースでは壁一面の窓から浜中町のパノラマを一望できます。美しく、広大に広がる景色は時間を忘れて見入ってしまいそう。

1階には浜中町に関するパンフレットが用意されています。旅の情報収集にもピッタリ。ここで衝撃的なものを発見・・・!

なんと、先述した小松牛乳が無料で提供されているのです! 町民のみならず、旅行者でも飲んで良いのだそう。さすがは酪農王国の役場、懐の深さを感じます。

「ルパン三世」の原作者モンキー・パンチ氏の生まれ故郷である浜中町。街の至るところでルパンキャラクターに出会うことができますが、町役場も然り。こちらはモンキー・パンチ氏直筆のイラストを壁紙に印刷したもの。

モニターもルパン仕様に。漁師に扮するルパン、トラクターを運転する不二子など、アニメでは考えられぬ設定がたまりません。このほか、お手洗いや案内版にもお馴染みのキャラクターがデザインされていました。

浜中町役場

住所:北海道厚岸郡浜中町湯沸445

電話番号:0153-62-2111

営業時間:8:30〜17:15

旅情あふれる鉄道旅もおすすめ

浜中町の西の玄関口、茶内駅は釧路から根室本線で約1時間20分。一両編成の鈍行列車は、ただそれだけで旅情を誘います。街から森、草原、海と移り変わる車窓もまた格別です。

茶内駅ではルパンがお出迎え。静かに佇む木造の駅舎を訪れれば、ノスタルジックな気分に浸れることでしょう。

どこまでも続く大空、清涼感に満ちた湿原や牧草地、ダイナミックな岬・・・。多彩な風土が織りなす浜中町で、北海道の新たな魅力に出合ってみませんか?

[Photos by Nao]

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