ドイツを支配する「2G」「3G」とは【世界から】

 ドイツでは新型コロナワクチンの接種を終えていない場合、何をするにも、事前に「2G」か「3G」かを確認しなければならなくなった。と言っても、スマホの通信規格のことではない。新型コロナの7日間指数、つまり直近7日間の10万人あたりの新規感染者数が35人を超えると実施される新しいルールのことだ。8月24日以降、全国16州で3Gが実施され、その後11州が3Gと並行して2Gも導入した。

 2Gとは、ワクチン接種済み(Geimpft)の人、コロナに罹患(りかん)し治癒(Genesen)した人が対象、3Gはこれに検査で陰性証明を取得(Getestet)した人が加わる。いずれもドイツ語の頭文字がGなので、こう呼ばれる。

 ドイツ第二の都市であるハンブルク市では、3Gはさほど大きな抵抗もなく受け入れられたが、8月28日に全国に先駆けて2Gが追加導入されると、賛否両論が巻き起こった。(ハンブルク在住ジャーナリスト、共同通信特約=岩本順子)

レストランの入口の3G表示。ドイツの3Gは、病院、鉄道、ショッピングセンターなどには及んでいない。

 ▽2Gか3Gか

 振り返れば、ハンブルク市では、今年の5月にロックダウンが解除された時から、劇場や美容院、レストランやカフェの室内席への出入りはワクチン接種済みか感染から無事回復した人、検査で陰性証明を得た人に限られ、テラス席は制約なし、といった具合に、現在の3Gとほぼ同様のルールが実施されていた。市民は、この時点で3Gに慣らされたと言える。

 当時はワクチンの接種が始まって間もなく、ワクチン不足もあって、ほとんどの人が無料の簡易抗原検査を行っていた。しかし、現在では6割以上の人々が接種を済ませている。市内に数百カ所あった無料検査場は徐々に姿を消し始めている。

 ハンブルク市の場合、2Gか3Gかの決定権は飲食店や宿泊施設、劇場、イベント主催者らの側に委ねられている。3Gの場合は人数制限があるが、2Gでは満席も認められ、マスクも免除となる。ただし2Gを実施する場合は、スタッフが全員2Gに該当していなければならない。

 2Gを率先して実行し始めたのは、ロックダウン中に完全閉鎖に追い込まれたバーやナイトクラブだ。レストランやカフェは3Gを維持しているところが多い。劇場やコンサートホールも2G移行には慎重だが、小劇場には2Gに移行した所もあり、ハンブルク市立劇場は10月中旬から、演目により2Gを実施する場合もあると発表しており、ハンブルク歌劇場は11月から2Gに移行する。サッカースタジアムはすでに2Gを実施、2Gのホテルやジムもある。こうして、ワクチン未接種者立ち入り禁止の場所が少しずつ増えている。

 ▽伸び悩む接種者数

 ハンブルクのワクチン接種完了者の割合は10月8日現在69・4%、ドイツ全体では65・1%で伸び悩んでいる。見本市会場を利用したドイツ最大のワクチン接種センターはすでに役目を終え、撤去されたところだ。現在は、病院や医院のほか、サッカースタジアム、コンサートホール、ショッピングセンター、教会などに、予約の必要がない接種センターが臨時オープンしている。

 街頭ポスターからソーシャルメディアまで、派手なくらいのワクチン接種キャンペーンが行われているが、接種者数が頭打ちになっているのは、接種できない人、接種しない主義の人のほかに、さまざまな個人的理由で、接種を控えている人たちがいるからだろう。政府によるワクチン情報が二転三転したので不信感を抱いている人々もいる。

 ドイツ政府は集団免疫の獲得のために接種率85%を目標としているが、到達は難しいかもしれない。政府が、今のところワクチン接種の義務化は行わない方針だからだ。8月中旬からは12~17歳の接種も可能になり、学校によっては集団接種も行われているが、義務ではないため、同年齢層の接種完了者は36・5%にとどまっている。医療、介護職は接種率が平均よりもやや高いので、パンデミック以前からの人手不足を避けるためにも、義務化はまだ行われていない。

このバーでは金曜日と土曜日に限って2Gを実施している。

 ▽経済優先なら2Gか

 昨冬のロックダウンは飲食業、観光業、イベント業などの分野において、約700億ユーロ(約9兆円)の経済的損失を生んだ。エッセン市のライプニッツ経済研究所の試算によると、現在の第4波が悪化して今冬にも同様のロックダウンが行われた場合、約520億ユーロ(6・7兆円)の損失が予測されるという。しかし、年末までにワクチン接種率が75%に達し、2Gルールを徹底すれば、その損失は130億ユーロ(1・6兆円)にとどまるだろうという。

 10月11日から、3G生活に欠かせない無料の簡易抗原検査が有料になった。11月からはワクチン未接種の被雇用者が、コロナ感染者と接触、あるいはリスク地域から帰国した場合、隔離期間中は無給となるという。未接種者への負担が徐々に増えつつある。

 できれば、未接種者を極端に排除しない3Gを維持し、社会を分断すべきではないと思うが、ロックダウンを回避し、経済を回復させるためには、2Gへの移行がさらに進むのかもしれない。

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