生命保険金の受取人を孫にしたことで思わぬ相続税が発生してしまう!?

孫ができれば、あの手この手で財産を残してあげたいと思うもの。生前贈与を利用してなるべく節税したいところですが、制度を知らないとそれが裏目に出てしまう場合も。今回は、孫を生命保険金の受取人にしてしまったために、生前贈与した分まで税金がかかる結果になってしまったケースから、間違いやすいポイントを紹介します。


相続税の生前対策としてポピュラーなものの一つに生命保険の非課税枠を活用することが挙げられます。ただし、この生命保険の非課税枠も活用の仕方を間違うと節税対策どころか余分に相続税を払うことになるかもしれません。

今回は、生命保険の活用の仕方によって、遺された家族に思わぬ相続税が課税されてしまったケースを紹介します。

愛孫を生命保険金の受け取り人にしていた森井さん

亡くなったのは森井太郎さん(仮名、83歳)、相続人は一人娘の順子さん(仮名、52歳)です。順子さんには双子の息子、隆さん(仮名、30歳)、直樹さん(仮名、30歳)がおり、太郎さんの家で順子さん家族は同居していました。

太郎さんは、同居している孫の隆さんと直樹さんをとても可愛がっており、孫2人が成人してから太郎さんが亡くなるまでの10年間、毎年110万円の現金贈与を欠かさず行っていました。遺言によって財産を渡し相続税を払うよりも、非課税枠内で生前贈与を利用したほうが税金対策になると考えてのことでした。

また、太郎さんは生命保険にも加入していました。保険内容は、太郎さんが亡くなった時に500万円の保険金が受け取れる終身保険3契約(受取人:順子さん、隆さん、直樹さん)です。

太郎さんの相続発生時の財産は、不動産5,000万円、預貯金3,500万円、生命保険500万円×3契約(受取人:順子さん、隆さん、直樹さん)の、合計1億円あります。太郎さんは遺言書を残さなかったため、相続人の順子さんは不動産と預貯金、生命保険金500万円を取得し、隆さんと直樹さんはそれぞれ生命保険金を500万円ずつ取得しました。

太郎さんは、上記の条件で、孫それぞれが受け取った、毎年110万円×10年間分の計2,200万円と生命保険金500万円は、全て非課税になると思っていました。ところが、今回のようなケースでは、相続税が発生してしまうのです。なぜでしょうか?

「生前贈与加算」とは?

「生前贈与加算」というルールをご存じでしょうか。

「生前贈与加算」とは、相続が発生すると、発生日から3年さかのぼって生前贈与したものを相続財産に含める(実質的に生前贈与が無かったことになる)というものです。

この生前贈与加算の対象者は、「相続や遺贈により財産を取得した人」です。死亡日前3年以内に贈与を受けていても、相続や遺贈により財産を取得しなければ生前贈与加算の対象者ではありません。相続人であっても財産を相続しなければ生前贈与加算の対象外となります。

生命保険金は、「みなし相続財産」になる

今回のケースでは、孫である隆さんと直樹さんは相続人には当たらず、遺産分割協議をして財産を取得するといったことはしていません。一見すると、「生前贈与加算」の対象ではないように思えます。ところが、隆さんと直樹さんが生命保険金を受け取ったことで、直近3年分(110万円×3年×2名分=660万円)が相続財産に加算され課税される結果になりました。

生命保険金は「みなし相続財産」といわれ、生命保険金の受取人は相続や遺贈により財産を取得したものとみなされます。したがって、隆さんと直樹さんは「相続や遺贈により財産を取得した人」に該当することになるのです。

生命保険金を受け取ると「相続人」以外は課税される

もうひとつ、気を付けていただきたいこととして、相続人以外が生命保険金を受け取ると、課税されるという点があります。

相続人が生命保険金の受取人の場合、相続人の人数×500万円までの受取金額は非課税になります。この非課税は相続人の順子さんにしか適用がありません。孫の隆さん・直樹さんは相続人ではないため、受け取った500万円の保険金に対し相続税が課税されることになりました。ここでも太郎さんは生命保険の受取人に対して一律500万円が非課税になるという間違った認識をお持ちだったようです。なお、隆さんと直樹さんは、太郎さんの一親等の血族ではないため、相続税額が20%加算されることになります(相続税の2割加算)。

思い違いをしやすい生命保険契約と生前贈与の注意点

以上のことから、思い違いをしやすい生命保険契約と生前贈与の注意点として

・相続人ではなくても生命保険金の受取人になっている人は生前贈与加算の対象になること。
・相続人であっても相続発生時に相続財産を取得しなければ生前贈与を受けていても生前贈与加算に該当しないこと。

という2点に気を付けるようにしましょう。

今回のケースで税金の負担を軽くする方法は?

今回のケースで、孫たちの税金の負担を軽くしたい場合は、一つの案として隆さんと直樹さんを太郎さんの養子にするという方法があります。

民法上は、養子全員に実子と同じように相続権が発生します。つまり相続人が1人から3人に増加するのです。

しかし、相続税法上は、相続税の計算をするにあたって、実子がいる場合、2人を養子にしたとしても1人しか相続人の人数に加えることができません。これは隆さん、直樹さんのどちらか1人というわけではなく人数として1人追加されるというイメージです。

相続税法上の相続人として1人増えた場合の相続税の基礎控除は、相続人が順子さんのみの現在、3,000万円+(600万円×相続人1名)=3,600万円のところ、隆さん直樹さんが養子に入ることで、3000万円+(600万円×相続人2人)=4,200万円になります。現状より600万円分の財産が相続税対象財産から控除されることになります。

また、生命保険の非課税枠も現在500万円×1名=500万円に対し、養子に入ることで500万円×2名=1,000万円の非課税枠が適用できることになり、隆さん直樹さんの受け取る生命保険金に対して課税される相続税額は軽減されます。

ただし、孫を養子にした場合、相続税の2割加算の適用はそのままです。

養子にするということは家族関係が変わり、相続人の数も変わるということです。家族間の理解がないと難しいこともありますので、税金のことだけを考えて養子にするというのはお勧めできません。

まずはご家族でどのように相続税対策をしていくのかを話し合ったうえ、相続専門の税理士と相談しながら進めていくことをお勧めします。

上級相続診断士:盛勝利

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