金融所得課税の引き上げ検討から、改めてNISAの活用を考える

先月末に行われた総裁選で、岸田文雄氏が金融所得課税を見直し、一律20%の税率を引き上げる考えを示したことが報じられると、SNS上では個人投資家の失望や怒りの声を多く目にしました。この報道だけが原因ではありませんが、その後日本の株式市場が下落傾向にあることも個人投資家の印象を悪化させたのでしょう。今回は本件をきっかけに改めてNISAについて考えたいと思います。


金融所得課税とは?

そもそも金融所得課税とはなんでしょうか?所得税という言葉は耳にしたことがあると思いますが、金融所得課税は聞いたことがないという人もいるでしょう。所得税は会社から貰った給料にかかってくる税金で、所得が増えるほど税負担が重くなる累進性があることは多くの人の知るところです。たとえば、年間の課税所得が195万円未満だと税率は5%ですが、4,000万円以上だとその税率は55%になります。

一方で、労働から得た所得ではなく、利子や配当として得た所得や、株式などの取引で生じた利益(株式等譲渡益やキャピタルゲインといいます)は金融所得と言いますが、これらの金融所得は分離課税の対象で、その人が給料をどれだけもらっているかには関わらず、一律20.315%(復興特別所得税を含む)がかかります。

冒頭で触れた岸田氏の発言が意味することは、この税率を引き上げていくということで、具体的な数字は出ていませんが、25%や30%に引き上げられてしまうかもしれない懸念が個人投資家の間で広がったのです。

富裕層ほど所得に占める金融所得の割合が相対的に高いため、結果として負担税率が低くなる傾向があり、格差拡大に歯止めがかからないため、再配分を目的に税率を引き上げることなのでしょうが、果たして金融所得税率の引き上げは格差の是正を実現できるのでしょうか?

格差の是正が出来るのか?

財務省によれば、2019年時点の所得が5,000万円から1億円の所得層だと所得税負担率が27.9%であるのに対して、20億円から50億円の所得層では負担率が18.9%に下がるとしています。これを「1億円の壁」と言ったりもしますが、この歪な状態を改善したいが故に金融所得税の税率引き上げを提唱したのですが、本当にそれだけで格差が是正されるのかは疑問です。

日本では2003年から「貯蓄から投資へ」という標語が掲げられ、投資人口が広がるように様々な変化が生じてきました。NISAやiDeCoなどの非課税制度が整備されたり、証券会社や運用会社の企業努力もあって投資にかかる手数料は一昔に比べればとても安くなりました。また、SNSやブログ、YouTubeなどで個人投資家自身が「つみたて投資」など敷居の低い投資法を啓蒙していることもあり、着実に個人投資家の数は増えています。

仮に金融所得税の税率が引き上げられた場合、当然ながらこの数年で投資を始めた個人投資家にも影響はあり、いわゆる富裕層ではなく、余剰資金の一部をコツコツと投資しているような小口の個人投資家の税負担も高まり、本当の富裕層は租税回避してそれほど影響を受けないことも想定されます。

筆者は2018年から日本で金融教育を普及させたいと思い株式会社マネネを創業し、これまでにたくさんの親子へ金融教育の講演をしてきましたが、やはり未だに投資で儲けている人はずるい、悪いなどのネガティブな印象を持つ人が多いと感じています。

格差是正といって金融所得税の税率引き上げを唱えれば、国民からの支持率は上がるのかもしれませんが、投資家はリスクを取っているし、なかには時間や労力をかけて分析して勝率をあげるための努力をしている人達もいるので、本気で格差是正を目指すのであれば単純に金融所得税の税率引き上げをすればいいという結論にはならないと考えます。

改めてNISAの活用を考えよう

とはいえ、私たちが政策を決めるわけではないため、決定されてしまえば受け入れざるを得ないわけです。そこで、改めて注目したいのが、国が用意してくれている非課税制度であるNISAとiDeCoです。この制度を活用すれば、投資によって生じた利益が全てそのまま自分の実入りになるわけで、少なくとも現時点では金融所得税の20.315%を合法的に回避することが出来ますし、仮に税率が引き上げられてもこの制度内であれば影響はありません。

しかし、まだNISAやiDeCoを利用していない個人投資家にもよく出会います。理由を聞いてみると、なんとなく面倒くさいと言うのです。たとえばNISAであれば、一般NISAとつみたてNISAがあり、どちらを選んだ方がいいのかを決めるために、制度の内容をいちいち理解するのが面倒という意見を多く耳にしました。そこで、今回はいくつかの観点から簡単にどちらのNISAが自分に適しているかを判断する軸を紹介します。

自分はどっちのNISAが適してる?

まず、どちらが得かという観点ではなく、どちらが自分に適しているのか、という観点で選択するようにしましょう。一般NISAは年間の投資上限額が120万円、つみたてNISAは40万円です。これだけを見てしまえば一般NISAの方が得という判断をする人もいるかもしれませんが、一般NISAの非課税期間が最長5年間、つみたてNISAが最長20年ですから、非課税期間もあわせて考えると、今度はつみたてNISAの方が得に見えてきます。まずは自分が年間で投資に回せる金額が40万円以上あるかどうかが1つの判断軸になるでしょう。

つぎに、一般NISAが日本株や外国株など多くの金融商品へ投資が出来るのに対して、つみたてNISAは国が「長期、分散、つみたて投資」に適していると判断した投資信託から選ぶ必要があります。個別銘柄への投資がしたいのであれば一般NISA以外の選択肢はないわけですが、銀行に預けているだけだと増えないけど、資産運用にそれほど労力を割きたくないのであれば、つみたてNISAを活用して毎月コツコツと積み立てることをお勧めします。

金融所得税の税率引き上げを検討するというニュースは個人投資家にとっては歓迎できないものですが、改めて非課税制度の活用を考える好機ととらえ、前述のような判断軸で自分に適したものを選ぶとよいでしょう。

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