【レースフォーカス】“本領”を発揮したM.マルケスの優勝と透ける現状/MotoGP第15戦アメリカズGP

 2021年シーズン、サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)の覇者はある意味で期待通りだったのではないだろうか。同サーキットで2013年から2018年までに6度、優勝を飾っているマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が表彰台の頂点に立ったからだ。
 
 2013年からCOTAで開催されているアメリカズGPは、2020年が新型コロナウイルス感染症の影響で中止となったために2年ぶりの開催となった。COTAは2013年以来、マルケスが圧倒的な強さを発揮している相性のいいサーキットだ。ただ、その一方でCOTAはハードブレーキング・ポイントがあり切り返しが多く、フィジカルに負担のかかるサーキットであり、右腕がいまだ万全ではないマルケスがいかに戦うのか、興味深いところではあった。
 
 しかしいざ蓋を開けてみれば、マルケスが面目躍如を果たしたレースだった、と言えるだろう。初日から総合トップにつけると、予選では3番グリッドを獲得。今季、そして復帰してから初めてフロントロウに並んだ。決勝レースでは1コーナーに先頭で飛び込み、序盤はレースをコントロール。中盤からは2番手のファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)に対し1秒、2秒とアドバンテージを築いて、独走でチェッカーを受けた。今季2勝目、COTAで7度目の優勝を飾ったのである。
 
 マルケスは、特に今季、左回りのサーキットで成績を収めている。ザクセンリンク(ドイツGP)では優勝し、モーターランド・アラゴン(アラゴンGP)ではフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)と最終ラップまで優勝争いを展開して2位を獲得した。

「左回りのサーキット、左コーナーは僕がずっと得意としてきた一つだ」ともマルケスは決勝レース後の会見でそう説明していた。一方で、右腕の状態によって今も本来の走りを発揮できていないと語る。

「今は(右腕の)怪我によって、左コーナーと右コーナーのフィーリングの違いがさらに大きくなっている。左コーナーでは左手で旋回し、三頭筋を使って攻められる。でも、(右コーナーでは)右手でプッシュしようとすると、アンダーステアが出てしまう。僕はこれまでに何度も転倒した。フロントタイヤのグリップを失っても、右ひじで転倒を回避できない」

 当然ながらマルケスは、MotoGPライダーの頂点に返り咲きたいと考えている。だからこそ、今後の3戦への展望も冷静だ。「残りの3レース、ミサノ(エミリア・ロマーニャGP)はきっと難しいだろう。みんなすごく速いだろうから。でも、あとの2レース、特にポルティマオ(アルガルベGP)は僕としては興味深い。右コーナーで自分がどの位置にいられるのか理解するためにね」
 
 もう一つ、今回のレースでは気になるポイントがある。路面のバンプ、起伏である。2年前からすでに指摘されていたというこのバンプ、初日を終えた多くのライダーがそのひどさについて言及していた。走行中の映像のなかでも、路面の起伏によってMotoGPマシンが激しく振られる様子が確認できる。

 こうした路面状況により、2021年のアメリカズGPはさらにフィジカル面で厳しい戦いを強いられるのではないか、と思われていた。激しく振られるMotoGPマシンを押さえつけながらの走行を強いられるからだ。クアルタラロやバニャイアなどは、フィジカル面で大変なレースだったと述べている。ただ、マルケスは「今日はうまくマネジメントできた。右回りのサーキットと同じくらいの疲れだった」と言う。左回りのサーキットという精神的なプレッシャーが少なかったからがゆえなのか、得意とするサーキットでのレースだったからなのか、はたまたコンディションの回復の兆候なのか……。ともあれ、マルケスにとってはしかるべき優勝を果たしたわけだ。
 
 COTAの路面状況、バンプについて、さらに説明しておきたい。金曜日に行われたセーフティ・コミッションの中で、MotoGPライダーたちはバンプについて訴えたという。そして、2コーナーから10コーナーにかけての再舗装を要求し、プロモーターであるドルナ・スポーツも同意したということだ。「もし再舗装されなかったら、もうここには来ない方がいい。あまりにも危険だ」とフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)は語っている。アメリカズGPが安全性を確保したレースとして開催されるためにも、適切な処置が行われることを願う。

2021年MotoGP第15戦アメリカズGP マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

■戴冠の可能性を引き寄せたクアルタラロ

 チャンピオンシップリーダーであるクアルタラロにとって、アメリカズGPでの2位には大きな意味があった。序盤に先行したマルケスを追っていたクアルタラロだが、クアルタラロは自分にマルケスとトップ争いを演じられるほどのペースがないとわかっていた。同時に、クアルタラロにとっては、チャンピオンシップのことを考えなければならないレースでもあった。アラゴンGP、サンマリノGPと2連勝し、3戦連続でポールポジションを獲得しているランキング2番手のバニャイアの前でレースを終えた。上々の結果だった。「今日の2位はキャリアの中でも最高のものだ」と、クアルタラロは述べている。
 
 クアルタラロが2位、バニャイアが3位となったことで、チャンピオンシップにおける二人のポイント差は52に広がった。また、ランキング3番手につけていた2020年王者、ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)は、8位でレースを終えたためにタイトル獲得の可能性を失っている。チャンピオンシップ争いはクアルタラロとバニャイアの二人にしぼられたわけだが、残りが3戦であることを考えれば、クアルタラロに十分なアドバンテージがあると言えるだろう。
 
 次戦、クアルタラロが優勝を飾れば無条件でチャンピオンを獲得することになる。ただ、クアルタラロは「そこ(ミサノ(エミリア・ロマーニャGP)でのタイトル獲得)に執着する必要はないと思う」と言う。

「もし(ミサノで)チャンピオンが獲得できれば素晴らしいし、そうならなくても、また別の機会がある。落ち着いていくよ」

 今季、成績とともに精神的な安定感を増したように見えるクアルタラロ。チャンピオンがかかるレースではとんでもないプレッシャーがのしかかると言うが、初めてタイトルに挑むクアルタラロの場合はどうだろうか。いずれにせよ、残り3戦のどこかでチャンピオンが決まる。

2021年MotoGP第15戦アメリカズGP ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)

© 株式会社三栄