現在のパワーユニット状況から見えるハミルトンの苦境。交換は不可避、メルセデスF1がタイミングを検討中

 メルセデスF1は2021年シーズン終了までに、ルイス・ハミルトンのパワーユニット(PU)をあと1回は交換する必要がありそうだ。その場合、ハミルトンは1シーズン中に使用を認められているエレメント数を超えることになり、グリッド後方への降格ペナルティを受ける。

 ブリックスワースで作られた彼らの素晴らしいパワーユニットがこのような苦境に陥るのは、現在のハイブリッド時代初めてのことだ。この状況は、メルセデスがホンダをはじめとするライバルたちにどれほど追い詰められ、ぎりぎりの戦いを強いられているかを示しているといえるだろう。

 バルテリ・ボッタスは、第14戦イタリアGPでパワーユニット交換を行い、グリッド降格ペナルティを受けた。しかし次のロシアGPの決勝を前に、さらにパワーユニットのエレメント(ICE、ターボチャージャー、MGU-H、エキゾーストシステム)を入れ、このうちICE、ターボチャージャー、MGU-Hはシーズン5基目に入り、制限数を超えたため、15グリッドの降格ペナルティを受けた。メルセデスは、ボッタスのパワーユニットに問題が見られたため交換したという説明を行っている。

2021年F1第15戦ロシアGP バルテリ・ボッタス(メルセデス)

 ハミルトンは、今のところシーズン中に使用できる基数内に収まっているが、今後、新しいエレメントを投入してグリッド降格ペナルティを受けなければならないのは確実な状況だ。ハミルトンが今後使用できるパワーユニットは2基で、どちらもかなり使い込んだものであるからだ。

 ハミルトンの最初のパワーユニットは、最初の5戦のバーレーン、イモラ、ポルトガル、スペイン、モナコと、第11戦ハンガリーで使用された。さらにフランスとオランダで金曜エンジンとして使われたが、オランダの金曜FP2で油圧の問題が発生し、ハミルトンはマシンをとめなければならなかった。メルセデスはこのパワーユニットをロシア、トルコ、メキシコの金曜に使用したいと考えていた。

 ハミルトンのパワーユニット2基目は、アゼルバイジャンでデビューした後、フランス(土日のみ)、シュタイアーマルク、オーストリア、イギリスで使用された。イギリスはスプリント予選フォーマットでの開催だったため、通常の310kmではなく410kmを超える距離をレースモードで走らなければならなかった。

 カスタマーチームであるウイリアムズやアストンマーティンに見られるように、メルセデスの2021年第2世代のパワーユニットは信頼性の問題を抱えていた。そのため、ベルギーでハミルトン車に3基目を入れた後、メルセデスは2基目のパワーユニットの使用を、ロシアの金曜プラクティスまでストップしていた。

 ベルギーGPは悪天候に見舞われ、No.3パワーユニットは多くの周回数を走行することはなかった。このパワーユニットはイタリアGPでも使用された。決勝でハミルトンとマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が接触するアクシデントがあったが、幸いNo.3パワーユニットはその後も使える状態だった。さらに、ハミルトンがリタイアしたことで、予定よりも走行距離が少なく抑えられている。

 No.3パワーユニットのこれまでの走行距離は2293.25kmにおよんでおり、プラクティスやレースでの走行が悪天候などで短縮されなければ、トルコで3000kmに到達する。1グランプリあたりの走行距離はおよそ750km。ハミルトンのNo.3パワーユニットは、あと2グランプリと2回の金曜走行で寿命を迎える。

2021年F1第15戦ロシアGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 No.2パワーユニットはすでに3990kmをこなしており、金曜エンジンとしてしか使用することはできない。これをトルコ、アメリカ、メキシコのフリープラクティスで使うことで、No.3パワーユニットの使用を3戦に延長することができるかもしれない。しかしそれでも、パワーユニットへの負担が大きいインテルラゴスとジェッダを含む終盤4戦を前に、ハミルトンの手持ちのパワーユニットは寿命を迎えることになる。

 こういった状況から、ハミルトンが今シーズン残りレースのどこかでパワーユニット交換を行わなければならないことは明白だ。メルセデスとしては、メカニカルトラブルで交換を強いられるのではなく、計画的にグリッド降格ペナルティを受ける場所を選びたいと考えているはずだ。

 今週末のトルコが雨に見舞われた場合には、ハミルトンが得意なコンディションでポジションを上げていくことを期待して、メルセデスはパワーユニット交換を決断するかもしれない。

© 株式会社三栄