老舗桐箱店が生み出した、飾れるおしゃれなボードゲーム「インテリアリバーシ」

インテリアに取り入れたくなる、木の香り漂う『haco toy リバーシ』

シンプルなルールで世代を問わず楽しめるボードゲーム。世界にはさまざまなボードゲームが存在しますが、その代表例として思い浮かべるのが「リバーシ」です。白と黒のコマにグリーンのボードをイメージする方が多いと思いますが、この夏、誕生したのがお部屋に飾っておきたくなる『haco toy リバーシ』です。

駒はヒノキとウォールナット、ボードには桐や杉などが使われ、滑らかな手触りと木の香りが漂うおしゃれなリバーシ。手がけたのは、福岡県古賀市の老舗桐箱店「増田桐箱店」です。

高い機能性を持つものの、若い世代に馴染みがない桐箱

1929年の創業以来、桐箱一筋だった増田桐箱店ですが、リバーシをはじめ、近年おしゃれな桐箱製品を多く発表し、若い世代から注目を集めています。その仕掛け人が、増田桐箱店で、3代目社長を務める藤井博文さんです。

藤井さん
創業時は、博多人形や博多織を収納するための桐箱を作っていました。

現在は、人間国宝の作品、国立博物館の収蔵品のほか、各種ギフトの収納用まで、幅広く桐箱を製造しています。私が代表になったのは2014年。当時25歳だったのですが、同世代の友人たちは桐箱に触れる機会がなかったり、そもそも桐箱自体を知らなかったりで、桐箱の認知がとても低かったんです。

そうなると、なんだか仕事のモチベーションも上がらないですよね(苦笑)。そもそも若い世代に馴染みない桐箱が、10年後に存在するものでしょうか。これまで桐箱はあくまで脇役でしたが、もっと目に触れる機会を増やすためにも、日常で使える桐箱を提案する必要を感じたんです。

桐箱の魅力を伝える「kirihacoプロジェクト」から、日本一売れる米びつが誕生

日常で使える桐箱で、その魅力を多くの人に知ってもらいたい。そこで、2015年に藤井さんが立ち上げたのが「kirihacoプロジェクト」。これまで培ってきた職人技を生かしながら、現代のライフスタイルにあった新しい桐製品を展開しています。

藤井さん
「kirihacoプロジェクト」は、若いユーザーに日本の文化として、桐の魅力を伝えることを目的としています。これまで桐箱というと、収納箱やパッケージのイメージでしたが、日常で使ってもらうにはどうすればいいかを考え、福岡のデザイン事務所trythinkの小嶋健一さんらとともに取り組んでいます。

プロジェクト第一弾として発表したのは、米びつ。桐という木材は、虫がつきにくい上、調湿性にも優れています。さらに軽く、女性でも扱いやすいため桐製の米びつは昔から重宝されていました。とはいえ、今の若い方にはあまり馴染みがないものです。価格も1万円程度と高め。若い夫婦が米びつのために出せる金額ではありません。

当初、職人たちは新しいことへの抵抗感もありましたが、従来の桐製米びつに、アクリル板を組み合わせ、利便性とデザイン性を向上。異素材を組み合わせたことにより、コストダウンもでき、5kg用の米びつを7480円で販売することができました。結婚や新築のお祝いとして選ばれる方が多く、「贈って喜ばれた」との声もよく聞きます。今では、「日本一売れる米びつ」といわれるヒット商品に成長しました。

木育にぴったり!端材を使ったボードゲーム

「kirihacoプロジェクト」では、米びつを皮切りに、おうちのシルエットが愛らしいブックエンド「本の家」、最後までおいしくパンが楽しめる「パン箱」など、アイデアあふれる商品を発表してきました。

そのどれもが洗練されたシンプルな見た目でありながら、木の温もりを感じるプロダクト。
次はどんな商品が生まれるのだろうと期待が集まる中、誕生したのが『haco toy リバーシ』です。これまでの生活実用品から一転、趣向を変えたボードゲームが誕生したきっかけは何だったのでしょう。

藤井さん
『haco toy リバーシ』誕生のきっかけは、端材なんです。桐箱を作っていると、たくさんの端材が出てしまうのですが、もったいないと数年感じていました。

そんな中、2020年に新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、世間ではおうち時間が見直されることに。おうち時間が増えた中で、多くの人に喜んでもらえる何かを作りたいとデザイナーの小嶋さんに相談し、リバーシを作ることにしたんです。

今は、端材を使った商品というのは珍しくありません。皆さんも、どこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。とはいえ、端材にひと手間もふた手間も加えて、デザイン性を高めたものは少ない。せっかく作るなら、「余ったもの」ではなく、おうちに飾りたくなるようなものをと考えました。デザインは価格違いで2種類あります。一つ目は、Square。

ゲーム盤の土台でもある、コマの収納箱に桐を使用しています。桐箱で使う加工技術を存分に生かしたいと、コマはあえて四角に。収納箱の天板部分は透明のアクリル板を使っているので、コマで模様を作って片付ければ、そのままインテリアとして飾っておくことができます。

二つ目のDecoBocoは、その名の通りケース表面のデコボコしたデザインが特徴です。

デコボコ部分がそのままゲーム盤として活躍。そこに合わせるコマは八角形で、ゲーム盤のデコボコ部分にうまく引っかかりスムーズにコマを配置したり、返したりできるんです。

また、『haco toy リバーシ』のテーマの一つは「木育」。お子さんのおもちゃとしては珍しいかもしれませんが、どちらのデザインもあえて「角」を残しています。これは、木材の角の質感を感じてほしいから。また木材は使っているうちに、手の脂で光沢が出てきて、色も徐々に飴色になってきます。そんな木製品が育つ過程も楽しんでいただきたいですね。

デザイナーの小嶋健一さんからも、コメントをいただきました。

小嶋さん
藤井社長と「kirihaco プロジェクト」をスタートしてから、一貫してテーマにしているものがあります。 それは「桐箱」のメーカーである「増田桐箱店」の魅力や技術を引き出す商品にすることです。

今回の端材の利用という点でも同様で「端材だからゴミの二次利用にならない」ことを大切にしました。 「エコだから雑なデザイン」や「しぶしぶ使う道具」ではなく、全力でリバーシの商品開発をすることと、 大切な資源をちゃんと最後まで使いきれるようにする。それをテーマにしたときに新しいリバーシの形が生まれました。

SquareもDecoBocoも大きなパーツを極力減らしました。大きい端材は出にくく、細長かったり歪だったりするので、できるだけ小さなパーツや細長いパーツの集合体になる様にデザインしています。
Squareであれば、一番材料を使用する盤面をコマの形状で助けてもらってゲームが成立する様にデザインをまとめました。プレーヤー目線では高齢者や幼児がひっくり返しやすい様な形状にすること。ゲーム後の片付けにおいては綺麗なアートとしての面を持たせることなど、形以外の細部にもこだわっています。

DecoBocoは、厚みの違うパーツを盤面として配置することで、マス目の印刷を避けるとともに、小さな端材を利用しやすくしています。またその凹凸を利用するとコマをひっくり返しやすくなるようにしました。 コマの形が八角形なのは、そのひっくり返りやすさと、コマを製造する時の仕上げやすさを両立するために提案しました。増田桐箱店は、四角の箱を得意とするので、曲線より直線のデザインの方がストレスなくクオリティを高めることができます。

デザインの提案はかなりスピーディーにさせて頂きましたが、その分打合せの回数や試行錯誤のやり取りはこれまでの商品開発より多くなりました。 寸法はミリ単位で調整を行い、家に置きたくなるサイズ感や触り心地、視認性を高めるための細工など、手に取ってもらえれば「なるほど」と職人技を感じてもらえる商品です。

クラウドファンディングは、予想を超える女性からの支持が成功を後押し

登場したばかりの『haco toy リバーシ』ですが、すでに生産が追いついていないのだとか。実は開発時、クラウドファンディングで支援を呼びかけたところ、目標の15倍近い金額が集まったのです。

Makuakeのクラウドファンディングページ

藤井さん
クラウドファンディングに挑戦したのは、リアルな展示会を行うことができなかったからです。今のご時世、大規模な展示会は少ないですし、あったとしても何人ものお客さまに直に商品に触れてもらうわけにもいきません。とはいえ、それでは「桐製品」の良さは伝わりにくい。さらに、今回は商品だけではなく、端材の使用や木育への挑戦といったストーリーを、若い世代に知ってもらいたいと思ったんです。そこで、クラウドファンディングへチャレンジしました。

『haco toy リバーシ』は当初、30〜40代の男性をイメージして作っていた商品でしたが、こちらの予想とは違い、クラウドファンディングで支援いただいた方の6割が女性。クラウドファンディングのページでは、家族でわいわいとゲームを楽しむ写真を掲載したり、木育への思いを伝えたりしたのですが、その結果として多くの女性に支援いただけたことが、今回のチャレンジ成功につながったと感じています。

分野を問わない仲間たちとアイデアを集めて、桐箱の魅力を広げたい

日本に古くから伝わる桐箱に新しい価値を加えて、世に広める藤井さん。今後はどんな展開を考えているのでしょうか。

藤井さん
これまで、桐箱は使ったら捨てるものでした。一方、同じパッケージの役割を果たすものでもお菓子が入っていた缶は手元に置いている人がいます。その違いは、デザイン。今後は、桐箱にデザインや異素材を組み合わせることで、「手元に置いておきたい」と思える、二次利用できる桐箱を作っていくことが目標です。

とはいえ、長くこの仕事に携わっているとどんどん考えが凝り固まって、視野が狭くなってしまいます。今後は、桐箱業界に限らず、さまざまな分野で活躍されてきた方や伝統的なものづくりに興味がある方、異業種経験者の方を積極的に採用して、いろんなアイデアを組み合わせてものづくりをしていきたいと思っているんです。職人になりたい人だけじゃなく、例えば営業や企画、マーケティングなどいろんな視点からの声を集めて、ものづくりをしていきたい。興味がある方はぜひ、ご連絡ください!

高い機能性を持ちながら手が出しやすい価格と馴染みやすいデザイン、ときにはちょっとした遊び心も感じられるプロダクトがそろう「kirihacoプロジェクト」。『haco toy リバーシ』をはじめそこに秘められたストーリーを知ると、改めて手で触れ、そばに置いておきたくなります。『haco toy リバーシ』を除く商品は増田桐箱店のオンラインショップのほか、中央区薬院にある「福岡生活道具」で販売中。『haco toy リバーシ』は、生産が追いつき次第、2021年内にも販売予定です。実際に見て、触れて、桐製品の魅力を体感してみてはいかがでしょう。

■増田桐箱店
昭和4年、工芸品、呉服、贈答品向けの桐箱・桐製品のメーカーとして福岡市で創業。
平成26年には、福岡のデザイナーと手を組み「kirihacoプロジェクト」を立ち上げ。桐箱の知名度アップをはかり、生活に寄り添った様々な桐箱製品を開発している。

■福岡生活道具店
住所:福岡市中央区薬院4丁目8-30 P&R薬院 2F
電話番号:092-688-8213
営業時間:10:00〜19:00
店休日:月曜(そのほか、不定休)
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