【大学野球】「野球の本や動画は見ない」ドラフト待つ“ポスト坂本”関大・野口の意外な信念

関西大・野口智哉【写真:市川いずみ】

遠投125メートルの強肩、関大では1年春から外野で出場

情報社会にいて非常に珍しいタイプの選手だ。関西大のドラフト候補、野口智哉内野手は「野球の本や動画は見ない」という。自主性が強く入学前から口にしていた「4年後にはプロに」という目標に向かって3年半を駆け抜けてきた。関大・早瀬万豊監督も呆れるほどの「野球小僧」が運命の日を前に心境を語った。

奈良県橿原市出身。身長181センチ、体重86キロと大型内野手でありながら50メートル走は6秒ちょうどとスピードもある野口は、小学1年で野球を始めた。6年時には「オリックスジュニア」に選出され、地元の天理高校に憧れて練習に励んでいた。しかし、中学3年間を経て当時の実力で天理進学は叶わず。それでも甲子園に出場したいと親元を離れて鳴門渦潮(徳島)へ進学し、3年夏に聖地の土を踏んだ。

専門は内野だが外野もこなす。遠投125メートル超の強肩が自慢で、甲子園では投手としてマウンドにも上がった。どこでもこなせるユーティリティプレーヤーは4年後にドラフト上位でプロの世界へ飛び込むことを目標に、関大でスタートを切った。

1年春から外野手でレギュラーになり、リーグ7位の打率.364をマーク。1年生でただ一人、大学日本代表候補に選出されるなど順調なスタートを切った。しかし、大きな壁は秋にすぐやってきた。秋季リーグ戦の打率は.140と急降下。「春に結構いい打率残して、秋もこれぐらいいけるかなって思っていたんですけど、この時に『もっとやらんとあかんな』っていう風に意識しました」と振り返る。早瀬監督が「ずっと練習していますね。ほんまに野球が好きなんですよ」と話すように、それまでも誰よりも練習はしていた。ただ、打撃など好きな練習に多くの時間を割き、苦手なことには取り組んでこなかったという。

関西学生野球秋季リーグ残り4戦で、通算100安打まであと4本

「人って好きなことやったらいくらでもできるんですよね。当時はトレーニングしたり走ったりすることが嫌いやったんでそういうのを取り入れるようになりました」。グラウンドの照明が消える午後8時以降も室内練習場に移動して連日午後10時まで汗を流した。野口は自分が成長する瞬間を何度か感じてきたというが、この1年秋のリーグ戦終了後から2年春までの期間が最も成長できたと振り返った。2年春に遊撃のレギュラーを掴み、打率.373でリーグ3位、初本塁打も記録。2年秋にはリーグ2位の打率.352で初のベストナインにも輝いた。10月4日時点で通算96安打とし、目標にしてきた100安打まであと4本に迫っている。

憧れの選手には同じ遊撃手の巨人の坂本勇人を挙げる。だが「野球の本や動画は見ない」という。あれもこれもと野球関連の情報をインプットしないのもスマートな思考所以か。「誰のどこを取ったらいいとかわかんないんで。自分に合うかどうかも分からない。きっかけがあるかもしれないなと思ったら、(動画を)見ることもありますけど2、3個だけですね」と語る。

ベストセラー作家、東野圭吾の推理小説がお気に入りの野口は「多分考えるのが好きなんですよね」と笑う。プロ野球中継も「自分ならこの球種を待つなあ」と考えながら観戦し、就寝時も「目を瞑ったら野球の事ばかり考えています」というほど大好きな野球のことで頭がいっぱいだ。

爽やかなマスクの“野球小僧”は幼いころからの夢が叶う日を「嫌っすね~、早く終わってほしいです。楽しみもあるんですけど、どんな評価をされているのか分からないんで」と緊張気味。ドラフト会議で指名を受ければ、関大では今季限りでの現役引退を先日表明した阪神の岩田稔投手以来となる。プロ野球志望届は「綺麗に書こうと結構本気を出した」という22歳。あとはその時を静かに待つ。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。NHKワースポ×MLBの土日キャスター。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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