<南風>一流に学ぶ

 会社を立ち上げ間もないころ努力しても行き詰まり息子のハンディと向き合うも前へ踏み出せなくなった時期があった。そんな時に「自分自身と向き合うこと」の大切さを教えてくれたのが、音楽の世界だった。

 さまざまなことに自信をなくしていた当時、声を整えることで全てが変わるような気がした。ある方のご縁から、学ぶ先は伝説の歌姫ジャズシンガーの与世山澄子さんだった。

 与世山さんといえば、アメリカ統治さなかの沖縄で最も注目を浴び、1980年代には世界的なジャズピアニストのマル・ウォルドロンとCDを発表。有名ドキュメンタリー番組での特集など、名実ともに、日本屈指の実力派ジャズヴォーカリストである。

 一流の先生からのマンツーマンレッスン。憧れの人に会いに行くように浮かれていられるのは最初だけ。ジャズ素人の私は、英語の発音から厳しく指導を受けることになり、落ち込むこともしばしば。それでも必死でプロの歌声を聴き、その答えを探し求めた。

 「必死で向き合いなさい、本物を聴きなさい」。先生はいつも、いとおしそうに年季の入った楽譜たちを手に基礎の大切さを教えてくれた。それから数年がたち何度かステージを経験する機会があった。そこで私が学んだのは、自分自身と真剣に向き合うことだった。

 歌での学びがあったからこそ、ピンチをチャンスと捉え南城市でアトリエを構える勇気をもらえたし、子どもたちとも日々の小さな幸せを共に喜び、過ごせている。そして一流に学ぶは「その空気感とたたずまい、気品ある生き様」なのだと心から感じている。

 仕事が忙しくなりレッスンへは通えなくなってしまったが、今でも人生のはざまに立った時には大好きなジャズの曲を聴く。先生の、一流の気品をまとった姿を思い出しながら。

 (宮平亜矢子、フラワーアーティスト)

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