ロジャー・テイラー:クイーンの名曲に輝きを与える星のような存在を振り返る

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第52回。今回は、2021年10月1日に8年ぶりのソロ・アルバム『Outsider』が発売されたロジャー・テイラー(Roger Taylor)について。

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ロジャー・テイラーの『Outsider』がリリースされました。なんと8年振りのソロ・アルバムとのことです。70年代、クイーンのメンバーの中で誰よりも早く、バンドの活動と並行してソロ活動を始めたロジャー。1977年、限定盤としてリリースしたジョージ・クリントン率いるザ・パーラメンツ(The Parliaments)のカバー楽曲「I Wanna Testify」がソロのスタートでした。

当時ファンの間では、ロジャーがジョージ・クリントンの楽曲をピックアップしたことが話題になりましたが、高校生だった私は、ロジャーがソロで表現したかったことを私なりに追求し、浅くではありますがPファンクを聴き始めたものです。好きなアーティストが求めるものを知りたくなるのが、ファン心理というものですからね。浅〜いPファンク知識を得た豆記者の私は、リズム隊としてのロジャーが求めたものは、ブラック・ミュージックへの傾倒だろう、という結論に至ったのです。

1977年は、クイーンが『News of the World(世界に捧ぐ)』を発表した年です。『A Night at the Opera(オペラ座の夜)』『A Day at the Races(華麗なるレース)』の成功により、アメリカ制覇への足掛かりを掴んだ彼らが、『News of the World』に収録した「We Will Rock You」「We Are The Champions」で、さらにその人気を不動のものにしました。

この時代にロジャーがソロをリリースした意味はなんだったのか?当時のMusic Life誌の塚越みどりさんのインタビューを読むと、「遊びみたいなもの」と答えていたロジャーでした。もしかしたら、それは照れだったのでしょうか?ドラマーであり、ヴォーカリストであるロジャー・テイラーでありたいという強い思いがあったのだと私は思います。

ロジャーはクイーンのファースト・アルバムで自作曲「Modern Times Rock’n’Roll」を歌っています。この曲はグラム・ロックの印象が強かったクイーン・サウンドに、ストレートなロックンロールもあるのだとアピールしました。

セカンド・アルバム『Queen Ⅱ』では「The Loser In The End」。このアルバムはコンセプチャルな作品でしたので、流れを大切にしながらも「Some Day One Day」の包むようなサウンドから一変したロジャーの力強いドラムとハスキーなヴォーカルがアルバムをより一層華やか仕上げました。”ホワイト・サイド”のラストを飾った曲ですが、CDでは”ブラック・サイド”のオープニング曲「Ogre Battle」に繋がり、曲調が一転する予兆を感じさせる曲になっています。

サード・アルバム『Sheer Heart Attack』では、名曲「Killer Queen」の後にロジャーの「Tenement Funster」が続きます。これまでの力強いヴォーカルから、導入は少し抑えめで、楽曲が盛り上がっていくと、彼独特のパワーあるヴォーカルが、ギターやベースが引き立つへヴィーなサウンドに乗って聴くことができます。バックヴォーカルのスタイルにブラック・ミュージックの要素を感じたのは私だけでしょうか?! この曲から、フレディーのピアノが奏でられる「Flick Of The Wrist」に繋がるのですが、これが絶妙な流れなんです。つまりロジャーの作品、ヴォーカル曲は、クイーン・サウンドのアクセントなのではなく、クイーンの名曲に輝きを与える星のような存在であることがわかります。

4枚目の『A Night at the Opera』に収録されたロジャー楽曲「I’m In Love With My Car」は、映画『ボヘミアン・ラプソディ』のエピソードにも描かれていましたね。もしかしたら、映画のストーリーからロジャー作品が、ロックンロール一辺倒のように思われてしまった方がいるかもしれませんが、そんな方には、ぜひクイーンの1~3枚目を聴いていただきたいです。ただ「I’m In Love With My Car」のようなシンプルなロックもロジャーの魅力の一つであることには変わりありません。

クイーンの魅力を改めて考えてみました。このバンドには、フレディ・マーキュリーという唯一無二のヴォーカリストが存在していますが(過去形の表現にはできません)、ギター・サウンドに乗せたブライアン・メイの楽曲には、フレディの表現とブライアンの表現の2つのタイプの楽曲が生まれ、さらに、ロジャー・テイラーのハスキー・ヴォイスが、クイーン・サウンドのメインにも成りうる大きなエッセンスとなっています。

つまり、一つのバンドに、3人の個性的なヴォーカリストが存在するのが、クイーンの大きな魅力であり、強みと言えます。『Made In Heaven』に収録されている「Let Me Live」を聴くと、3人の魅力的なヴォーカルが均等にミックスされ、フレディが亡くなった後に制作されたと言う特別な理由はありますが、3人のヴォーカリストとしての存在がクイーンにとっては不可欠であることがわかります。明記するまでもありませんが、ジョンはメインでは歌いませんが、彼の役割は別のところにたくさんあります。

ロジャーの8年振りのソロ・アルバム『Outsider』は、アダム・ランバートを迎えたツアー、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の世界的な成功を経て生まれた作品ではありますが、あくまでもコロナ禍の時代にロジャーが表現したかった、心の内の世界を音に託したアルバムと言う印象を受けました。過去の楽曲の新ミックスを織り込み、ドラマーとしての作品ではなく、音はあくまでもシンプルに、ヴォーカルのパワーで伝えていく、そんなアルバムになっています。

Written By 今泉圭姫子

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ロジャー・テイラー『Outsider』
2021年10月1日発売

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