【大学野球】平日は7人で練習、週末は移動で2時間半… プロ目指す2人の国立大理系右腕の歩み

静岡大・石田雄大(左)と井手駿【写真:間淳、学校提供】

静岡大理系の学生が通う浜松キャンパスには専用グラウンドやブルペンがない

平日練習は部員7人で指導者はいない。ブルペンもない練習環境で4年間を過ごした2人の投手がプロを目指している。しかも、ともに国立大の理系。静岡大・工学部の石田雄大(いしだ・ゆうた)投手と、井手駿(いで・はやた)投手は「育成でもプロに行きたい」と運命の日を待っている。【間淳】

静岡大には県内に2つのキャンパスがある。文系の学部がある静岡市の「静岡キャンパス」と、理系の学生が通う浜松市の「浜松キャンパス」。両キャンパスは約80キロ離れている。

1952年に創部した野球部の歴代部員は、ほとんどが文系。そのため、練習グラウンドは静岡キャンパスにしかない。プロ志望届を提出した石田と井手は工学部に在籍する、極めて珍しい理系の野球部員。授業のある平日は全体練習に加われず、浜松キャンパスで練習する。

週末の練習に向け、車がない時には土曜日の朝6時過ぎに電車に乗って静岡市へ。そこからバスに乗り換えて静岡キャンパスで練習した。移動には2時間半ほどかかる。土日に試合がある時は前日に静岡市へ向かい、チームメートの部屋に宿泊させてもらっている。

石田も井手も「この環境だから考えながら練習をして、力を伸ばすことができた」と前向きに話す。ただ、想像以上に厳しい環境だ。浜松キャンパスの部員が練習するのは、サッカー用の人工芝。マウンドやブルペンはない。メジャーで距離を測ってダイヤモンドをつくり、ノックをする。理系の部員は7人だけ。監督やコーチら指導者もいない。石田と井手の姿を見て「理系でも野球ができる」と後輩が3人加わったが、2人が入部した時に先輩は1人もおらず、今以上に練習メニューが限られていたという。

それでも、環境を言い訳にしなかった。個々で自分に合った練習メニューを考え、体を鍛えて技術を磨いた。市営のジムに通って筋力トレーニングをしたり、費用を支払って外部の人から指導を受けたりもしたという。

井手「自分の意識を変えれば能力は伸ばせる」

浜松キャンパスでは投球練習ができない分、石田はキャッチボールを大切にしてきた。投球と同じように体全体を使い、体重移動を意識して1球1球丁寧にボールを投げる。日々の練習から目標を具体化、数値化し、ストレートの球速は150キロを掲げた。現在の最速は148キロまで上がり「自分でしっかりと目的意識を持って練習すれば、力がつくことを証明しようと思って4年間やってきた」と話す。

井手はSNSで発信されているトレーニングから自分に合った内容を選び、自身のメニューに加えている。高校時代は長距離のランニングが多かったが、球速を上げるにはダッシュと体のバネを意識したトレーニングが必要だと考えた。陸上部の友人に話を聞いて、個人練習のメニューに取り入れた。

高校3年生の夏に最速133キロだったストレートは、4年間で148キロまでアップ。プロ野球のスカウトが視察するレベルに達し「自分の意識を変えれば能力は伸ばせる。プロを目指せるところまで頑張ることを大学の1つの目標にしていた」と語った。

そして、石田と井手が4年間、難しい環境で努力し続けられたのは互いの存在がある。石田は「同級生の井手が高い意識でプロを目指していたので負けずにやろうという気持ちだった」と、ここまでの歩みを振り返る。

2人とも育成指名であっても「プロに行きたい」と覚悟を口にする。場所、人数、時間。限られた条件で着実にステップアップしてきた石田と井手は、次のステージに進めるのか。吉報を待つ。(間淳 / Jun Aida)

© 株式会社Creative2