ドラフト1位確実「投手5傑」に五十嵐亮太が注目 高校ビッグ3+完成度の高い大学生2人とは

スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。元プロ野球選手の五十嵐亮太とスポーツキャスターの秋山真凜がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回はスカイAの人気番組「プロ野球仮想ドラフト会議」とのコラボ企画として、同番組に出演するスポーツライターの西尾典文がゲストに登場。年間300試合以上を現地で取材し、各球団のスカウトにもその名を知られるという同氏が、ドラフト会議にまつわるエピソードと、今年の注目選手を語り尽くす。

(構成=篠幸彦、撮影=大木雄介)

ヤクルトは東京六大学の選手を取りがち? 五十嵐亮太も納得の“球団あるある”

五十嵐:ドラフトは各球団の戦力を総合的に見たときに、こういう選手を取るだろうなというのはわかるじゃないですか。それ以外に、「この球団はこういった選手を取りがちだな」とか、そういう傾向はあるんですか?

西尾:傾向はどうしてもあると思います。一昔前だとオリックスは徹底的に社会人の選手を取ってきました。阪急ブレーブス時代の山田久志さん(←富士鉄釜石/現在休部)、加藤秀司さん(←松下電器/現パナソニック)、福本豊さん(←松下電器)の3人が同じ1968年のドラフトなんですけど、3人とも名球会入りされています。この年は“史上最高の指名”といわれているくらいなんですが、3人とも社会人出身なんですよ。この成功があったからかはわからないですけど、そこから社会人選手をずっと上位で取ってくることが多かったんです。

五十嵐:そういうジンクスみたいなものはあると思いますね。

西尾:ただ、ここ4年くらいでガラッと変わって、最近では高校生が多くなってきましたね。

五十嵐:社会人、大学生はいってみれば即戦力ですからね。そこを取りたいのはわかるんだけど、それと並行して若い選手を取って育成していくことも必要だから両方をやり始めたということですよね。

西尾:あと五十嵐さんが在籍されたヤクルトは神宮球場が本拠地なので、東京六大学の選手が多いんですよ。

五十嵐:確かに多いですね。

西尾:東京六大学で目玉が出たらヤクルトは“神宮のスター”ということで取りにいきやすい傾向があります。ちょっと聞いたところでは、くじは外しましたけど、斎藤佑樹投手(早稲田大学→日本ハム)は下級生の頃から「4年生になったら1位でいく」と決まっていたと八重樫幸雄さんから聞きました。

五十嵐:しかも東京六大学出身の選手はけっこう活躍していますからね。そういう過去の例もあって、それが継続されているのかもしれないですね。

西尾:それから西武は“地方大学の選手をよく取る”という傾向もあります。今だと山川穂高選手と外崎修汰選手は富士大学という岩手の大学で、メジャー(リーグ)にいった秋山翔吾選手は同じリーグで青森の八戸大学(現八戸学院大学)出身です。地方の大学の選手はあまり知られていないので「誰これ?」という選手がけっこうスターになっていますね。西武のスカウトの方は他の球団の方と現地で一緒に見ることがなく、ちょっと離れたところから見ていて独自色が強いんですよね。

五十嵐:面白いですねえ。これは球団あるあるですね。

ドラフト当日のハプニング 前代未聞のくじ順ミス

秋山:西尾さんが印象に残っている過去のドラフト会議はありますか?

西尾:じつは五十嵐さんと同い年(1979年生まれ)なんですけど、やっぱり高校3年生のときから(ドラフト会議を)意識し始めたんですよね。当時の雑誌を持ってきたんですけど、これは五十嵐さんがヤクルトに指名されたときのものです。

五十嵐:「プロ野球ドラフト史 1998年度版」ですよ。

西尾:五十嵐さんは1997年のドラフトでヤクルト2位指名だったんですけど、この年は平安高校の川口知哉投手が高校ナンバーワンといわれて4球団の指名を受けてオリックスに入団したんですよね。同級生にこんなすごい投手たちがいるんだなと思ったのがドラフトを意識し始めるきっかけで、その中の一人が五十嵐さんでした。

五十嵐:ドラフト会議はいろんなドラマがありますよね。当時のことを話すと、高校生なのでドラフト会議中は校長室のテレビで見ていたんですね。ヤクルトが1位で川口投手を指名して外れて、敦賀気比高校の三上真司投手が1位指名になったんです。それからヤクルトは2位も外して僕が繰り上がりで2位になったんですけど、そのときくじ順にミスがあったんですよ。くじを引いたのは当時の野村(克也)監督でしたけど、覚えてますか?

西尾:覚えてます。記事にもちゃんと「くじ順ミスがあった」と載っていますよ。

五十嵐:本当だ。仙台育英高校の新沼慎二選手の2位指名でのくじでしたけど、そのくじ順にミスがあったと外した側の2球団が抗議したんです。それで会議が開かれちゃったんですよ。ドラフトは一時中断されて、テレビ中継も終わっちゃったのでラジオに切り替えて聞いていました。それで結局、くじ順ミスは認められず、そのままになって結果的に僕が2位になったことをラジオで聞いていました。もう自分がドラフトにかかるのか、かからないのか、ソワソワしながら聞いていたのをよく覚えていますね。

秋山:そんなことなかなかないですよね?

西尾:ないですね。くじの順番を間違えることはすごく珍しいんですけど、ドラフト当日のハプニングというのはけっこうあるんですよね。

五十嵐:僕はそのハプニングの当事者なんですけど、他にもけっこうありますよね。

西尾:最近だと2015年にヤクルト元監督の真中満さんが、(くじを外していたが髙山俊選手(明治大学→阪神)を引き当てたと勘違いして)すごいガッツポーズをしてみんな勘違いしちゃったんですけど、あれでルールが変わったんですよね。真中さんのおかげで今は外れくじは全部白紙になりましたけど、それ以前は外れくじにもNPBのマークが付いていたんですよ。

五十嵐:ややこしいですよね。真中さんも後で「ガッツポーズ返してほしい」って言ってましたよ(笑)。

西尾:そうですよね。真中さんもネタにしていますけど、あそこまで劇的にガッツポーズをして外したのは史上初だと思います。

じつは元ヤクルト五十嵐亮太はロッテ行きが決まっていた?

五十嵐:正直にいうと、僕は千葉の敬愛学園高校だったこともあって(同じ千葉の)ロッテ3位が確実だったんですよ。

西尾:おお、今だから言える話ですね。

五十嵐:僕の時代は1位、2位が逆指名制で、3位からがウェーバーでしたよね?

西尾:そうですね。

五十嵐:ウェーバーは最下位のチームからどんどん取っていくという制度で、前年のパ・リーグの最下位がロッテだったんですよ。そのときは高橋由伸さんが超注目選手でヤクルトも競っていたので(慶應義塾大学→逆指名1位で巨人)、「(ヤクルトからは)1位、2位は逆指名で取るから、その結果によって順位も変わるけど、3位よりも上の順位で取るのは難しい」と言われていて、ロッテ行きがほぼ決まっていました。

西尾:そうだったんですね。

五十嵐:それでロッテの球団関係者とかに会うじゃないですか。「3位で確実に取るから」と言われて、いろんな話を進めていたんですよ。

西尾:そこでヤクルトが横取りしたわけですね。

五十嵐:結局、ヤクルトは高橋さんを取れなくて、1位、2位も外して、その繰り上がりで僕が2位でヤクルトになったんですよね。ドラフトの裏側ではそんなドラマがけっこうあるんですよ。

秋山:まだ伝えられていないドラマがたくさんあるんですね。

五十嵐:それこそ僕の大先輩の古田敦也さんはドラフトで指名漏れしたんでしたっけ?

西尾:立命館大学4年生のときに会見場まで設けたのに指名漏れして、古田さんは「すみませんでした」と謝っていました。「なんで俺謝ってるんだろう」っておっしゃっていましたね。「眼鏡をかけたキャッチャーは大成しない」というジンクスがあって避けられたという話でした。

五十嵐:そういう話を聞いたときに、ちょっと残酷だなと思いましたね。記者の人たちが大勢いる中でドラフトにかからないって本人も本当につらいと思うんですよ。謝る必要はないんですけど、謝ってしまう気持ちはわかりますよね。

今年の注目選手・野手編 東京六大学のスタースラッガー

秋山:今年のドラフトの目玉となる注目選手を紹介していただきたいんですが、まずは野手から教えてください。

西尾:今年は野手に関してそこまで飛び抜けた目玉という選手はいないんですよ。少し割れそうなんですけど、その中でも一番人気になるんじゃないかといわれているのが慶應義塾大学の正木智也選手です。

わかりやすくいうと右のスラッガー。東京六大学でも通算10本のホームランを打っていますし、軽々とスタンド中段まで打った瞬間にわかるようなホームランを打てる選手なので六大学のスターです。そういうブランドもあって、おそらく早ければ1位、遅くても2位にはきそうかなという選手ですね。

五十嵐:僕も先ほど動画を拝見したんですけど、非常に柔らかいスイングで飛距離も出せるので、打率もけっこう残せるんじゃないですか?

西尾:そうですね。同じ慶應出身に楽天の岩見雅紀選手がいるんですが、岩見選手よりも正木選手のほうが通算打率は高いですね。どちらかというと岩見選手は腕力で飛ばすタイプだったんですけど、正木選手は全身を使って柔らかく打てるので、めちゃくちゃ高いわけではないですけど3割を打っているシーズンもあり、打率もある程度期待できると思います。だから野手が欲しい球団、今でいうと中日とかはけっこう熱心に視察にも来ていますし、たぶん上位に入るんじゃないかと思います。

五十嵐:中日は即戦力として使える選手が欲しいから面白いですね。

西尾:ただ、一応外野とファーストやっているんですけど、守備と足はそんなに目立たないので、そこを中日は迷っているんじゃないかなと思います。やっぱりナゴヤドームは広いし、ファーストにはダヤン・ビシエドがいるので外野でいけるかなと、そこは注意深く見ているんじゃないかと思いますね。

五十嵐:なるほど、すごく分析されていますね。次の選手は?

西尾:高校生では同じ長距離砲の岐阜第一高校の阪口樂選手。甲子園には出ていないので、普段高校野球を見ている方でもなじみがないかもしれないですね。去年の夏、2年生のときに長良川球場というけっこう広い球場で、1試合で2本、左中間とライトの中段に飛ばして一気に全国的に有名になりました。

じつはピッチャーなんです。エースで4番なんですけど、3年生になってからピッチャーのほうの負担が大きくて、マークもされているので結果は出ていません。でも持っているバッターとしてのスケールは高校生の中では1番ではないかといわれています。

五十嵐:左バッターで、身長も大きいですよね?

西尾:大きいです。187〜188cmくらいあります。

秋山:いわゆる二刀流ですか?

西尾:そうですね。ただ、本人もプロの評価も野手だと思います。高校生としては良いピッチャーなんですけど、スピードも140km出るか、出ないかくらいなので、プロでは野手として、という感じですね。

五十嵐:じゃあどこを守るかはプロに入ってからということですよね。

西尾:そうですね。投げていないときはファーストを守ることが多かったんですけど、肩の強さがあるので、おそらく外野じゃないかと思いますね。

今年の注目選手・投手編 ドラフト1位確実の5人

西尾:今年の目玉はどちらかというと投手なんですよ。1位指名で12球団が投手になる可能性があるくらい有力選手が多くてですね。その中でも中心になるといわれているのが、高校生の3人なんです。

夏の甲子園にも出たノースアジア大明桜高校の風間球打投手。春のセンバツに出ていた市立和歌山高校の小園健太投手。高知高校の森木大智投手。森木投手は甲子園には出られなかったんですけど、中学時代から軟式で150km投げたことですごく話題になりました。

3人とも最速は150kmを超えますし、体もスケールも大きくて、いわゆる右の本格派のピッチャーです。将来のエース候補が欲しい球団はこの3人にいくんじゃないかといわれていますね。

五十嵐:僕も3人を見ましたけど、元気な投げ方をしますよ。

秋山:高校生らしいですか?

五十嵐:そう、若さあふれるというか。でもやっぱり力で投げられちゃうんですよね。そのへんをどう修正するかというのが大事になってきますね。ただ、力を発揮する能力があるかどうかが重要で、この3人にはその能力があるのでここからの伸びしろが非常に楽しみです。

西尾:先ほど五十嵐さんに映像を見ていただきましたけど、それぞれ特徴があるというか、3人とも同じ右の本格派の速いピッチャーなんですけど、ちょっとタイプが違うんですよね。

五十嵐:そうですね。

西尾:小園投手はコントロールが良くて、ツーシームとかカットボールをよく投げるんですけど、投球術とか、この中では一番大人っぽいピッチャー。逆に風間投手は真上から投げ下ろしてくるような感じで、角度がすごいんですよ。身長は182〜183cmなんですけどもっと大きく見えるんですよね。腕も長いので190cmくらいから投げてくるような感じがします。森木投手はその間というか、バランスの良いフォームでスピードもあるんですけど、変化球も安定しています。じゃあ誰がナンバーワンかといわれると、好みが分かれる感じですね。

五十嵐:わかる。好みですね。

秋山:じゃあ球団によって変わっちゃう感じですね。

五十嵐:ある程度フォームは調整されていくので、そこを見据えてどういう選手に育っていくのかというイメージは、球団によって違ってくると思いますね。

西尾:その3人のほかに、大学生も紹介させていただくと、筑波大学の佐藤隼輔投手、それから西日本工業大学の隅田知一郎投手。2人ともサウスポーで、東京六大学と比べると地方なのであまりなじみがないかもしれないですけど、先ほどの3人よりも当然完成度の高い投手です。将来性を取るか、なるべく早く使えるピッチャーを取るか。そういう選択になってくるんじゃないかと思います。

秋山:球団によってどういった選手が欲しいかで違ってくるということなんですね。

西尾:そうなんですよ。この5人は1位指名がほぼ間違いないといっていいと思うんですけど、「この5人の誰がナンバーワンか」ではなくて、今年に関しては球団の需要とか好みによってバラけそうな気がします。

五十嵐:楽しみですねえ。

<了>

10月9日(土)AM9:00~のInterFM897「REAL SPORTS」では、「五十嵐亮太的プロ野球ドラフト会議」と銘打ち、11日に行われるドラフト会議本番に先駆けてREAL SPORTS独自のドラフト会議を行う。五十嵐が一体どの選手を指名するのか注目だ。
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