NHK・Eテレ「100分de名著 ヘミングウェイスペシャル」に出演中の著者が、ポー、メルヴィル、フィッツジェラルドらの作品に挑む『教養としてのアメリカ短篇小説』発売!

早稲田大学文学学術院教授(翻訳家・アメリカ文学研究者)の都甲幸治による『教養としてのアメリカ短篇小説』が10月15日(金)に発売。 先ごろ出版された『ノーベル文学賞のすべて』(※1)で編著をつとめた都甲幸治。 自身も「今まで自分はマイノリティ文学に特化して読んできた」(※2)と書いているように、 ジュノ・ディアス(※3)の翻訳などで知られるアメリカ文学研究者。 本書では、 そんな「世界文学の案内人」である都甲さんが、 エドガー・アラン・ポーやマーク・トウェインなど、 アメリカ文学の「王道」ともいえる作家の短篇小説を読み解いていく。

アメリカ文学をより深く理解する

現代の日本に暮らす私たちにとって、 アメリカ合衆国は映画やドラマ、 音楽を通じてその文化に触れる機会が多く、 また大統領選挙の報道などニュースを通じて多くの情報が入ってくる「とても親しみのある国」だろう。 一方で、 日本とはまったく違う歴史、 文化、 社会を背景としているため、 「すんなりとは理解できない、 分かりにくい部分」も多くあると著者は言う。 本書は、 そうした背景知識についても触れながら、 近くて遠い国・アメリカの文学をより深く理解できるようになることを目指している。 各章は、 解説する短篇小説のあらすじを紹介した後、 作家の経歴と、 その作品を理解するための背景知識などを解説し、 また小説の具体的な記述に戻って細部を読み解いていく構成。 アメリカ文学を理解するための背景知識は、 戦争の歴史や人種差別からアルコール依存症の問題まで多岐にわたる。 たとえばエドガー・アラン・ポーの「黒猫」を扱う第1講では、 この作品における、 酒に溺れて理性が崩壊していく主人公の造形と猫の黒さがもたらす効果について考察。 その際、 アメリカ合衆国におけるアルコール依存症の問題や、 ノーベル賞作家トニ・モリスン(※4)が『白さと想像力』という著作で展開している「アメリカ文学では表面上まったく人種問題と関係なく見える作品でも色のイメージが人種のほのめかしになっている」という議論などを参照しながら、 「復讐されることへの不安」という主題を見いだしていく。 取り上げる作品は、 日本語訳が文庫などで手に入るものばかり。 講義の配列は作家の生年順としているので、 19世紀から現在にいたるアメリカ文学史のおおまかな見取り図を把握することもできる内容になっている。 著者の都甲幸治さんは現在、 NHK・Eテレで月曜午後10時25分から放送中の「100分de名著 ヘミングウェイ スペシャル」(10月期)に指南役として出演し、 『老人と海』『敗れざる者』『移動祝祭日』について解説。 本書にはヘミングウェイの短篇「白い象のような山並み」を扱った章もあり、 番組を見て著者に興味を持った方にもぜひ手に取っていただきたい一冊。 ※1 立東舎、 2021年9月刊 ※2 本書「おわりに」より ※3 ドミニカ共和国生まれでアメリカ合衆国に移民した小説家 ※4 アメリカの黒人女性として初めてノーベル文学賞を受賞した作家。 『青い目がほしい』『ビラヴド』などの作品で知られる。 『白さと想像力』は、 文学における黒人表象についてのハーバード大学での講演をベースにしたアメリカ文学論。

目次

イントロダクション 第1講 暴力と不安の連鎖――ポー「黒猫」 第2講 屹立する剝き出しの身体――メルヴィル「書記バートルビー――ウォール街の物語」 第3講 英雄の物語ではない戦争――トウェイン「失敗に終わった行軍の個人史」 第4講 共同体から疎外された者の祈り――アンダソン「手」 第5講 セルフ・コントロールの幻想――フィッツジェラルド「バビロン再訪」 第6講 存在の基盤が崩れるとき――フォークナー「孫むすめ」 第7講 妊娠をめぐる「対決」――ヘミングウェイ「白い象のような山並み」 第8講 人生に立ち向かうためのユーモア――サリンジャー「エズメに――愛と悲惨をこめて」 第9講 美しい世界と、 その崩壊――カポーティー「クリスマスの思い出」 第10講 救いなき人生と、 噴出する愛――オコナー「善人はなかなかいない」 第11講 言葉をもたなかった者たちの文学――カーヴァー「足もとに流れる深い川」 第12講 ヴェトナム戦争というトラウマ――オブライエン「レイニー河で」 第13講 愛の可能性の断片――リー「優しさ」

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