UCCと国際航業、ハワイなどのコーヒー農園を衛星リモートセンシング技術で観測し気候変動対策

Gerson Cifuentes

気候変動リスクの観点から、また責任ある原材料調達の観点からも、企業にとって、サプライチェーン上で起きていることを常に把握し、問題があれば迅速かつ適切な対応を取ることが必須である時代。人工衛星に搭載したセンサーから取得した情報を解析する“衛星リモートセンシング”の技術によって、世界に広がる生産地の様子をモニタリングする実証実験が始まっている。UCC上島珈琲(神戸市)と国際航業(東京・新宿)が協業し、ジャマイカとハワイにあるUCC直営のコーヒー農園の状況を、国際航業の人工衛星画像を用いた空間計測技術を使って観測。コーヒーノキ(コーヒーの木)の生育診断指標や、そのシェードツリー(陰樹)による二酸化炭素の吸収量の評価などを通じて気候変動緩和指標の開発を行うことで農園を効率的に運営し、ひいては持続可能なコーヒー産業の発展に貢献することを目的とするプロジェクトだ。(廣末智子)

コロナ禍で現地指導ままならず、遠隔計測技術の活用ニーズ増す

衛星リモートセンシング技術とは、人工衛星に搭載したセンサーで、対象物が反射・放射する電磁波を遠隔から計測することによって物体の形状や性質などを識別する技術のこと。世界的にサステナブル消費への関心と、企業に対する非財務情報開示の機運が高まる中、気候変動の影響により作物の栽培環境が変化しているにもかかわらず、コロナ禍で現地での農園指導が困難となっていることなどから、その活用ニーズが増しているという。

今回のプロジェクトもまさにそのような背景から生まれた。国際航業は、人工衛星画像の利用がスタートした1970年代から衛星リモートセンシング技術の向上に取り組んでおり、その手法は、同社の核となるテクノロジー技術として確立している。一方、ジャマイカとハワイの直営農園をはじめ南米やアフリカなど世界のコーヒー豆生産国に原料の調達先が広がるUCCは、コロナ禍で現地の情報収集がしづらくなったと感じていた。そこに、国際航業からリモートセンシング技術を活用したソリューションの提案があり、同技術を採り入れることによって、人の目だけに頼るのでなく、より客観的な情報収集を行える上、観察の頻度を増やすことができるなど、営農支援につなげる上でメリットが多いと判断し、提案を受け入れたのだ。

UCCによると、当初は「ハワイの農園をドナーとして国際航業に貸し出す程度」で検討していたが、「コロナ禍における遠隔地の管理の観点から、その必要性と重要性を再認識するに至った」ことが協業の決め手となったという。

コーヒーノキの「生育診断指標」など開発へ

実証実験は、UCCのジャマイカ直営農園と、ハワイ直営農園で、それぞれコーヒーノキと、そのシェードツリーのモニタリングを実施。コーヒーノキの観測を通じては、コーヒー豆の生産量や質を測る指標と、サビ病などの病虫害を検出する技術を組み合わせた「生育診断指標」を、またシェードツリーの観測からは、周辺森林とシェードツリーの類似性を評価し、自然植生の維持管理や、シェードツリーによる二酸化炭素(CO2)吸収量を数値化する「気候変動緩和指標」をそれぞれ開発する。

同社によると、コーヒーノキは強い日差しに弱く、栽培には一緒に植えて日陰の役割を果たしてもらうためのシェードツリーが欠くことのできない大切な存在で、このシェードツリーの管理に、実験で得た「気候変動指標」を役立てることで、生物多様性の保全や、気候変動への貢献度を向上させることも重要な目的の一つだ。

実験は、内閣府の課題解決に向けた宇宙政策の一つとして、本年度、「先進的な衛星データ利用モデル実証プロジェクト」に採択されており、9月にスタート。期間は来年3月までとなっている。

「責任ある調達原則」に基づく現地確認に活用 地球温暖化による生産適地減少箇所の予測も

UCCグループは「カップから農園まで」を理念に、一貫したコーヒー事業の象徴として、1981年にジャマイカのブルーマウンテンエリアに日本のコーヒー業界では初となる直営農園を、1989年にはハワイ島コナ地区にも直営農園を開設。以来、この2農園での知見も生かし、ブラジルやグアテマラ、エチオピア、ルワンダ、ベトナム、中国などに広がる生産国におけるコーヒーの品質や、生産者の生活水準の向上に向けた栽培技術の指導や地域振興、各地の森林保全活動に関わるなど、独自の取り組みを継続して行ってきた。今年1月には「UCCグループの責任ある調達原則」を制定し、人権の尊重はもとより、公正なビジネス慣行に基づく調達を行うことをあらためて明文化している。

そのようなサステナビリティ活動の一環に同社は今回の実証実験を位置付け、その成果を直営農園のほか生産農家への営農支援や、上記の「責任ある調達原則」に基づく現地確認、さらには地球温暖化による生産適地減少箇所の予測などに活用していく方針だ。

アラビカ種のコーヒー栽培適地は2050年までに半減の可能性

また世界のコーヒーの市場規模は、生豆取引額ベースで約300億ドルと推定されるが、今後、地球温暖化がさらに進行した場合、既存のアラビカコーヒーであればその生産適地は2050年までに50%減少する可能性が指摘されていることからも既存の生産地をモニタリングするニーズは拡大していくと考えられる。同社と国際航業とは、コーヒー原産国の現地政府や大規模生産者に対して今回の実証実験による成果を用いたコンサルティングを提供するビジネスを検討。これを通じて持続可能なコーヒー産業の発展に貢献していく構想を温めている。

UCCの広報担当者は、今後の国際航業とのコンサルティングビジネスの展開先について、同社の調達先に限らず、「コーヒー生産者であれば、顧客になる可能性があり、現状に問題を抱えている農園にこそ貢献できるスキームである」と説明。また実証の成果を踏まえた同社の営農支援の具体策としては、現在、ジャマイカの直営農園と一部の調達先農園が取得している「自然と作り手を守りながら、より持続可能な農法に取り組んでいる」と認められた農園にのみ与えられる「レインフォレスト・アライアンス認証」などの認証取得の推進を挙げ、「実験により有効な技術が確立できた場合、認証取得の助けとして活用したい。さらにSDGsの観点からも自然環境の分析と評価などを進め、全体としてグループの調達ポリシーの達成につなげていきたい」と話している。

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