島根に「鬼滅の刃」そっくりの岩 「天馬山の割石」 アニメ再放送後に登山客増

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「鬼滅の刃」の名シーンにそっくりと話題の「天馬山の割石」(山佐交流センター提供)

 人気漫画「鬼滅の刃」の劇場版アニメが9月25日、地上波で初めて放送された。番組中では新たな発表があり、12月から始まる新アニメの担当声優が明らかになった。放送以降は「鬼滅」関連の単語がツイッターで次々にトレンド入りし、ブーム再燃の様相だ。

 ブーム再燃を受けてか、島根県安来市広瀬町上山佐の天馬山(標高250メートル)が注目されている。頂上付近に、漫画に登場する情景そっくりな巨大な岩があり、かねて鬼滅ファンが訪れていたが、放送後に再び登山客が増え始めたという。一体どれほどそっくりなのか、ブーム前から鬼滅を追いかける記者が実際に見に行ってみた。

 鬼滅の刃は人食い鬼が潜む大正時代が舞台で、鬼に家族を殺された主人公・竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)が、鬼にされた妹を人間に戻すために鬼と戦う物語。漫画は「週刊少年ジャンプ」で2016年2月から20年5月まで連載し、シリーズ累計発行部数は1億5千万部を超える。

 19年4~9月にテレビアニメ第1期が放送され、世界的に有名になった。今回初放送された「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」はアニメの続編として20年10月に劇場公開され、国内の興行収入は400億円を突破して歴代1位になった超人気作品。ファン待望の地上波放送だったため、関西地区の平均世帯視聴率は22.9%(ビデオリサーチ調べ)に上った。

 劇場版放送に先立ち、今年9月11日からアニメ第1期の一挙放送もあった。最初の鬼滅ブームに乗り遅れた新規層が新たに流入したことだろう。

▼再放送後から再び客が増加

 物語の序盤で炭治郎が剣技の修行をする際、苦闘の末に刀で岩を真っ二つにするシーンがあり、今回の再放送でも見られた。天馬山にも、直径6メートルの真っ二つになった岩があり、地元の住民団体が昨年10月に会員制交流サイト(SNS)で鬼滅に絡めて発信したところ、「作中の岩にそっくりだ」と大勢のファンが登山するようになった。

 天馬山は地元で親しまれ、遠足の児童や、中高年が軽登山で訪れていた。地域外の登山客は少なかったが、麓にある山佐交流センターによると鬼滅ブーム以降、最も多い時は若い世代を中心に1日130人が訪れ、岩の回りで撮影を楽しんだという。ブームが落ち着いたからか今年の夏以降は1日数人程度の登山客だったが、再放送があった9月中旬から再び目立ち始めた。

 9月20日の敬老の日の登山客の中には「鬼滅の岩があると聞いて来た」と話す女性グループもおり、「鬼滅人気」の根強さを物語る。

 センターの安井章二主事(62)は「涼しくなってきたことに加え、岩を知っている人たちの口コミで再び広まったのでは。いつまでもブーム頼みにはできないが、作品を通して山を知ってもらえるのはやはりありがたい」と目を細める。

▼割石までは20分程度

 ファンが認めるほどそっくりの岩だと聞き、ますます生で見たくなった。天馬山を登るにはどれくらい時間がかかるのだろうか。

 登山口にあった案内板を見ると山の標高は250メートルで、山頂近くの割石までは20~30分で着くとのこと。登山するにしては早い方か。さすがに取材時の革靴では厳しいのでスニーカーに履き替え、山頂に向かって歩き始めた。

 傾斜はそれほど急ではなく、道は整備されているが、ここ数年、舗装された道ばかりを歩いてきた足で山道を登り続けるのはやはり厳しかった。汗だくになりながら歩き続けていると、作中にあった、山や道場にこもって過酷な鍛錬を続ける「柱稽古」を思い起こした。

 基本的に道はほとんど直進で蛇行は少なく、若くて体力がある人なら軽々登れそうだ。ただ、耳元を10秒に一度の頻度で羽音がかすめる。虫が苦手な人は、虫よけなどの準備が必要だ。

▼想像以上に巨大な岩、なぜ山頂付近に?

 20分ほど登り続けると、道ばたに「割石」「展望台」と書かれた看板が現れた。割石の指示がある右へ進むと、今度は急な下り坂が待っていた。坂には下りやすいよう所々にプラスチック製の足場が設置されている。住民団体が鬼滅効果で増えた登山客のために新たに整備したそうだ。地域の皆さんの心遣いが登山で疲れた体に染み渡る。

 2、3分下りると開けた場所に出た。と同時に、とてつもなく大きく、きれいに割れた岩が目に飛び込んできた。

 遠目でもかなりの迫力だったが、近くに寄ると大きさが際立つ。高さは身長180センチの記者が見上げるほどで、岩の回りを1周するのに50歩を要した。

 そもそも、なぜ山中に巨大な岩があるのか。島根県立三瓶自然館の学芸員の調査では、山を構成する花こう岩が山頂付近から周囲の風化によって転がり落ち、その衝撃で岩の元々のひびに沿って割れたという見立てが有力だという。確かに人間が岩を運んできたり、きれいに割ったりしたとは考えにくい。

 作中の岩も炭治郎の背丈を越すほどの大きさで、形状も近い。割石は大き過ぎる気がするが…とにかく似ているという点について、異論はなかっただろう。山中の開けた空間に巨大な岩が鎮座しているという雰囲気も原作らしい。ファンが喜ぶのもうなずける。

 原作そっくりの情景を見られたのは、ファンの一人として感慨深い。現場の荘厳かつ神秘的な雰囲気とも相まって、原作の話の流れを思い起こしながら気付けば10分ほど立ち尽くしていた。

 ちなみに、原作らしい雰囲気での記念撮影を手助けするため、麓のセンターでは炭治郎の衣装を模した羽織や模造刀を貸し出している(平日限定)。

「鬼滅の刃」の主人公の服装を模した衣装を紹介する安井章二主事

 実際に登山すると気付くが、天馬山の魅力は割石だけではない。登山道にしては道がきれいで、坂道には足場やロープが設置されていた。

 安井主事に聞くと、鬼滅を機に訪れた人々が山や地域に愛着を持ってくれるよう、住民が定期的に道を整備しているという。中には割石を通して地域を好きになり、遠方から整備を手伝いに来てくれる人もいる。鬼滅を縁にした交流の輪が広がっている。

 安井主事「鬼滅はあくまでも天馬山を知ってもらうきっかけの一つ。鬼滅のファンから地域のファンになってもらい、上山佐の関係人口を増やしていきたい。それが地域の人々の喜びや誇りにつながる」。住民が自信を持って魅力を発信する天馬山。鬼滅ファンで興味のある人は、ぜひ一度登ってみてはいかがだろうか。

 (割石の動画を山陰中央新報社ホームページの記事で公開しています)