<金口木舌>芸術の力

 直木賞を受賞した恩田陸の「蜜蜂と遠雷」は国際ピアノコンクールを舞台にした音楽小説。映画にもなった。若い演奏家が砂浜でステップを踏み体の動きで名曲のメロディーを表現する場面がある。作品名を当て合う姿に才能を感じた

▼ピアノの演奏は同じ作品でも、演奏家の解釈や表現力によって仕上がりが違うと聞く。音質に出身地の文化がにじんでいるように感じるのも生演奏の醍醐味か

▼新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が4カ月におよび、音楽公演やコンクールは延期や中止が相次いだ。生の演奏に触れる機会を失い、当たり前のありがたみを痛感した

▼緊急事態宣言中、県内の音楽団体有志は、舞台上での演奏家の距離の取り方や飛(ひ)沫(まつ)防止策、受け付けでの対応などを検証した上で、感染を防ぐマニュアルを作った。安心して公演が開催できる環境づくりに一役買いそうだ

▼マニュアルづくりに取り組んだビューローダンケ代表でフルート奏者の渡久地圭さん。本紙の取材に「芸術の価値をどう社会に活用し共有できるのか改めて課題だと感じる。できることは芸術の力で人をなぐさめたり、エールを贈り続けることだ」と語る

▼緊急事態宣言が解除され10月以降、さまざまな公演が予定されている。音楽は心身に栄養を与えてくれる。演奏家と観客が同じ空間を共有する喜びは何物にも代え難い。

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