DMV初運行など鉄道の話題豊富 「四国DC」がスタート ニューノーマルの観光に大きな一歩【コラム】

桜の大洲城(愛媛県大洲市)をバックに肱川を渡る初代「伊予灘ものがたり」キロ47形での運行は今年で最後となります

JRグループ旅客6社と香川、愛媛、徳島、高知の4県が中心になって四国の観光を発信・誘客する、全国規模の大型観光キャンペーン「四国デスティネーションキャンペーン(四国DC)」が、2021年10月1日からスタートしました。期間は同年12月31日までの3ヵ月間。キャッチフレーズは、八十八箇所のお遍路さんをモチーフにした「しあわせぐるり、しこくるり。」で、「四国を訪れた方に幸せがめぐり来るように」の願いを込めました。

新型コロナでこの1年半、日本の観光・旅行業界はかつてない厳しい状況に置かれたわけですが、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除され、「ニューノーマル(新しい常態)の観光」に踏み出す最初のステップが四国DCといえるでしょう。DC期間中、JR四国もさまざまな観光列車を走らせて、来訪する観光客を迎えます。鉄道サイドの話題を柱にポイントをまとめました。

2017年以来4年ぶり6回目

四国DCでは、本サイトでも「JR四国全線フリーや観光列車乗車可能なものも! チケットレス利用も! お得きっぷをバンバンご紹介!」などのニュースが掲載済みです。DCについて再度の説明は不要でしょうが、地元が観光メニューを用意して、JRが駅や車内のポスターで宣伝、割安な企画きっぷで送客を受け持つ。地元にも、JRにもメリットが発生するWinWinの営業キャンペーンで、1978年の「きらめく紀州路」を第一弾に、40年を超す歴史を持ちます。

四国を対象にしたDCは、2017年4~6月以来4年ぶり6回目。難しい時期のキャンペーンを、主催者はどう考えるのか。JR四国の西牧世博社長は2021年9月27日の会見で、次のように述べています。

プレゼンであいさつする四国ツーリズム創造機構の半井真司代表理事(JR四国会長)。「四国 DCを四国観光振興の起爆剤に」と、旅行会社に送客への協力を呼び掛けました

「四国DCは予定通り実施したい。政府内では、行動制限の緩和に関する議論も始まっていると聞く。DCは当初は四国内、その後は全国に向けて発信を強化していく(大意)」。観光・旅行業界の2021年のトレンドにならい、スモールツーリズムで始動、徐々にペースを上げる考えです。

線路と道路の両方を走れるDMV

3台勢ぞろいしたDMV。線路走行はもちろんですが、道路を並んで走るシーンも絵になる1枚です

四国DCの開催概要は2021年8月、JRグループと四国DC推進協議会が連名で発表済みです。ここでは地域観光の推進母体・四国ツーリズム創造機構がDC直前の2021年9月24日、旅行会社向けにオンライン配信した「2021年度四国観光情報プレゼンテーション」から、リリースにないもの含め鉄道情報を案内します。

ということで、全国の鉄道ファンが興味シンシンなのはおそらくこれ。〝線路と道路の両方を走れる次世代車両!〟の「DMV(デュアル・モード・ビークル)」でしょう。

プレゼンで、徳島県はDMVを披露。珍しい乗り物というだけでなく、「徳島の新しい観光資源」の期待をDMVに込めました。

鉄道で阿波海南から甲浦へ、そして道路へ

DMVが初めて本格営業運転されるのは、第三セクターの阿佐海岸鉄道。日本鉄道建設公団(現在の鉄道建設・運輸施設整備支援機構の前身)が国鉄新線として建設していた阿佐線を地元が引き継ぎ、1992年3月に開業しました。

路線は、JR牟岐線に接続する阿波海南から甲浦までの10.0キロ。DMVの旗を振るのが徳島県で、2011年に検討開始。当初は2020年までの運行開始を予定していたようですが、諸般の事情で延期され、現在はDC期限ぎりぎりですが、2021年内運転開始が目標です。

徳島県の資料に、「車両自体が観光資源!」のフレーズがありました。画像を見れば、「一度乗ってみたい」と思う鉄道ファンも多いでしょう。プレゼンでは、地図上の位置関係から「〝四国の右下〟でルート開発が進みます」とアピールされ、試験運行の様子が動画で流れました。

デザイン的には前頭部のボンネットが、どこか遊園地の乗り物のよう。ちなみに、ボンネット下には、鉄道用の車輪が隠されているそうです。

DMVには鉄道ファンばかりでなく、全国の自治体関係者や地方鉄道が注目します。かつて富山市では富山ライトレールの運行開始時、自治体関係者が数多く視察に訪れたそうですが、同じようにDMVには全国から関係者の来訪が相次ぐかもしれませんね。

JR徳島線には「藍よしのがわトロッコ」

2020年に運行を開始した藍よしのがわトロッコ=イメージ=(写真:鉄道チャンネル)

徳島県からは、JR四国の観光列車として2020年10月から徳島線に運行開始した「藍よしのがわトロッコ」もお披露目されました。

キクハ32形とキハ185形の気動車2両編成で、2019年まで土讃線高知―窪川間を走っていた「志国高知 幕末維新号」を改装しました。車内では復刻駅弁を味わい、トロッコは香川、徳島両県を結ぶ観光列車「四国まんなか千年ものがたり」に接続します。

徳島県に続く香川県、愛媛県、高知県のプレゼンには、鉄道から乗り継ぐ「琴平発着絶景めぐり観光バス(香川)」などの話題もあったのですが、スペースの関係で割愛。後半はJR四国のニュースを紹介します。

初代から2代目へ ストーリーは続く「伊予灘ものがたり」

2代目「伊予灘ものがたり」のイメージ。シルエットを見れば、熱心なファンはタネ車が一目瞭然ですね

JR四国が動画でアピールしたのが、観光列車「伊予灘ものがたり」の最終運行。本サイトでも紹介済みですが、2014年にデビューしたJR四国初の本格観光列車は、7年間の役目を終えて2021年末に引退。期間が四国DCに重なることから、多彩な催しでラストランを飾ります。

伊予灘ものがたりは、一般用キハ47形気動車を改造したキロ47形2両編成。「レトロモダン」、「ゆったりした時間」などをコンセプトに、アテンダントが乗務、車内で食事を楽しめる四国初の本格的観光列車でした。

JR四国は2022年に新しい「伊予灘ものがたり」を登場させるスケジュールで、2代目はワンランクアップしたキハ185系特急用気動車改造の3両編成で登場します。プレゼンでは、2代目について「近日中、お知らせ予定」と何とも気を持たせる表現。JR四国は列車名そのままに、「初代から2代目に、ものがたりを紡ぐ(つむぐ)」の言い回しで、人気をバトンタッチする意向です。

「千年の歴史に思いをはせる大人の遊山へ」

JR四国の観光列車一覧。ほぼ全線に観光列車が走ります

プレゼンでJR四国は、伊予灘ものがたりのほか、10本の観光列車を紹介しました。2017年に登場した「四国まんなか千年ものがたり」は、3両編成の気動車。キャッチフレーズは「千年の歴史に思いをはせるおとなの遊山へ」。遊山(ゆさん)とは一昔前、徳島の子どもたちが桃の節句のころ、野山で一日を過ごしたピクニックのようなものとか。

列車は香川県と徳島県の間を運行。「食事」、「アテンダントのサービス」、「大歩危峡の絶景」の3点セットで乗客を迎えます。

2021年7月から、愛媛・高知県の松山―宇和島―窪川間に登場した新鋭が「鬼列車」。鬼と聞くと、大ヒットしたあのアニメを思い出しますが、列車は愛媛県の山間地にある鬼北町が名の由来。同町は2013年度から、〝鬼のまちづくり〟に取り組んでおり、JR四国も町おこしに一役買おうと鬼の特別塗装車を発想しました。

瀬戸大橋ツアーで列車を「撮り鉄」

明石海峡塔頂体験ツアーで地上300メートルから眺める淡路島の夜景

このほかの列車やイベントに関しては、JR四国や四国ツーリズム創造機構のホームページでチェックしていただくとして、私が注目したのは本四高速のプレゼン。本四高速は本州四国連絡橋、つまりは瀬戸大橋や明石海峡大橋を管轄する高速道路会社です。瀬戸大橋の鉄道施設(JR瀬戸大橋線)を管理する点では鉄道にも無関係とはいえないのですが、クルマを早く通すのが本来の役目です。

それが四国DCでは、観光目的に橋の管理施設を開放。「明石海峡大橋塔頂体験ツアー」では、高さ300メートルの主塔から、みなと神戸の夜景を眺望します。「瀬戸大橋塔頂体験ツアー」では、瀬戸大橋線を通る列車を間近から眺めます。

高速道路の施設を開放するインフラツーリズムは、全国的にも珍しいはず。プレゼンを聞きながら、瀬戸大橋と鉄道車両基地見学をセットにした「鉄道+道路インフラツーリズム」も催行できるのではなどと考えました。

瀬戸大橋塔頂体験ツアーでは、こんな迫力いっぱいの1枚が撮れます

画像:一部を除き四国ツーリズム創造機構の2021年度四国観光情報プレゼンテーションから
記事:上里夏生

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