M11点灯のヤクルトはなぜ強いのか? 指標に表れる昨季からの変化と強さの秘密

ヤクルト・高津臣吾監督【写真:荒川祐史】

12球団トップの与四球割合で失点を抑制しているヤクルト投手陣

7日に行われた阪神戦に勝ち、優勝へのマジックナンバー「11」が点灯したセ・リーグ首位のヤクルト。ここまで127試合を消化して67勝44敗16分、2位の阪神と3ゲームの差をつけ、6年ぶりのリーグ優勝へ突き進んでいる。

昨季まで2年連続で最下位に沈んでいたヤクルトだが、そこから驚異的なV字回復ぶり。今季、なぜヤクルトが強さを取り戻したのか。セイバーメトリクスの指標などで分析を行う株式会社DELTAのデータを用いて分析してみたい。

昨季、チーム投手成績も打撃成績もリーグワーストだったヤクルト。今季はチーム打率がリーグ3位、得点数はトップ、チーム防御率はリーグ2位と投打両面で昨季以上の成績を叩き出している。ただ、強さの秘密は、これ以外のところに見えてくる。

投手陣の詳細な指標を見てみると、昨季から大幅に改善された指標が見えてくる。それが奪三振の割合を示す「K%」と与四球の割合を示す「BB%」だ。昨季、ヤクルト投手陣の「K%」は18.8%でセ・リーグでは最も低かった。「BB%」は8.6%で中日、阪神に次ぐリーグ3位。奪三振割合と与四球割合の差を示す「K-BB%」は「10.2%」で、こちらもリーグ最低だった。

ところが、今季はその数字が大きく良化している。「K%」は21.5%でリーグトップ。12球団でもソフトバンクの23.2%に次ぐ数字だ。与四球割合を示す「BB%」はわずか6.7%で12球団トップ。「K-BB%」も14.8%で12球団トップの成績だ。被打率自体は.252でリーグ内で4位、12球団でも9位。余分な四球を出さないことで、失点を抑制していることが窺える数字だ。

野手陣は12球団でトップのチーム出塁率.334を記録

ヤクルト投手陣を見てみると、例えばオリックスの山本由伸投手のような、ずば抜けた成績を残す選手はいない。ここまで2桁勝利を挙げている投手はおらず、2年目の奥川恭伸と小川泰弘の9勝がチーム最多だ。奥川は十分な登板間隔を空けて先発を続け、ここまで16試合に登板。98.1イニングを投げてわずか9四球。54回連続無四球を記録しており、まさに今季のヤクルトを象徴する投球となっている。

リリーフ陣も44ホールドをマークする清水昇、今野龍太、抑えのマクガフを中心に安定。傑出した存在はいなくとも、総合力に秀でた“投手王国”だと言えるのではないか。

野手陣はどうか。もちろん主砲の村上宗隆、山田哲人、そしてオスナ、サンタナの両助っ人、成長著しい塩見泰隆と好打者が揃ったことが大きい。チーム打率.256は、広島の.262、DeNAの.258を下回るリーグ3位だが、チーム得点567はリーグトップとなっている。

この得点力はどこから生まれているのか。チーム打率は.256だが、ヤクルトはチーム出塁率.334は12球団でトップ。チームOPS.735も12球団でトップになっている。それを支えているのは四球数の多さか。434四球はリーグトップ。「BB%」9.4%は、リーグ2位の巨人の8.0%と2%近い差になる。

2015年ぶりのリーグ優勝に近づくヤクルト。さまざまな強さの要因があるだろうが、ここに挙げたのもその1つだろう。投手は余分な走者を出さずに失点を抑え、打者はできるだけ多くの走者を出してチャンスを作る。その積み重ねが、今の首位という結果に表れている。(Full-Count編集部 データ提供:DELTA)

データ提供:DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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