<書評>『合同歌集 花ゆうな 第27集』自然や風土 27人の個性

 「花ゆうな短歌会」(比嘉美智子主宰)の合同歌集『花ゆうな』第二十七集が刊行された。第一章は会員27人の各二十五首と、琉球新報掲載の「例会作品」やトピックスを収録。第二章にはエッセー三篇、あとがきに比嘉主宰による全員の一首選が収められている。
紅椿石庭覆ひ咲き満てり松の緑に鮮やかに映ゆ
 比嘉美智子
荒北風(あらにし)の騒立つ真昼実芭蕉の大葉は千々にいたぶられゐる
 大城直子
明日へと蕾もたぐるミニ薔薇の命数ふる秋の窓辺に
 神里直子
暴風域抜けたる街の空のにほひ潮をふくみて慶良間島見ゆ
 富永美由紀
 比嘉作品はコロナ禍の今を椿の紅が勇気づけている。「荒北風」が下三句を引き立てている二首目。三首目は命への優しいまなざしが心に残る。台風一過の街を嗅覚で捉えた四首目も印象的。
午前三時醒めて言の葉追い掛ける闇の果てまで追えば曙
 銘苅真弓
会えずとも人と人とは繋がりぬ短歌詠みてこそ短歌ありてこそ
 松瀬トヨ子
諦めし夢も有りたり然れど又捨てきれぬもの埋み火のままに
 仲里博恵
 銘苅作品の言葉への執着も、松瀬作品の祈りも短歌への熱い思いの結実である。仲里作品の下二句に籠めた心情も奥深い。
底見えぬとコロナウイルスを話題とし三人家族の朝が始まる
 湧稲國操
十一時間燃えし首里城の残骸は戦火に焼けし跡と重なる
 宮城鶴子
埋もれたる惨禍の遺跡ぞくぞくと戦後七十五年無言の語り部
 安仁屋升子
慰霊碑に化粧ポーチも供へられ昔乙女らの歌声ひびく
 永吉京子
 まん延するコロナへの不安と忘れ難い沖縄戦への思いが作品の通奏低音となって流れている。
 本集の収録作品は身辺詠にとどまらず、自然や風土や社会に取材した個性ある作品群である。沖縄の短歌普及のために「識名園歌会」を20年にわたって催行した「花ゆうな短歌会」の確かな歩みを示す一冊である。
 (屋部公子・歌人)
 はなゆうなたんかかい 比嘉美智子氏が主宰する会で、会員は27人(女性25人、男性2人)。結成から27年間活動を続ける。主な行事に「識名園歌会」。会員の暮らしの中から生まれた作品は多彩。
 

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