【大学野球】内々定取り消しで一念発起 2度の“軟式転向”異色の韋駄天が待ち望むドラフト指名

北海学園大・鈴木大和【写真:石川加奈子】

50メートル5秒79、プロでもトップクラスの俊足

50メートル5秒79の快足を武器にする北海学園大の鈴木大和外野手(4年)が11日のドラフト会議で吉報を待っている。小学、中学、高校、大学と全てレギュラーとして全国大会に出場したエリートながら、今春までプロの世界に飛び込む考えは全くなかった。過去に2度、軟式転向を考えた異色のスピードスターが、運命に導かれるように自身の才能に気づき、プロへの挑戦を決めた瞬間とは?【石川加奈子】

右打者ながら一塁到達は3秒8を切り、二塁到達は7秒34、三塁到達は10秒62。手動計測のため単純比較できないとはいえ、プロでもトップクラスに数値を叩き出す。それでも今春までは、プロどころか社会人入りすら念頭になかった。

悩み抜いた末に決断したのは今年7月。「5年後、10年後に“あの時チャンスがあったのに”と後悔するかもしれないと思いました。自分の人生で1番の挑戦です」と鈴木はすっきりした表情で笑った。5球団から調査書が届いており、「育成でもどこでも行けるのであれば、行って成長したい」と目を輝かせる。

北海高時代の同期が、鈴木の野球人生に大きな影響を与えた。阪口皓亮投手(DeNA)はプロで2勝をマーク。仙台大に進んだ川村友斗外野手は侍ジャパン大学代表候補に選出され、16年夏の甲子園準優勝時に「4番・捕手」だった富士大の佐藤大雅捕手もプロを目指している。「上手い人たちを見ていたから、こういう人がプロに行くんだなと別世界のように思っていました。自分も下手ではないけど、そこまでの実力ではないと。だから、プロを考えたことはなかったんです」。

全国大会出場の華麗な経歴も…2度の軟式転向決断

謙虚な言葉とは裏腹に、経歴は華麗だ。北広島大曲東小6年時に北広島イーストグローリーで全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント、北広島大曲中3年時に札幌豊平ボーイズでジャイアンツカップに出場。北海高時代は2年夏の甲子園に「9番・中堅」で準優勝に貢献し、3年夏も甲子園に出場した。北海学園大でも主将を任された今春、30年ぶりの全日本大学選手権へ。小学生から全ての年代で中心選手として全国大会出場を果たした。

プロを目指さない方が不思議に思える実績だが、鈴木自身は高望みをせず、堅実な人生を歩んできた。実際、過去に2度軟式野球への道を選択した。高校3年の時には「野球を続けられるなら、硬式でも軟式でもこだわりがなかったので」と軟式野球関係者から誘いを受けて公務員試験を受験。不合格だったため、北海学園大に進学した。

大学卒業後も、関東の企業に就職して軟式野球に転向する予定だった。今春、コロナ禍の影響で内々定が取り消され、人生設計が大きく変わった。「すんなりいかないものですね。でも、それがあって、今こうしてチャンスをいただけているので」と運命のめぐり合わせを楽しむように笑った鈴木。高校生の時に公務員試験に受かっていたら、プロとは無縁の人生になっていた。

今年3月に就職が白紙に戻ったことで、社会人野球やプロ野球に目を向けた。「上でやりたいけど、そんなレベルじゃない」と慎重だった鈴木に対し、島崎圭介監督が関東の強豪社会人チームへの練習参加を勧めてくれた。鈴木は「最初はやっぱりレベルが高くて、自分では無理だと思いました。でも、冷静に考えると足と守備は通用する部分があるんじゃないかと思いました」と前向きに考えるようになった。

島崎監督は昨秋のオープン戦で鈴木が一塁から一気にホームインした走塁を見て、上のレベルで通用すると確信した。「えっ? もう還ってきたの? と驚くほどのスピードでした。自分のところの選手ながら、すごいなと思いました」と突出した能力に改めて気づいた。直後の練習で一塁到達、二塁到達などタイムを実際に計測してみると、手動ながら次々に球界トップクラスの数字を弾き出し、プロのスカウトも注目し始めた。

北海学園大・鈴木大和(左)と島崎圭介監督【写真:石川加奈子】

スペシャリストとして「生きる道ある。挑戦してみよう」

ここ数年、ソフトバンクの周東佑京内野手やロッテの和田康士朗外野手ら足のスペシャリストが活躍する姿も、鈴木の心理を変えた。「今は足が重要視されています。プロでこうやって生きる道もあるんだと思ったことも、挑戦してみようと思ったきっかけです」と語る。

プロを遠い世界にしたのが才能あふれる高校同期たちなら、鈴木のプロ挑戦を最終決断させたも彼らだった。「同期の活躍が刺激になったということが1番大きいです。もう一つは今春の大学選手権で初戦敗退したこと。上のステージでやりたいという気持ちが芽生えました」と気持ちは固まった。

足は一級品、守備範囲も広く、遠投100メートルの強肩を誇る一方、打撃には課題が残る。「プロに行けるなら打撃を改善してアピールしたいです。センスのある野球選手はないので、がむしゃらに一生懸命頑張りたい」と伸びしろを信じ、プロで成長したいと考える。目指す選手像は、ロッテの荻野貴司外野手。「自分のプレースタイルを理解して、バットを短く持ち、ガッツがあって、すごく良い選手」と未来の自分に重ね合わせる。

日本ハムが23年に開業する新球場の所在地である北広島市で生まれ育ち、現在も住んでいる。夜間ライトアップしている建設現場を見に行ったこともあり「プロに行って、ここでプレーできたらいいなと思います」と胸を躍らせる。

「心配性で先のことを悪く考える面がある」という自分の殻を破り、プロ志望届提出という大きな一歩を踏み出した。「期待と不安……じゃなくて期待とドキドキが半々。今は先のことは何も考えずに待ちます」と笑顔で現在の心境を明かした鈴木。高校同期たちとのプロでの再会を願いながら、挑戦の結果を静かに待つ。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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