女子小学生だけの全国大会は「特別な時間」 NPBが信じる“環境を変える力”とは?

8月に愛媛県松山市で開催された「NPBガールズトーナメント」の様子【写真提供:(株)共同写真企画】

決勝戦は坊っちゃんスタジアムで開催され、栃木スーパーガールズが優勝

女子野球の熱は少しずつ高まっている。ただ、課題はまだまだある。特に深刻なのが、中学校・高校の受け皿の少なさだ。このほど、女子小学生だけのチームによる学童野球の全国大会「NPBガールズトーナメント」が行われ、栃木スーパーガールズが6-5で逆転サヨナラ勝利を収め、出場39チームの頂点に立った。この大会にあった大きな意義を伝えたい。

野球を続けられる「当たり前の環境」を作ろうとする思いが伝わった。決勝戦は8月5日、愛媛県松山市の坊っちゃんスタジアムで行われた。互いに譲らない熱戦。ともに初優勝を目指す、栃木代表・栃木スーパーガールズと京都代表・京都ガールズの一戦。試合は8回タイブレークまでもつれこんだ。

NPB(一般社団法人日本野球機構)と公益財団法人全日本軟式野球連盟が主催する「NPBガールズトーナメント」は2013年に始まった。大会をつくった理由はシンプルだった。

「女子選手が試合に出場する機会を増やしたい。野球に情熱を持って、日々練習に励む少女たちの夢をさらに膨らませたい」とNPB関係者は語る。

選手からは喜びや感謝の声「特別な時間だった」

学童チームで野球をする女子小学生は増えてきている。ただ、女子だけのチームで試合をする機会はほとんどない。中には男子をしのぐ力のある女子選手もいるが、大半は出場機会が限られている。「ガールズトーナメント」は、その状況を変えようと立ち上げられたのだ。

スタート当初は苦労の連続だった。試合会場や必要な人員の確保が難しく、スタンドのある野球場で試合ができたのは準々決勝以降。複数の会場で試合を同時に行っていた。

それでも、年を重ねるごとにサポートの輪が広がった。今年の決勝が坊っちゃんスタジアムであったようにプロ野球選手もプレーする球場を使えるまでになった。

大会を続けていることで、女子選手からは喜びや感謝の言葉が届いている。「普段のチームで男子と一緒にプレーするのとは違う楽しみがあって、特別な時間だった」、「普段は試合をすることがない地域のチームと対戦し、友達になれたのでうれしかった」。全日本女子野球連盟の関係者からも「女子野球の底辺拡大に間違いなく貢献している」などの声が寄せられているという。

直面する課題は中学・高校の受け皿の少なさ

しかし、女子野球には「受け皿不足」という大きな問題がある。小学生では男子に混じってプレーしていても、中学生や高校生になると地元にチームがない。親元を離れて他の地域で野球を続けるのは難しく、ソフトボールなど他の競技に転向する女子は多い。

「ガールズトーナメント」は来年で10年を迎える(2020年はコロナ禍の影響で大会は中止)。主催するNPBは大会には女子野球の環境を変える力があると信じ、将来を描いている。

「環境を少しでも変えて、女子選手が“普通”に野球ができるようになればいいなと思っています。将来、親から子へ、子から孫へ野球という文化が男女問わずに継承され、野球をプレーするだけではなく、観戦者や応援する人ら携わるすべての人たちが、野球から感動や楽しさ、悔しさ、飛び切りの笑顔、涙など、多くのことを学ぶことによって、豊かな人生を送ってもらえたらうれしい限りです」

中国には、こんな格言がある。「10年偉大なり。20年畏るべし。30年歴史になる」。続けることは大変だが、理想に近づけるはずだ。(記事提供:First-Pitch編集部)

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