グラウンドに入れば性格“豹変” 西武がドラ1公言、西日本工大・隅田知一郎の素顔

西日本工大・隅田知一郎【写真:福谷佑介】

野球に妥協は許さず、切り替え上手、と性格は“プロ向き”

プロ野球のドラフト会議が11日、都内のホテルで開催される。今ドラフトの目玉の1人が西日本工大の隅田知一郎(ちひろ)投手。最速150キロの真っ直ぐに加え、6種類の変化球を操る左腕で、西武が1位指名を公表している。競合も予想される好投手の素顔とは、どんなものなのだろうか。【上杉あずさ】

“ドラフト1位候補”“大学No1左腕”と称される姿とは対照的に、おっとりした素朴な青年。それが隅田知一郎の第1印象だ。喋り口調もゆったりとしていてマイペース。ストレートの最速は150キロを誇り、6種類もの変化球を操る好投手だとは、その話し口調だけではイメージできない。

ただ、性格はとにかく“プロ向き”だ。「自分、グラウンドとプライベートは全く違うんで」と隅田自身も自覚する。マウンド上ではエースとして逞しく君臨。グラウンドに入ると、たちまちスイッチが“オン”になり、人が変わるのだ。そうなると、自分にもチームメートにも厳しい。後輩に「ちゃんとやらんなら(グラウンドから)出とけ」と喝を入れることもしばしば。野球においては遠慮も妥協も一切許さない。

西日本工大・隅田知一郎【写真:福谷佑介】

「落ち込んでいたりするのは良くない。切り替え上手なやつが伸びる」

その一方で、グラウンドから離れれば、そのスイッチはすぐに“オフ”へと切り替わる。練習が終われば、怒鳴っていたさっきまでの姿はどこへやら。怒りの感情は消え、それを引きずることも一切ない。怒られた後輩も初めはさぞかし驚いたことだろう。あまりの“緩急”の激しさに、後輩からは「変わってる」と言われるが、隅田自身は「人が持っていないものを持っているんだなと思っています」と前向きに捉えている。

その切り替えの早さは野球でも同じ。「試合でダメだったからって、寮で落ち込んでいたりするのは良くないですよ。真面目で熱心な子ほどそうなんですけど、そういうのは野球をする上でよくないと僕は思います。切り替え上手なやつが伸びると思っています」。たとえ試合で打たれても、決して部屋まで持ち帰らない。その場で反省して終わり。この切り替え上手なところも、プロの世界では大切な資質ではないだろうか。

グラウンドから離れた“素”の隅田はどんな人物なのだろう。「部屋では全く野球のことは考えないですね。野球の映像を見ることもありますけど、それは暇つぶしです(笑)」とあっけらかん。もちろん、練習の一環として野球の映像を見て、研究することもあるが、それは野球のスイッチが“オン”の時。“オフ”になると、ごく普通の大学生と変わらない。

西日本工大・隅田知一郎【写真:福谷佑介】

話を聞けば聞くほど、“普通の大学生”の印象が深くなる隅田知一郎

特に物欲もなく、周囲からお金の話を聞かされても、まるでピンと来ない。寮の部屋での過ごし方は「永遠にTikTokとかですね。あとはアニメの『ハイキュー』にハマっています。友達に『面白いよ』と勧められて1話見てみたらめっちゃ面白くて。自分、何でも半信半疑から入るんです」。好きなアニメの話を楽しそうにする姿からは、大学生としての日常が垣間見える。

ただ、やはり勝負事となれば「負けず嫌い」だ。確かに「マウンド度胸は全国の大学生や高校生には絶対負けない」と自負するところにもそれを感じさせる。オフには野球部を先に引退した同級生とゴルフに行ったりもするが、練習にいける同級生にはなかなか勝てない。「先に引退したみんなは自分より少し経験があって、少し上手いんです。負けたくないんで、隠れて練習に行こうと思っています」。隅田の言葉に熱が込もった瞬間だった。

話を聞けば聞くほど、やはり普通の大学生だ。ドラフト会議が近付くにつれ、連日、メディアからの取材が入った。注目度は上がる一方たが、本人の様子は至って変わらずマイペース。ようやくやってくる運命の日。ドラフト最注目の左腕は、飄々とその日を迎える。(上杉あずさ / Azusa Uesugi)

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