【書評】NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業―

「ネットフリックスは制作現場の在り方を一変させた。ベテランプロデューサーの直感や過去の常識に縛られず、ビッグデータを信じて監督や俳優を選ぶことを基本にした(※)」

これは、2019年6月に日本で発売された『NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業―』(以下、『コンテンツ帝国の野望』)の一節です。NETFLIXが創業された1997年から、年商50億ドル企業へと成長した2012年までの軌跡を追った同書ではデータドリブンで他社が模倣できないビジネスを確立したNETFLIXの戦いを紹介していました。

本記事では同書の書評を行うとともに執筆時以降のエピソードも紹介し、エンタメ×データドリブン企業として先頭を走るNETFLIXに迫ります。

※ジーナ・キーティング (著), 牧野洋 (翻訳) 『NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業― Kindle版』新潮社、2020、位置No.161

INDEX

NETFLIX VS ブロックバスターの10年戦争

『コンテンツ帝国の野望』の主軸となっているストーリーはCEOリード・ヘイスティングス率いるNETFLIXとアメリカ全土に9000店舗以上展開していたレンタルビデオチェーンブロックバスター(2010年に経営破綻)の10年近くにわたる対決です。現在のNETFLIXの手掛けるVOD(ビデオオンデマンド)サービスではなく、DVDレンタルを郵送で行うビジネスを行っていた時代がメインで取り扱われています。

【Netflix とブロックバスターの売上推移】

引用元:独自デバイス(後のRoku)を作るも、ジョブズにビビって直前に販売停止!┃Strainer

2000年に多くの赤字を抱えた自らブロックバスターへの業務提携あるいは買収を持ちかけた際は「ほとんど笑い飛ばされた(※)」というNETFLIX。その後幾度の危機を迎えながらもブロックバスターに打ち勝ち、ケーブルテレビ業界最大手のコムキャストを上回る契約者数を獲得するまでのストーリーは、何度も資金枯渇の危機が訪れる“チキンレース的山あり谷あり”で筆者が考えていた以上にドラマチックでした。

とはいえ、NETFLIXをただ称揚するばかりの内容ではなくヘイスティングの失策や“『アポロ13』を返し忘れて延滞料金40ドルが発生したことでビジネスの予感を感じた”という逸話の「真実」などタブロイド誌的追及も読み応えがあります。

意外だったのはNETFLIXがFacebookやAppleのように新進気鋭の若手起業家ではなく、すでに30代後半のヘイスティングスとマーク・ランドルフによって創業されたこと。訳者あとがきでも、さまざまな経験を積んだ“脱サラ”人材があつまったスタートアップ企業だからこそ生み出せた価値があることに言及されています。

※ジーナ・キーティング (著), 牧野洋 (翻訳) 『NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業― Kindle版』新潮社、2020、位置No.1781

NETFLIX躍進を支えるデータドリブン

ビデオ→DXD→VODと移行する時代との合致、ブロックバスター内部のごたごたなど、NETFLIXが勝利を収めた理由は複数あります。しかしその根底にあるのは、同社が当初から取り組んでいたデータドリブンシステムの強固さです。

初期よりABテストを重ねてウェブサイトから精緻な市場調査を実施し、サービスの最大のポイントであるレコメンドアルゴリズム構築やDVDの翌日配送を実現する配送拠点策定を実行していたNETFLIX。データの蓄積とシステムの見直しを繰り返して積み上げた高度なシステムが障壁となり、Amazonやウォルマートといった脅威となる大手の参入を阻んでくれていました。

2006~2011年にはレコメンドシステム「シネマッチ」をより強化すべくオープンイノベーションの取り組みが実地され、賞金100万ドルのアルゴリズム・コンテスト「NETFLIX賞」が実施されます。1億件超のデータセットの提供と参加者の切磋琢磨により2009年7月には条件として示されていたシネマッチの10%の精度向上が達成され、トップチームが終結した「ビッグカオスのベルコア」に賞金100万ドルが授与されました。

そして、冒頭で引用したようにコンテンツ制作に乗り出した現在、彼らはキャスティングやテーマ選定にもビッグデータを活用し始めます。結果として『ストレンジャーシングス 未知の世界』『愛の不時着』といったオリジナル作品の世界的ヒットや、『ROMA/ローマ』での第91回アカデミー監督賞受賞などの大きな成果が生み出されました。

2,500万円で宣伝の一等地を得た秘策

NETFLIXが日本に上陸したのは2015年9月のことです。そのときすでに日本には4年前に上陸したVODサービスHuluが存在しました。いわば、NETFLIXは日本において再び追う立場となったわけです。また、同年同月にAmazonプライムビデオもスタートしました。

そこで先行者に追いつき認知度を高めるべくNETFLIXが注目したのが──テレビのリモコンでした。当時約250万台製造されていたネットテレビのリモコン製作費の10%(およそ10円)を負担する代わりにNETFLIX専用ボタンを設置することを持ちかけたのです。メーカーにとっては損のない取引であり、その提案はすんなり受け入れられました。結果としてNETFLIXはわずか2,500万円程度で、潜在的顧客にこれ以上ないタイミングで宣伝する権利を得ることに成功したのです。

2019年9月にはNETFLIXの国内会員数は約300万人を突破。前年比伸び率は77%と好調に会員数を伸ばし、Hulu以上のユーザー数を抱えるサービスとなりました。

終わりに

書評を皮切りにデータドリブン企業NETFLIXが成長する理由の一端に触れました。GAFAにNETFLIXを加えた集団をFAANGといい、世界ではGAFA以上にポピュラーなくくりとして用いられています。

これからは、データドリブンでエンタメの世界を切り開いた“GAFAを超える”企業として、ぜひ注目してみてください! より詳しくNetflixについて知りたい方はぜひこの書籍も読んでみてください!

【参考資料】
・ジーナ・キーティング (著), 牧野洋 (翻訳) 『<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/B07RPL1Y6M/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1" rel="noopener noreferrer" target="_blank">NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業― Kindle版</a>』新潮社、2020
・<a href="https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0701A_X01C13A1EB2000" rel="noopener noreferrer" target="_blank">米ビデオレンタル大手、ブロックバスターが全店閉鎖へ</a>┃日本経済新聞
・斉藤 徹「<a href="https://blogs.itmedia.co.jp/saito/2009/09/httpjournalmyco.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">賞金100万ドル。史上最大級のアルゴリズム・コンテスト「Netflix Prize」がついに決着</a>」┃オルタナティブ・ブログ
・<a href="https://strainer.jp/notes/6522" rel="noopener noreferrer" target="_blank">独自デバイス(後のRoku)を作るも、ジョブズにビビって直前に販売停止!</a>┃Strainer
・堀 晃和 「<a href="https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70282" rel="noopener noreferrer" target="_blank">アカデミー賞で注目、ネットフリックスの「問題作品」が凄すぎるワケ</a>」┃マネー現代
・<a href="https://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/1508/04/news024.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">「NETFLIX」上陸は9月2日! 「テラスハウス」「デアデビル」などオリジナル作品ラインアップも公開</a>┃くらテク by ITmedia NEWS
・川上昌直『<a href="https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%82%BA%E6%88%A6%E7%95%A5%E2%80%95%E2%80%95%E9%A1%A7%E5%AE%A2%E4%BE%A1%E5%80%A4%E6%8F%90%E6%A1%88%E3%81%AB%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%92%E8%B5%B7%E3%81%93%E3%81%99%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E7%99%BA%E6%83%B3-%E5%B7%9D%E4%B8%8A%E6%98%8C%E7%9B%B4-ebook/dp/B077FD2CM3/ref=as_li_ss_tl?ie=UTF8&qid=1546005940&sr=8-1&keywords=%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%82%BA%E6%88%A6%E7%95%A5&linkCode=sl1&tag=amalizer06-22&linkId=4cf2e9ef71cd58e50a294df696f24fcb&language=ja_JP" rel="noopener noreferrer" target="_blank">マネタイズ戦略――顧客価値提案にイノベーションを起こす新しい発想 Kindle版</a>』ダイヤモンド社、2017

宮田文机

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