【書評】コロナ禍を経て続編がリリース 『アフターデジタル』シリーズが“オフラインのない世界”を描く

みなさんは、「オフラインがなくなる世界の到来(※)」を見据えていますか?

DX・UXデザイン・カスタマーサクセス……データのじかんでも扱われてきたこれらのキーワードが重要性を高めてきているのは、アフターデジタル時代が到来しようとしているからです。

そんな潮流を中国など世界の豊富な事例とともに紹介した書籍が『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』。コロナ禍を経た2020年7月には続編となる『アフターデジタル2 UXと自由』が出版されました。そんな2作についてのレビューを通し、全世界の企業に求められる真の“DX”について考えます。

※藤井保文、尾原和啓『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る Kindle版』日経BP、2019、ロケーション2453の172

リアル世界はデジタル世界に包含される──『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』

2019年3月に出版された『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』は、UXデザインのコンサルティングやデータドリブン・マーケティングツールのサービス提供を行う企業ビービットの上海支社に勤める藤井保文氏と京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座にて人工知能の研究を修めたIT批評家尾原和啓氏の共著です。

このいわば『アフターデジタル1』で指摘されているのが、デジタル技術の普及により「リアル世界がデジタル世界に包含される(※)」ということ。DXの理解においてよく見られる間違いが“単なるデジタル技術の導入をDXと呼ぶこと”です。DXのX(トランスフォーメーション)には「変革」という意味があります。デジタル技術を導入したがビジネスモデルや事業内容に大きな変化はなかったという結果では、厳密にはDXを起こしたとは言えないのではないでしょうか。

※藤井保文、尾原和啓『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る Kindle版』日経BP、2019、ロケーション2453の559

そうではなく、ビジネス戦略自体をアフターデジタル時代に合わせてアップデートするのが真のDXです。例えばあなたは「リアルでの販売が“本業”でデジタルは販路を拡大するためのツール」と考えてはいないでしょうか?

IoTやキャッシュレス決済が普及すれば、ネット通販・リアル店舗を問わず誰が何をどのタイミングで購入したかをデータとして取得することができます。取得したデータをマーケティングやプロダクト開発、UXなどに反映して消費者に最適なタイミングでタッチし、より素晴らしい体験を提供する。このサイクルを回すのがアフターデジタルのビジネスの王道であり、GAFAやBAT、TMDといったプラットフォーマーが業績を伸ばす秘訣のひとつなのです。

書籍では、中国のシェアリング自転車やジーマ・クレジット(芝麻信用)、平安保険といった事例を紹介しつつ、アフターデジタルという世界観と日本企業が変わる方法について解説されています。

アフターデジタル実践編──『アフターデジタル2 UXと自由』

『アフターデジタル2 UXと自由』は実はWeb上で無料で読むことができます。ぜひ、以下のリンクにアクセスしてみてください。

アフターデジタル2_公開原稿

この、書籍の内容が無料公開されているという事実自体が“アフターデジタル的な考え方”を体現しているといえます。書籍というものは刻一刻と変わる現実を反映する“情報”自体を売るものであるにも関わらず、改稿されない限り内容は更新されず古びていくことになります。そのような状況に対するひとつの回答が更新可能な状態での原稿の無料公開というわけです。書籍の無料公開というとフリーミアム戦略が思い当たりますが、アフターデジタル的な視点でも有効な手段というわけですね。

「UXと自由」という副題が示すのは、『アフターデジタル2』が前作よりもより実践的な視点に基づいているということです。前書きにおいて藤井氏は『アフターデジタル2』執筆の背景には、データを握った企業が人の行動を支配したり格差を助長したりできるディストピアへの恐怖と、データをユーザに還元する精神の薄い日本への危機感があると語っています。

ケンブリッジ・アナリティカ事件Googleへの反トラスト法訴訟など、ビッグデータを活用できる企業の世論や市場に対する影響力の高まりと危険性を示唆するニュースは近年とみに目立ちます。そんななかでユーザーから“データを提供しても良い”と信頼を得るためには、データを還元しユーザーに自身にふさわしいと思える世界観=自由を提示しなければなりません。そしてユーザーから選ばれるために企業が注力すべきポイントをひとことで表すと、“UX”に集約されるというわけです。

コロナ禍は日本のアフターデジタルを進めた?

『アフターデジタル1』から『アフターデジタル2』の間に起こった最も大きな変化といえば「新型コロナウイルスの世界的パンデミック」です。

『アフターデジタル2』でも新型コロナウイルスが「それに対応するために様々な社会実装がされて世の中が変化しているという意味でも大きな契機になっている(※)」と「オンラインでの初診解禁」などを例に言及されています。

※藤井 保文『アフターデジタル2 UXと自由』日経BP、2020、ロケーション3129の2069

また、2020年以前から徐々に始まっていたキャッシュレス化の波がコロナ禍でより加速したことも日本のアフターデジタル化にとっては追い風となったでしょう。しかしそれは『アフターデジタル2』でも指摘されている通り、メーカー主導だった産業構造がPayPayやLINEPayなどの決済プラットフォーマーに移りつつあることも意味しています。『アフターデジタル1』に推薦文を寄せた参議院議員/自由民主党参議院幹事長の世耕弘成氏が指摘する通り、企業は目先の競争にとらわれずデータやシステムを共有し、業界全体でアフターデジタル化を目指していくことが求められているといえるでしょう。

終わりに

世界で進むDXの本当の意味について解説し、多くの話題と共感を呼んだ『アフターデジタル』シリーズ2作についてご紹介しました。

書籍を読むと、オフラインがなくなる世界の到来はそう遠いものではなく、今あまねく産業の企業がその世界に適合するためのレースを繰り広げているのだと感じられます。

その視点で捉えればデータドリブンやカスタマーサクセス、DXへの取り組みが一本の線でつながって見えてくるのではないでしょうか。そのように視点を統合してくれるという点でも有意義な読書体験となるはずです!

<span style="font-size: 8pt;">【参考資料】
・藤井保文、尾原和啓『<a href="https://amzn.to/3Z12a4B" rel="noopener noreferrer" target="_blank">アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る Kindle版</a>』日経BP、2019
・藤井 保文『<a href="https://amzn.to/3SvrY6x" rel="noopener noreferrer" target="_blank">アフターデジタル2 UXと自由</a>』日経BP、2020
・<a href="https://digital-shift.jp/dx_strategy/200804" rel="noopener noreferrer" target="_blank">「デジタルシフトする以外に選択肢はなし」 元経済産業大臣の世耕弘成氏と考える、ポストコロナの未来社会</a>┃DIGITAL SHIFT TIMES
・<a href="https://twitter.com/numeroFujii" rel="noopener noreferrer" target="_blank">藤井保文氏Twiter</a>
・<a href="https://twitter.com/kazobara?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor" rel="noopener noreferrer" target="_blank">尾原和啓氏Twitter</a>
・<a href="https://www.bebit.co.jp/news/article/20200221" rel="noopener noreferrer" target="_blank">アフターデジタル続編発売決定と、執筆中原稿のリアルタイムでの公開のお知らせ</a>┃beBit
・<a href="https://wisdom.nec.com/ja/series/design/2020062901/index.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">ポストコロナ時代に企業が生き残るには?~『アフターデジタル』著者に聞くDX最強のヒント</a>┃business leaders square wisdom
・<a href="https://diamond.jp/articles/-/239312" rel="noopener noreferrer" target="_blank">ブレグジットとアメリカのトランプ大統領誕生に多大な影響を与えたケンブリッジ・アナリティカ事件の内幕と「行動マイクロターゲティング」の手法【橘玲の日々刻々】</a>┃橘玲の日々刻々
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・<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00010.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">オンライン診療に関するホームページ</a>┃厚生労働省
・<a href="https://www.global.jcb/ja/press/20200821140457.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">JCB、「キャッシュレス決済に関する調査~コロナ禍におけるキャッシュレス決済事情~」を発表</a>┃JCB</span>

宮田文机

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