月探査機「嫦娥5号」のサンプルから約20億年前に形成された比較的新しい火山岩を発見

【▲ 月面で採取されたサンプルを乗せて地球へ帰還した「嫦娥5号」のカプセル(Credit: CNSA)】

中国地質調査局などの研究者からなる国際研究グループは、中国の月探査機「嫦娥(じょうが)5号」(Chang’e-5)によって44年ぶりに地球へ持ち帰られた月のサンプルの一部を分析した結果、約20億年前の火山活動によって生成されたことが明らかになったとする研究成果を発表しました。

嫦娥5号は月面から比較的新しい時代に形成された玄武岩(火山岩の一種)のサンプルを持ち帰ることを目指して、2020年11月に打ち上げられました。翌12月に月の「嵐の大洋」へ着陸した嫦娥5号は月の表面と表面下から合計約1.8kgの岩石を集め、2020年12月17日に地球へ帰還しています。

■従来のサンプルよりも若い約20億年前に形成された玄武岩を発見

【▲ 今回分析された2つの玄武岩の小片の反射電子像(上段)とエネルギー分散型X線分光法による擬色画像(下段)。スケールバーは1mmの長さを示す(Credit: Science, Che et al.)】

今回、研究グループがサンプルに含まれていた2つの玄武岩の小片の年代を測定したところ、19億6300万±5700万年前にマグマから形成されたことを示す結果が得られたといいます。研究に参加したワシントン大学マクドネル宇宙科学センター所長のBrad Jolliffさんは「非常に正確な年代を得ることができました」と語ります。

Jolliffさんによれば、アポロ計画で採取された火山岩のサンプルはどれも30億年以上前に形成されたものだったといいますから、嫦娥5号のサンプルはそれよりも10億年ほど後の時代に月で火山活動が起きていたことを示していることになります。研究グループによると、嫦娥5号が着陸した地域には崩壊時に熱をもたらすカリウム・トリウム・ウランといった放射性元素が集中したことで、これらの元素が火山活動の熱源になった可能性が考えられていたといいます。

ところが、嫦娥5号が採取した玄武岩に含まれるトリウムやウランの含有量は、アポロ計画や旧ソ連のルナ計画で採取された玄武岩のサンプルと同様だったことが今回明らかになりました。このことから研究グループは、この地域に約20億年前の火山活動をもたらしたのは潮汐加熱(別の天体の重力がもたらす潮汐力によって天体の内部が変形して加熱される現象)など別の熱源だったはずだと指摘しています。

■「クレーター年代学」の較正にも役立つと期待

いっぽう今回の成果は、クレーターの数をもとに月面の年齢を求める「クレーター年代学」の観点からも期待されています。月にはクレーターを消すような侵食作用や造山運動がないので、形成されたクレーターは長い期間存在し続けます。そのため、クレーターの数は表面が古い地域ほど多く、新しい地域ほど少なくなります。月面の年齢を求める際にはこの相関関係を活用して、クレーターの数密度から年代を推定するクレーター年代学が利用されています。

ただ、相対的な古さ・新しさはクレーターの数密度を比較すればわかるものの、絶対的な年代を知るためにはその地域のサンプルから年代を求める必要があります。研究グループによると、嫦娥5号のサンプルは情報が不十分だった30億年前~10億年前のギャップを埋めることができるといいます。

また、この時期に月面へ衝突した天体のフラックス(単位時間内に単位面積へ衝突する天体の数)が較正されることで、クレーター年代学が利用されている水星や火星といった他の天体表面の年代を求める上でも役立つといいます。

研究グループは他の重要な問題の鍵を求めて、嫦娥5号のサンプルを厳選する作業を続けているとのことです。

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Image Credit: Science, Che et al.
Source: ワシントン大学 / ブラウン大学 / 新華社
文/松村武宏

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