南雲暁彦氏イベントに見るLeica SL2-S新ファームの威力[Report NOW!]

ライカカメラジャパンでは、ライカ大丸東京店、ライカ松坂屋名古屋店、ライカ岩田屋福岡店にて、写真展示「Lens of Tokyo-東京恋図-」を開催中の写真家・南雲暁彦氏を招き、オンラインセミナーを開催した。

このセミナーのテーマは「ライカSL2-S」とその魅力。M型レンズまで交えた本イベントの様子を、「ライカSL2-S」の性能紹介と共にお伝えしたい。

「ライカSL2-S」新ファームによる動画強化!

まずは本イベント冒頭にもあったように、軽く「ライカSL2-S」のおさらいをしよう。

「ライカSL2-S」はライカカメラ社のフルサイズミラーレス一眼カメラシリーズ「ライカSL2」の動画特化型で、この2021年9月にファームバージョン2.1をリリースしたばかりだ。

「ライカSL2-S」の元となった「ライカSL2」は4700万画素CMOSセンサーをもつ超高画素機で知られるが、この「ライカSL2-S」は2400万画素裏面照射型CMOSセンサー搭載だ。これにより価格がリーズナブルになるだけでなく、動画撮影時の画質向上と暗所性能の大幅な向上を図っている。

ダイナミックレンジを中心とした動画カメラの光学的画質向上のためには1画素あたりの光量を増やすのが必須であり、そのための手段として

  • レンズの物理サイズを大きくする
  • センサーサイズ及びライトサークルを大きくする
  • 同じセンサーサイズ内で画素数を減らす

という方法が用いられる。「ライカSL2-S」のSLレンズは1を達成しておりまたセンサーサイズはもちろんライカ判と呼ばれるフルサイズ。その上で、画素数を減らすことによって動画カメラとしての画質向上を図ったのが本機最大の特徴だ。高画素センサーのまま複数画素の平均値を採る方法もあるのだが、この手法ではどうしても読み出し速度に遅延が生じ、CMOSセンサー特有のローリングシャッターゆがみが非常に大きくなってしまう。その点、はじめから画素数そのものを減らしていれば、むしろ読み出し速度は向上し、なおかつ、市場に多く出回っている裏面照射センサーの採用も可能となることで、暗所性能も格段に向上させることができた。

次に、そのファームウェアの進化について触れよう。当初「ライカSL2-S」は姉妹機「ライカSL2」とほぼ同じ操作形態のファームウェアを搭載したスチルカメラであった。しかし、2021年5月にファームウェアVer2.0が、そして9月にそのバグフィックス判であるVer2.1がリリースされたことで、「ライカSL2-S」はその性質を大きく変えた。

オートフォーカスにタッチで自動フォローフォーカスできる機能を搭載。HEVC動画圧縮に対応し、Long GOPによってデータ量低減化とそれに伴う録画時間制限撤廃を実現。動画をセグメント化してデータ安全性を増し、個別ビューイングLUTを搭載して完成色域での撮影を可能とし、ライブビューの強化、画像のオーバレイ表示、タリーモードの搭載、波形モニターやカラーバー表示、ハイライト測光の強化やダイナミックレンジの拡張など、実用的な動画カメラ機としての機能を強化した、スチル動画兼用のマルチロールカメラへと進化を遂げたのだ。

また、新レンズとして新型ズームレンズである「バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.」との組み合わせも魅力的だ。このファームアップとレンズの誕生で、インタビュー撮影や旅カメラ的使い道にも本カメラの用途が広がったと言えるだろう。特にF2.8の明るさを活かした望遠ズームは、ネイテャーなどの屋外動画撮影にも非常に強力な武器になるだろう。

そのほかにも、Lマウントアライアンスの無数のレンズ群がネイティブに使え、他のレンズ群もマウントアダプタを経由して使えるため、非常に多彩な、レンズ資産を活かした撮影が可能となっている。

今回はこのバージョンアップした「ライカSL2-S」についてのイベントであった。

南雲暁彦氏のレンズとの組み合わせとライカカメラへの思い

続いて写真家南雲暁彦氏のトークイベントをご紹介したい。

南雲氏はかつて中判のライカSシステムを手にし、そこから自然にSL、Mシリーズのカメラ群を触るようになった、という。中でも50mmのMレンズの表現は秀逸で「もう一度写真に出会える感動」を与えてくれた、との事だった。単にシャツを撮ったり自宅の窓から雪を撮っただけで魅力的な写真になったという。

ライカカメラの魅力はやはりレンズ性能の高さで、レンズ開発者のピーター・カルベ氏との対談で「ライカのレンズは開放で撮っていい」と言っていたのが印象的だった、という。また、同じくライカのステファン・ダニエル氏が「SLカメラはMレンズの性能も完璧に引き出せる」と言っていたのも好感触であったという。

事実、「ライカSL2-S」の画作りは、最新鋭の高画素ミラーレス機だけあって、開放で隅々まで完全な光だ。 「我々が目指しているのはデジタルペインティングみたいな画作りでは無く、あくまでもフォログラフィーだ」というピーター・カルベ氏の言葉が南雲暁彦氏の印象に残ったという。 「ライカSL2-S」はどんどん感度を上げても耐えられる最新鋭の高画素ミラーレス機としての性能と、ライカらしさの両立が出来ているカメラだ、と南雲氏は語る。

南雲氏は、最新のズームレンズ「バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.」についてもその性能を語ってくださった。

「もちろんカメラなので足で稼いでもいいんですが」と念を押した上で「しかし、例えば橋の上とか水たまりのど真ん中とか、どうしてもズームレンズでないと撮れない絵というものがある」と南雲氏は語る。

また、三脚が使えない場面でも、F2.8のいわゆる大三元レンズの性能を機動力を持って使えるのは魅力的であった、とのことだ。 「このレンズが出たことによって、SLシステムに安心感が出た」という南雲氏の言葉は筆者も全く同感できる。

「M10で撮っているときは小説を書いているような、一枚一枚書いている印象。SL2システムの場合には覗いた瞬間に僕がのぞいて作り上げた世界がリアルタイムで感動しながら作れる。映像を切る取る感覚」という。この感覚を支えるのが高性能なSL2シリーズのEVFだ。SL2シリーズに搭載されているのは576万ドットのEVFで、この超高性能EVFとそのチューニングの見事さ、EVF自身の光学性能の高さが非常に大きい強みと言える。

南雲氏はこのEVFの性能を生かすため、MレンズをどんどんSLシステムにも使ってみたという。 「ミラーレスカメラでは、Mレンズの性質を使いつつも、リアルタイムで確認しながら撮れるのが強い。画面構成的にも画面上部にフォーカスを合わせるなどの難度の高い撮影がリアルタイムに確認出来る」。例えば、Mシリーズのマニュアルレンズである「ライカSUMMILUX-M F1.5/90mm ASPH.」はあたかもSレンズやSLズームレンズであるかのような巨大な超ド級レンズだが、これも、SLのボディを使うことによって、ピントをリアルタイムで見ながら撮る事が出来る強みがあった。特にアウトフォーカスの光を採用できるのが「こんなに光が溢れている映像になるのか」という驚きがあったという。

南雲氏自身の愛車ルノー アルピーヌの撮影を行ったというが、機材の足かせがないため、ファインダーを覗いた瞬間に世界にのめり込んで撮影が出来たとの話であった。特に逆光で反射の強い車の撮影ではオートフォーカスは迷うことが多いが、マニュアルレンズであるため一発で撮れたのも良かった点だとのことだ。

南雲氏は、とにかく「是非1回Mレンズを付けて覗いて欲しい」と最後に語った。実際、このSL2-Sのシステムは手にしてみるとその素晴らしさがわかる。

現在、ライカ大丸東京店、ライカ松坂屋名古屋店、ライカ岩田屋福岡店にて写真展示「Lens of Tokyo-東京恋図-」を開催中とのことで、本セミナーの作品を直に見ることが出来るとのことなので、感染症に気をつけつつ、是非足を運んでみたい。ライカによるマルチロールカメラの新しい世界が見えてくるはずだ。

末尾に、筆者は論文と制作漬けの生活となっていて、ずいぶんご無沙汰の記事となってしまった事をお詫びしたい。おかげさまで、なんとかデジタル映像デザイナーと2足のわらじで社会人芸術修士を取りつつ、次なる論文と制作に挑ませていただいている。コロナ禍でのイベント復活と共に、少しずつ記事も元通りに書き増し、さらに、この数年で身につけた学術的知識もどんどんと記事に応用して行きたいと考えているので、何卒お見捨て無きようお願い申し上げる次第である。

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