日米通算906登板の五十嵐氏が分析するドラフト 最下位も「ブレなかった日本ハム」

日本ハムから1位指名を受けた天理高・達孝太(左)と西武から1位指名を受けた西日本工大・隅田知一郎【写真:市川いずみ、上杉あずさ】

今季のトレンドは「左腕の補強」 西武、ヤクルト、広島のこだわり

2021年の「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が11日、都内のホテルで行われた。支配下では77人、育成では51人が指名され、プロ入りへの切符を掴んだ。

注目の1位指名では、西日本工大の隅田知一郎投手が4球団競合の末に西武が、市和歌山高の小園健太投手は2球団競合でDeNAが交渉権を獲得。一方、6球団が単独指名で意中の選手を射止めた今年のドラフトを、昨季までヤクルト、ソフトバンク、MLBで投げた五十嵐亮太氏はどう見たのか。

「ほとんどのチームが今年のチーム状況を意識したドラフトでしたね。なので、ある程度は想定の範囲内だったように思います」

その中でも“トレンド”だったのが「左腕の補強」だ。各チームが左投手を上位で指名。中でも、隅田指名で競合した西武、ヤクルト、広島が顕著だった。隅田の交渉権を引き当てた西武は、2位でも筑波大の左腕・佐藤隼輔投手を指名。ヤクルトは外れ1位で法政大・山下輝投手、広島は外れ外れ1位で関西学院大の黒原拓未投手を指名するこだわりを見せた。

指名を受けた左腕の中でも、五十嵐氏はやはり4球団を惹きつけた隅田を高く評価する。

「即戦力の左腕で、少し(楽天監督の)石井一久さんっぽい投げ方ですよね。肘の使い方やボールの出る角度、体のバランスが良くて使い方が上手な点も似ています。大学生だけど、まだまだ延びる可能性がありそうな投手。スライダーも少し工夫したらキュキュッと曲がりそう。今年の左腕ではNo.1でしょうね」

野手を1位指名したのが、中日、楽天、ロッテの3球団。特に中日は1位指名の上武大・ブライト健太外野手に続き、2位で駒澤大の鵜飼航丞外野手を指名した。「チーム状況を見ると、打てる外野手が一番の補強ポイント。即戦力を指名したところに、来年に向けて何としてでも立て直したい意志が見えました」と指摘する。

ヤクルトから2位指名を受けた明治大・丸山和郁【写真:中戸川知世】

古巣ヤクルトは「もう1人くらい外野手を指名しても良かった」

自身が昨季までプレーした古巣・ヤクルトは2位で明治大の丸山和郁外野手を指名した。2軍に長岡秀樹内野手、武岡龍世内野手という二遊間を守れる20歳コンビがいて、五十嵐氏も楽しみな存在と期待をする将来有望な若手だ。となると、ベテラン青木宣親外野手が来年40歳を迎えることもあり、左腕に加えて「課題は外野手」と五十嵐氏は言う。

「塩見(泰隆)と山崎(晃大朗)が28歳。2軍にいる21歳の濱田太貴もいい選手ですが、数年後を考えると若手を補強しておきたいところ。支配下でもう1人くらい外野手を指名しても良かった気はします」

支配下として大学生左腕、大学生外野手、社会人右腕、高校生内野手、高校生右腕と5人を指名。偏らず満遍ない指名に「無難というか攻めていない印象ですね」と評価は辛口だ。

6シーズンを過ごしたソフトバンクについては「選手層は厚いし、今年は外国人選手が当たっていなかっただけ。そこを補強すればなんとかなる」と分析。「14人も育成選手を獲っていますし、選手に2軍や3軍で試合を経験させて、1軍に育て上げるスタンスを考えると、素材のいい風間投手を単独指名できたことは大きかったと思います」と話す。

ヤクルト、ソフトバンク、MLBで活躍した五十嵐亮太氏【写真提供:サニーサイドアップ】

最下位でも即戦力ではなく高校生を上位で指名、変わらぬ日本ハムのスタンス

支配下指名7人のうち6人を投手で固めた巨人も独特なドラフトだったが、五十嵐氏が「やっぱり上手い」と唸るのが日本ハムだ。

1位には天理高・達孝太投手を単独指名。高校BIG3にこそ名を連ねていないが、細身で長身の体を上手く使った投球は「現時点での完成度は高くないけど伸びしろがすごくある」と指摘する。2位では千葉学芸高・有薗直輝内野手を指名。高校生2選手を上位で連続指名した点に、ぶれない球団の方針を感じたという。

「今年はリーグ最下位だけど、来年からいきなり上位を狙うようなドラフトはしていない。即戦力に走らずに、長期を見据えている感じが日本ハムらしいですよね。最下位だからと慌てず、優勝するタイミングを見据えながらドラフトしている感じがブレていない。

下位チームで対照的だったのが、中日と西武。それぞれ外野手と左投手を即戦力で補って、来年から上位を狙おうという方針が見える。その中で日本ハムはスタンスを崩さなかったし、逆に“らしさ”が際立ちましたね」

それぞれのチームが狙いを持って臨んだドラフト。その狙いが正しくチーム強化に繋がったのか、その答えは来年から徐々に明らかになる。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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