つくぼ片山家 ~ 能舞台がある古民家は、地域の交流の場

倉敷駅から茶屋町駅方面へ、車で約20分。

大きな田んぼがいくつも連なる「帯高(おびたか)」という地にたどり着くと、取材当日は黄金色の稲穂が太陽の光に照らされていました。

その一角、背の高い植物が生い茂る場所に、どっしりと構えた古民家があります。

つくぼ片山家」です。

1800年代に建てられた「つくぼ片山家」は、現在も住宅として使う一方、一部の場所は地域の交流の場としても活用をしています。

なかでも、敷地内に「能舞台」があるのは特徴的!

「NPO法人つくぼ片山家プロジェクト」代表である滝口美保(たきぐち みほ)さんの案内で、どのような古民家なのか、またどのような思いで活用しているかなどを取材しました。

つくぼ片山家とは 地域の交流の場として活用する、築200年以上の古民家

NPO法人つくぼ片山家プロジェクト 代表 滝口美保さん

片山家の先祖は、阿波三好家(あわみよしけ)の家臣でした。

新田を買い求めて帯高地区に移住し、1803年(享和3年)に南分家として現在のつくぼ片山家を建築したといわれています。

農業を営みながら土地を増やしていき、当時は豪農として知られていたようです。

滝口さんによると、片山家が代々住んでいた住宅は、2010年(平成22年)頃、しばらくは空き家だったそう。

子孫である滝口さん兄弟が交代で手入れしていましたが、建物も庭も広く、身内だけでは片山家住宅の維持が大変だったと話します。

現在はきれいに整備されている、片山家代々自慢の庭

以降、地域の人をはじめ周囲の力を借りながらの活用方法を考えるようになり、2017年(平成29年)に法人化。

NPO法人つくぼ片山家プロジェクト」として本格的に活用をスタートし、代表に滝口さんが就任しました。

能舞台を使った能楽教室ほか、クラシック音楽の演奏会や交流会など、能楽以外のイベントも数多くおこなっています。

つくぼ片山家の特徴 自慢の庭が最大限楽しめる設計

庭がよく見える客間

つくぼ片山家は、築年数200年以上の古民家。

随時修復はしているものの、つくぼ片山家自体は200年前とほとんど変わらぬ姿を保っています。

なかでも自慢は、建物を支えているはずの柱がないことです。

建物の角を見ると、ガラスのつなぎ目のみで柱はないことがわかる

滝口さんいわく「先祖が庭にこだわる人だったから、庭を見せるために客間側には柱を立てていない」と代々伝えられているそう。

とはいえ、柱がないと軒(のき)が下がってこないか心配になります。

実は屋根裏に軒が下がらないよう「はねぎ」という仕掛けがあり、軒を支えているそうです。

つくぼ片山家の広報誌「つくぼ歳時記」第3号に掲載

200年以上前からこのように工夫した建物づくりがされていたとは、当時の建築技術の精巧さがうかがえます。

ちなみに、軒の裏側はベンガラで塗装されているそう。

「ベンガラ」といえば高梁市の吹屋ふるさと村の景色を思い出しますが、日本古来の塗料として今でも使われています。

ベンガラは防虫・防腐効果があり、見た目は鮮やかな朱色なのが特徴。

見上げてみると、たしかにうっすらとベンガラの朱色が残っていました。

貸出可能な場所とイベント例

つくぼ片山家は、会員になるとイベント会場として利用することができます。

貸出可能な場所とともに、過去におこなったイベントを紹介しましょう。

能舞台があると「能しかできない」と思いがちですが、能以外のイベントも多く開催されているのです。

能舞台

そもそも、古民家の敷地内に能舞台があるのは珍しいのではないでしょうか。

滝口さんの祖母にあたる、片山康子さんが能の師範だったのがきっかけで、「日常的にお稽古ができるように」とつくられた能舞台とのこと。

前列で能面を着用し舞うのが、片山康子さん。後列右から2番目の小鼓を演奏しているのが滝口さん。

隠居屋(いんきょや)だった場所を立て替えて、1978年(昭和53年)に完成

スペースの関係上、橋掛り(はしがかり)や舞台と客席の境目はありませんが、能楽堂さながらの舞台といえます。

橋掛りとは、通常能舞台の下手側(客席から見て左側)に位置する通路のような舞台。本舞台と鏡の間(客席からは見えない舞台袖のような場所)を橋のようにつないでいる。

舞台のもっとも奥にある鏡板は、取り外しが可能。

能舞台ができる前、1965年(昭和40年)頃には鏡板はできていて、能楽の発表会をおこなうときに会場に持って行き舞台を作っていたそうです。

そして、鏡板に描かれているはかなりの迫力があります。

能舞台によっては、写実的に描かれるもの・図案的に描かれるものなど特徴が違うのですが、滝口さんは「ここの松は図案的」とのこと。

描いたのは、京都にある観世会館の能舞台に松を描いた画家のお弟子さん・日展作家の妹背平三(いもせ へいぞう)画伯と記録が残っています。

滝口さんは観世会館を実際に訪れたこともあるそうで「図案的なところが似ていると思った」と話していました。

ちなみに、つくぼ片山家の能舞台はクーラー完備。

クーラーの設備は数年前までなかったのですが、2018年(平成30年)にクラウドファンディングを実施し、見事目標金額を達成!

支援金で業務用のクーラーを設置しました。

今では季節を問わず快適に能舞台での稽古やイベントがおこなわれています。

能舞台の奥には控室があり、会議利用も可能とのことです。

過去開催したイベント

つくぼ片山家の能舞台は、週に1回程度、地域住民の能の稽古場として活用。

ときには片山家と三代にわたって付き合いがある観世流シテ方「林家」の能楽師を招き、能楽講座能の体験教室をおこなってきました。

▼「能楽ナイト」2020年

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

▼「雅楽を楽しむ会」2019年

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

また能舞台は高品質な音響整備がされていることから、能以外にも多くの利用が可能です。

滝口さんは「今後も能楽に限らず、さまざまな方法で活用ができれば」と話しています。

▼「おしゃべり座談会 inミニコンサート」2021年

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

▼「オカリナ演奏会」2017年

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

▼「藁のワークショップ」2019年

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

こうして過去のイベントを振り返ると、利用方法は通常の文化施設と大差ないことがわかりました。

もちろん古民家なので配慮が必要ですが、基本のルールを守れば使い方はかなり広がります

何かの発表の場を、つくぼ片山家の能舞台に移してみるのはいかがでしょうか。

客間

客間は約8畳分の広さがあります。

机を囲んでお話ししたり、何かを作ったりする交流会であれば、客間でも開催できるそう。

つくぼ片山家のこだわりである、「柱がない」ことの良さがもっとも感じられるのが客間です。

客間でふと外を見ると、遮るものが何もない状態で庭の景色を楽しめます。

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

取材日はかなり天気がよかったため、空の青さと植物の緑、少し色づいてきた楓の紅葉が鮮やかに見えました。

いつもとは違う景色を目の前にすると、地域の人との会話も弾みそうですね。

過去開催したイベント

客間では、ひなまつりイベントレストランなど、普段の暮らしに身近なイベントを開催しているそう。

ぜひ季節ごとにイベント情報を確認してみてください。

▼「おしゃべり座談会(家庭菜園教室)」2021年

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

▼「ひな祭り」2019年

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

▼「世界一やさしいレストラン」2019年

写真提供 NPO法人つくぼ片山家プロジェクト

イベント情報はすべて、つくぼ片山家プロジェクトのFacebookかホームページに掲載されています。

図書館のような活用方法も検討中

つくぼ片山家には数多くの本が残っています。

岡山文庫がずらりと並んでいたり、大原美術館50周年の図録があったり……。

岡山の歴史を辿れるのはもちろん、歴史的に価値のある本もあります。

またつくぼ片山家が発行している「つくぼ歳時記」もあり、過去にどのようなイベントがおこなわれたのかを知ることも。

今は本が敷地内のあちらこちらにあり、滝口さんいわく「珍しい本はまだありそう」とのこと。

本を1つの場所にまとめたり、本の重さに負けないよう床を修復したりと受け入れ態勢が整ったら、図書館のような活用もしていきたいそうです。

興味がある人は、今1か所に集まっている本だけでも見に行ってみてください。

おわりに

「能」という伝統芸能を大事にしつつも、つくぼ片山家自体を身近に感じてほしいと思った取材でした。

きっと、滝口さんだけではなく歴代の片山家のみなさんの総意なのではないでしょうか。

能舞台がある古民家は珍しいですが、能以外にも使える能舞台があるのも珍しく思います。

いつも地域イベントに参加する側も、この機会に交流会などを主催してみても楽しいかもしれません。

もちろん、イベント参加者としても気軽に足を運んでみてください。

どっしりとした造りのつくぼ片山家住宅や能舞台が待っています。

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