全国の商業地「基準地価」の上昇率で、福岡市がベスト3を独占!

【基準地価(正式名称「基準値標準価格」)とは】
「基準地価」(正式名称「基準値標準価格」)とは、都道府県が国土利用計画法に基づいて毎年1回、基準地の価格調査を実施するもので、「都道府県調査地価」とも呼ばれる。国が調査する1月1日時点での「公示地価」と共に、一般の土地取引や地方公共団体、民間企業の土地取引の目安として活用される。

商業地「基準地価」上昇率ベスト10に、福岡市の7地点が入る

国土交通省は2021年9月21日、同年7月1日時点での都道府県の調査地価である「基準地価」を発表した。それによると、商業地の上昇率で全国上位10地点のうち、7地点が福岡市内だった。そして、全国トップは福岡市博多区綱場町で、福岡市博多区冷泉町、福岡市中央区高砂2丁目と続いてベスト3を独占した。

博多区綱場町【地図】は、博多駅地区と天神地区からほぼ等距離にあり、オフィスビルとマンションが混在するエリアである。”学問の神様”として有名な菅原道真公が博多の地に上陸した際、漁師らが敷物として漁網を丸く輪に巻いて差し出したことが地名の由来となっている。

「基準地価」の商業地で全国でトップの上昇率となった、福岡市博多区綱場町の界隈

同じく博多区冷泉町【地図】は、博多駅から徒歩圏内にあり、オフィスビルとマンションが混在するエリアである。その地名は、13世紀に博多湾で人魚が漁網にかかり、勅使として冷泉大納言が来博して以来、「冷泉津」とも呼ばれたことに由来する。

また、中央区高砂2丁目【地図】は、博多駅地区と天神地区からは、共に2キロ圏内にある。「日赤通り」の西側に位置するエリアで、この通り沿いにオフィスビルが立ち並び、一歩入るとマンションと民家が混在する住居地区でもある。

今回発表分の「基準地価」において、全国の全用途平均は前年比0・4%減で2年連続の下落となった。商業地はコロナ禍による訪日外国人客の消失や営業時間短縮などによるホテルや飲食店の需要減が続いて、全国平均で0・5%減と前年比で下落率を拡大させた。一方、住宅地は全国平均で0・5%下落したものの、前年比で縮小しており、都市部の利便性の高い地域での需要は堅調だった。

福岡県は、県内60市町村922地点で商業地や住宅地などの土地の値段の上昇率を調べた。県内の商業地は6年連続で上昇し、前年から2・7%アップして全国1位となった。また、住宅地でも同2位の伸び率をみせ、福岡県の全用途で上昇率が1・9%アップしており、1981年以来40年ぶりに全国首位に躍り出た。

なぜ福岡市で、商業地「基準地価」上昇率旋風が起きたのだろうか?

商業地での「基準地価」において福岡市の各地点が好調だった点について、今回の基準地価調査をとりまとめた不動産鑑定士である、日本不動産研究所九州支社次長の高田卓巳さんは次のように解説する。

高田さん
元気な都市である福岡市を象徴する結果ではないでしょうか。たしかに都心部での上昇率は鈍化や横ばい傾向にあるものの、中心部から少し外れた周辺部では依然として上昇傾向にあります。周辺部に多いマンション用地に対する需要が高く、全般的に上昇しています。
また、「天神ビックバン」に代表される都心開発の影響が周縁部へ波及しており、従来マンション利用が中心だったエリアがオフィス利用に切り替わることによって地価を押し上げたケースもあります。

政令指定都市の中で最も高い人口の増加数・率を誇る福岡市は、定評ある住みやすさをはじめ、コンパクトシティとしての利便性やアジアへの近接性、さらに食のポテンシャルなどもあって不動産投資も活発だ。これらの条件が重なり、福岡市における商業地の地価を押し上げているといえる。

商業地「公示地価」上昇率ベスト10でも、福岡市の8地点が入る

「基準地価」の商業地における上昇率で旋風を起こした福岡市だが、半年前の「公示地価」の商業地の上昇率でも全国ベスト10のうち8地点を占めていた。そして、福岡市全体の商業地も6・6%増を示し、初めて全国トップに立った。

「公示地価」とは、地価公示法に基づき国土交通省が全国に定めた2万6,000地点を対象に毎年1月1日時点で調べた土地の価格。毎年3月下旬に発表している。

2021年3月発表の「公示地価」は、コロナ禍で全国の商業地・工業地・住宅地の全用途平均で0・5%減と、6年ぶりに下落した。そうした中、商業地2・4%増、住宅地1・5%増と高い伸び率を示した福岡県は、上昇率で初の全国1位を獲得した。

不動産価値は、目的や評価方法によって異なる

一つの土地であっても目的や評価方法によって、その不動産価値は異なってくる。不動産価値のベースになっているのは〝時価〟だ。つまり、実社会において、いくらで取引されているかが、一つの判断基準となる。

時価を基づいて「公示地価」、「基準地価」、「相続税評価額」、「固定資産税評価額」が決められている。時として一物四価ともいわれることもある不動産価格を整理すると、次のようになる。

「基準地価」は、毎年7月1日時点での地価を各都道府県が9月下旬に公表する。「基準地価」の発表は「公示地価」の半年後であり、地価変動を補完する役割も担っている。

一方、「公示地価」は毎年1月1日時点での土地の標準価格を国土交通省が毎年3月に公表する。「公示地価」は、土地の基本的な価格であり、土地取引の目安とされている。

課税のために評価基準が、「相続税路線価」と「固定資産税路線価」だ。前者は国税庁、後者は全国の市町村(東京23区は東京都)が実施する。また、前者は公示価格の8割、後者は同7割をめどとしており、「公示地価」が、地価の最上位基準になっている。

国土交通省では、Webサイト『土地総合情報システム』において「公示地価」や「基準地価」と共に情報収集した「実勢価格」も公開している。

地価変動は、《社会的要因×経済的要因×行政的要因+個別的要因》

では土地の価格は、どのようにして決まるのだろうか?

一般的には、「社会的要因」「経済的要因」「行政的要因」などによって決まる。「社会的要因」とは、人口の増減や移動、世帯構成などを指す。不動産も需要・供給に左右され、人が多く集まると需要が高まって地価は上昇する。逆の場合は下落する。

「経済的要因」とは、金利に代表される金融政策に起因する。金利が下がれば不動産取引は活発化する半面、逆に上昇すると冷え込み、不動産価格は下落する。また、金融機関が不動産融資に積極的だと不動産価格は上がり、逆に消極的だと下がる。

「行政的要因」とは、行政の土地利用計画が不動産価格に影響を与えることだ。再開発や区画整理が進んで人々が集まると、地価は上昇傾向となる。

上記の3つの要因以外に、「個別的要因」という要素もある。不動産は唯一無二の存在であり、土地の形状や建物、用途、収益性、さらに当事者の事情も影響する。

福岡市の場合、「社会的要因」として政令指定都市トップの人口増加があり、「経済的要因」として世界的な低金利やカネ余り状態にある。「行政的要因」では、「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」などの都心開発がけん引役を担っている。これらの結果、福岡市は「基準地価」の商業地アップ率でベスト3を独占し、さらに「公示地価」でも存在感を示しているのだ。

今後の福岡市における可能性を地価で占ってみると⁉

地価が上昇傾向にある福岡市の商業地で唯一、下落したのは歓楽街・中洲だった。コロナ禍による影響で空き店舗が増えた結果だ。不動産市場へのコロナ禍の影響を注視する必要があり、一部では不動産を売り急ぐ動きがあったという。

この点について、高田さんは、次のような見解を示す。

高田さん
業績が悪化した企業が財務改善のために不動産を売却した事例や、価格の値下がりを見込んで売り急いだケースもあったものの、買い手が多いので価格的に横ばいのままで下がらなかった取引も多くありました。値段がこなれてくると、むしろ不動産取引がさらに活発化することも考えられます。
福岡市内では、コロナ禍によるオフィス床の縮小は去年でほぼ一巡していますが、大企業のオフィス床に対する判断はこれからになります。今後、福岡市のオフィス需要はこうした大企業の動き次第ですが、コロナ禍による影響は、東京ほどは大きくないものとみています。

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「公示地価」「基準地価」などに代表される地価は、ある意味でまちづくりに対する〝通信簿〟であり、都市の実力を表すモノサシという側面を持つ。しかも、その通信簿は「公示地価」や「基準地価」として半年ごとに発表される。

「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」などの都心開発に目が奪われがちだが、福岡市のまちづくりへの評価ともいえる「公示地価」「基準地価」にも注目していく必要があると筆者は考える。

【参考サイト】
国土交通省『土地総合情報システム』
福岡県地価マップ:地価公示・地価調査

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