プロで“本当に親切な先輩”とは? 元燕・五十嵐氏が伝えたい成長のために大事なこと

ヤクルト、ソフトバンク、MLBで活躍した五十嵐亮太氏【写真:荒川祐史】

97年ドラ2で敬愛学園高からヤクルト入り、23年活躍した大先輩からの言葉

2021年の「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が11日、都内のホテルで行われた。支配下では77人、育成では51人が指名され、プロ入りへの切符を掴んだ。

今回は1位指名12人のうち、半数にあたる6人が高校生だった。高校BIG3と呼ばれる市和歌山高の小園健太投手(DeNA)、明桜高の風間球打投手(ソフトバンク)、高知高の森木大智投手(阪神)に加え、天理高の達孝太投手(日本ハム)、昌平高の吉野創士外野手(楽天)、市和歌山高の松川虎生捕手(ロッテ)が名前を呼ばれ、誇らしい笑顔を咲かせた。

1997年のドラフトでヤクルトに2位指名され、敬愛学園高からプロの世界に足を踏み入れた五十嵐亮太氏。活躍の場を海外にも広げ、23年の現役生活では日米通算906登板を記録する大投手となった。現在は解説者を務める五十嵐氏が、球界の大先輩として高校生選手たちに貴重なアドバイスを送った。

今年のドラフトの様子をテレビや配信で見守ったという五十嵐氏は「断片的ではありますが、僕もドラフトされた当時のことを思い出しましたね」と笑顔で続ける。

「ドキドキもしたし、ワクワクもしたし。ただ、ドラフトにかかると言われて、かからない選手もいると聞いていたので、期待半分不安半分でした。名前が呼ばれた時はホッとしましたよ。結果的にヤクルトに入団して、有難い野球人生を送らせてもらいました。アメリカ行って、ソフトバンクでプレーして、最後にまたヤクルトのユニホームを着て。最高の形で締めくくらせてもらいました」

入団当初は「10年できるかできないか」と考えていた現役生活は23年を数える。「20年以上なんて考えてもみなかった」と他人事のように驚く五十嵐氏は、高校生たちに「時間を無駄にしないように」とアドバイスを送る。

「昔はコーチや監督から『ああしなさい、こうしなさい』と指示されることを練習して、自分に合うものと合わないものを選ぶ感じでしたが、今はどのチームも自主性を大切にしてくれる。チームに何か強制されることがない反面、結果を残すという自覚や1軍で投げるイメージを持って、自分から積極的に取り組まないと、気が付いたら置いていかれてしまいます。プロとしては当たり前だけど、コーチの意見を待つことなく、自分からアクティブに動く姿勢を持ってほしいですね」

本当に親切な先輩とは…五十嵐氏が教える“先輩の見極め方”

今年ドラフトされた選手の中にも、幼い頃に将来の夢としてプロ野球選手を掲げた人は多いだろう。五十嵐氏は「プロに入っただけで満足しちゃったら、いい野球人生は送れません」と続ける。

「また新たな夢を持って、1軍で活躍するためにはどうしたら抑えられるのか、誰よりもいいピッチャーになるぞという意気込みを忘れずにやってもらいたいですね。どこかで気持ちが緩む時があると思うけれど、時間は待ってくれないし、思っているほど時間やチャンスはないことを覚えておいた方がいいと思います」

そしてもう1つ、プロ野球選手として成長するために、必要なものと不必要なものを見極める目を持ってほしいという。特に、先輩との人間関係においては「この先輩、あまり好きじゃないな」と思ったら、遠慮なく距離を置くようにアドバイスする。

「野球界に長くいて成績を残せていない選手の中には、後輩をかわいがる『面倒見のいい先輩』という立場に自分の存在価値や意義を求めたくなる人がいる。そういう人は普段の生活から四六時中、後輩を側に置いて引き連れ回します。本当に親切な先輩は、何かがあった時に手を差し伸べてくれる人。何から何まで後輩を囲おうとする若い先輩は、実は野球に集中する環境を壊していることもある。そこは注意した方がいいですね。

そういう先輩に限って、本当は後輩を構っている余裕がない立場にいることが多い。直感で『この先輩といてもいいことがない』と思ったら、そこで無駄な時間を過ごしちゃいけません。自分が野球で成功するためには『この先輩は素敵だな』と思える先輩と過ごすべき。誘いを断れないことがあるかもしれないけれど、これは結構重要なので、賢く割り切る判断力や上手い逃げ方は持っていてほしいですね」

野球をはじめとするスポーツ界では、年上の先輩の言葉は“絶対”とされた時代があるが、今となってはもう昔。練習においても、人間関係においても、本当に自分に大切なものは何かを見極める判断力が、プロとして成功を掴むカギを握ることになりそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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