冷凍庫から出して30分後が食べ頃?常識を覆す「とけにくいアイス」が誕生した理由

固すぎるとスプーンが刺さらないし、溶けすぎると冷たくなくておいしくない。アイスをおいしく味わえる時間は短く、食べているそばからどんどん溶けていきます。

温かいパンケーキの上にのったアイスがすぐに溶けてしまったり、アイスフロートのアイスが溶けてドリンクが濁ったりすると、アイスを味わうのにちょうどいい状態がもっと長く続けばいいのにと思ったことはありませんか。

「アイスはすぐに溶けるもの」そんな常識を覆す、新しいアイスが誕生しました。


どこにいてもおいしいアイスが食べられる

アイスはすぐに形が崩れて溶けてしまう――当たり前のことですが、それを課題として商品開発に取り組み、誕生したアイスがあります。ロッテが今年3月に業務用として発売された「とけにくいアイス ゆったりバニラ」です。

「とけにくいアイス」は、高齢者施設内でもおいしいアイスが食べたいという声から生まれました。というのも、高齢者施設では一度に多くの食事の配膳準備をする必要があり、また食事にかかる時間も長くなることが多いため、入居者にとってすぐに溶けてしまうアイスは不向きなデザートとされてきたのです。

ですが、溶けにくいアイスであれば、“溶けること”がネックとなって普段アイスを食べられなかった人たちにもアイスを楽しんでもらえると考え、企画から商品化までおよそ2年の歳月をかけて開発されました。

冷凍庫から出して30分後が食べ頃?

「とけにくいアイス」は、通常のアイスに比べてどれくらい溶けにくいのでしょうか。

マイナス18℃の冷凍庫で温度調節した通常のアイスは、室温25℃の環境におくと、30分後には溶けて大きくかたちが崩れ、60分後には液状になってしまいます。一方、「とけにくいアイス」は30分後も冷凍庫から出した時のかたちをキープ。60分経つと、わずかに溶け出しているものの、ほぼそのままのかたちを保っています。

「とけにくいアイス」の食べ頃は、冷凍庫から出して30分後。アイスが柔らかくなって、できたてのソフトクリームのような食感が楽しめるといいます。

おいしい状態が長続きする秘密

通常のアイスよりも溶けにくい理由は、溶けにくさとおいしさのバランスを考慮したゼラチンの絶妙な配合量にあります。ゼラチンを多く入れると溶けにくくはなりますが、ムースのようなもったりとした食感になってしまい、アイスとしての冷たさを感じづらくなるといいます。また、これまでに培った技術を活かし、原料の調合や冷却工程・時間などを調整して工夫を重ねてきました。

溶けにくいからといって、通常のアイスに比べて味が落ちるわけではありません。ロッテ・マーケティング本部 戦略商品企画部 小田島俊介さんによると「基本的に通常のバニラアイスと変わらず、クリーミーで滑らかな食感の、おいしいバニラの味わいになっております。複数の有料老人ホームの 96 名の入居者にたずねたところ、95.8%のかたに『おいしい』と回答していただきました」。

「とけにくいアイス」は学校給食にも

「とけにくいアイス」は、集団給食の提供に最適として日本食糧新聞社主催「第25回 業務用加工食品ヒット賞」を受賞。高齢者施設にとどまらず、すでに学校給食にも採用されているといいます。

また、ドリンクに入れても通常のアイスよりかたちが長持ちするため、今年4月にはロッテリアのデリバリー専用商品「出前クリームソーダ」(すでに販売終了)にも使用されていました。「今後はテイクアウトやデリバリーでも活用していただきたい」と小田島さん。

いまは業務用のみで展開している「とけにくいアイス」。今後、スーパーやコンビニなどで購入できるようになるのでしょうか。

「アイスが溶けることにより、さまざまな理由でアイスが食べたくても食べられなかった方々にアイスをお届けし、笑顔になっていただきたいという思いがありますので、反響を見ながら判断していきたいと考えています」。

「とけにくいアイス」の誕生によって、これまでアイスの提供は難しいとされてきた場面でも、アイスを楽しめるようになってきました。“アイスはすぐに溶ける”という常識を覆した新しいアイスのこれからの展開に期待が募ります。

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