ネトウヨDappiと自民党の関係が国会で追及されるも岸田首相はゴマカシ…一方、河井案里裁判でも業者がネット工作を証言

公式Twitterより

Twitterで野党やマスコミ叩きをしている有名ネトウヨ匿名アカウント「Dappi」が、自民党に金で雇われた業者の運営だった疑惑が出てきた件が、ネット上でさらに大きな波紋を呼んでいる。

本サイトでも既報でお伝えしたように、Dappiに攻撃を仕掛けられた立憲民主党・小西洋之参院議員らが発信者開示請求訴訟を起こしたところ、発信元がウェブや広告の制作会社であることが判明。しかも、同社の取引先には「自民党」の名前があったと伝えられ、さらに「BuzzFeed Japan」が政治資金収支報告書などをもとに〈同党の小渕優子衆議院議員や参議院選挙比例区の支部なども同社と取引があることもわかった〉と伝えたことから、ネット上ではこの会社を特定する動きとともに、「#ネトウヨDappiの正体を追え」というハッシュタグがトレンド入りした。

また、本日おこなわれた参院代表質問では、立憲民主党の森ゆうこ参院議員が、詳しくは後述する2019年参院選におけるネット工作問題の事実を取り上げた上で、Dappi問題にも言及。岸田文雄首相をこう追及した。

「国会質疑の動画を編集して、本来の意図とはまったく違う内容のフェイクニュースをつくり上げ拡散し、野党を攻撃してきたTwitterアカウントの運営者が法人であることがわかりました。しかも、BuzzFeedニュースの調査によれば、その法人は、自民党の議員や自民党の支部との取引があることもわかりました。まもなく解散総選挙がおこなわれます。総理! 今回の選挙ではお金を使ってネット工作をおこない、選挙の結果を不当に歪めるような卑劣な行為を自民党の議員におこなわせないと、この場でお約束いただけませんか」

この追及に与党席からなのか大きなヤジが起こったが、しかし、対する岸田首相の答弁は、「選挙運動や選挙活動については、公職選挙法などに定めがあります。我が党の議員にかぎらず、それぞれの議員や候補者がそれらのルールに従って発信をし、選挙運動をおこない、政治活動をおこなうべきであるということ。これは当然のことであると考えます」と述べただけ。ネット工作が根も葉もないデマならば即座に否定したはずだが、岸田首相は否定も肯定もせず、一般論でごまかしたのだ。

●Dappi運営疑惑の会社は、自民党元議員の政策担当秘書が代表の非営利法人の指定販売代理店

ますます深まる「Dappi=自民党から資金を得たネット工作業者」説。しかも、このウェブ・広告制作会社にはもうひとつ、自民党との接点がある。

会社情報検索サイトに掲載された同社の情報では「主要販売先」の筆頭に「自由民主党」と書かれているだけではなく、「KADOKAWA」とも記載されている。

ちなみに同社は、KADOKAWAのグループ会社と安倍元首相と当選同期の自民党元衆院議員の政策担当秘書を務めた人物が代表を務める非営利法人が共同研究・開発した商品の指定販売代理店にもなっている。

この非営利法人のHP上のブログでは、自民党議員や派閥の政治資金パーティや勉強会のレポートのほか、安倍晋三・元首相が辞任した際に〈国際社会で存在感のなかった日本の立場をここまで高めた総理はいない〉〈安倍首相の人となりを多少なりとも知る身としては総理自身に疑惑はないものと信じる〉と記述したり、安保法制が可決・成立した際には〈野党が戦争法案反対、徴兵制反対などを声高に叫び、その声をメディアがそのまま報道するため、国民の多くが反対の声をあげる結果となりました〉〈事実に反したレッテル貼りをし、国益を貶めるような行為を、一度は政権を担った経験のある政党が行なったことは誠に残念〉〈マスコミもその声を検証もせずにそのまま報道するような姿勢ははいかがなものか〉(原文ママ)と綴るなど、自民党政権寄りであることは明らかだ。

もしかすると、Dappiと自民党の間に、この非営利法人がなんらかの役割を果たしているのか。

いずれにしても、Dappiは16万人というフォロワー数を誇るインフルエンサーでありながら、単に野党やマスコミを攻撃するだけでなく、これまで数々と悪質なフェイクを駆使してきた。そのような影響力を持つアカウントが自民党に雇われたネット工作部隊だったとすれば、間違いなく政権を揺るがす大スキャンダルだ。

実際、自民党はこれまでもネットやSNSを使って組織的な情報操作をおこなってきた事実が判明。既報で詳しくお伝えしたように、電通からの提案で始まったとされる自民党のネット対策の特別チーム「Truth Team」(T2)プロジェクトをはじめ、野党議員の悪質なデマ情報を拡散させていたネトウヨ向けサイト「政治知新」の運営者が菅義偉・前首相に近い自民党神奈川県議の弟だったことなどがわかっている。

しかも昨年には、自民党のネット工作の一端が、裁判という公の場でも明らかになっている。

その裁判とは、河井克行・元法相と河井案里・前参院議員が有罪となった2019年参院選における大規模買収事件の公判でのこと。この参院選挙では安倍元首相の秘書が複数名、指南役として投入され、さらには河井夫妻側に自民党本部から1億5000万円もの選挙資金が提供されていた。自民党はこの問題について独自の調査をおこなうこともなく、岸田文雄首相も調査を拒否しているが、じつは、昨年10月19日に東京地裁でおこなわれた河井案里氏の第21回公判では、この選挙において展開されたネット工作が、当の雇われたネット業者の供述調書によって明らかになったのだ。

●河井案里の裁判でネット業者が「克行先生から溝手先生のイメージを悪くするよう言われ」と証言

中国新聞デジタルが詳報した供述調書によると、このネット業者の代表取締役I氏(供述調書および記事では匿名)が河井克行氏と知り合ったのは2016年、選挙プランナーを介してだった。そしてI氏は、克行氏の依頼を受けて仕掛けた選挙戦におけるネット工作について、検察に対してこのように赤裸々に語ったのだ。

「克行先生にネガティブな書き込みがあれば、検索に表示しにくくする、逆にポジティブなことを表示しやすくして、イメージを良くする、そのような業務をしていました。17年秋の衆院選では、克行先生の依頼で選挙に通りやすくなるようなSNS上の工夫をしたり、対立候補のイメージを悪くしてネガティブな記事の工作をしたりしていました」
「参院選では案里さんのイメージを向上させるようなウェブサイト、SNS、ネガティブ記事の対策を講じていました。克行先生から(参院選広島選挙区に立候補した)溝手(顕正)先生のイメージを悪くするよう言われ、溝手先生のネガティブな記事を投稿していました。架空の人物を名乗り、ブログを書き込み、溝手先生や県連が案里さんをいじめるようなことをしていると、克行先生に確認して記事を投稿しました。私の独断で投稿しているのではなく、具体的な内容は克行先生に指示されていました。ブログの内容も指示を受けました」

つまり、克行氏が出馬した2017年の衆院選においても「対立候補のイメージを悪くするネガティブな記事の工作」はおこなわれ、案里氏が出馬した2019年の参院選では対立していた溝手氏を陥れるために、克行氏からの直接内容の指示まで受けて「架空の人物を名乗ってブログを書き込んでいた」というのである。

案里陣営の元スタッフが公判で語った証言では、克行氏が集会などで溝手氏と案里氏が同席した際には「溝手氏が案里被告に邪険な態度をとるかもしれないから必ず動画を撮るように」「動画を配れば面白いことになる」と指示していたことも判明しているが、それだけではなく、わざわざ業者を雇い、世論操作のためのネット工作が展開されていたというわけだ。

実際、同社には2017年に克行氏が代表を務める自由民主党広島県第3選挙区支部から「ネット世論動向調査」として合計150万6600円が、2019年には案里氏が代表を務める自由民主党広島県参議院選挙区第7支部から「WEBサイト制作代」として43万2000円、「チラシデザイン作成・印刷代」として195万4785円、「動画作成費」として63万7200円、合計302万3985円が支払われている。

しかも、案里氏の政党支部が修正して9月末に提出した「政党交付金使途等報告書」によると、約300万円にものぼるこれらの費用はすべて原資が税金である政党交付金から支出されている。つまり、税金によって世論操作のためのネット工作がおこなわれていたのだ。

●河井克行が雇ったネット業者も自民党元秘書 ネット工作は元秘書たちのビジネスに?

これだけではない。公選法違反疑惑を「週刊文春」(文藝春秋)に報じられた直後、克行氏は「買収リスト」の流出を恐れてA氏に相談。A氏が「専用のソフトを使えば(消すのは)簡単ですよ」と伝えると「じゃ、それ買ってきてよ」と言われたといい、その後、克行氏の議員宿舎や広島の自宅、河井夫妻の事務所でA氏はデータ削除の作業を実行。「一連の報酬として自民党広島県第3選挙区支部から約82万円をもらいました」と証言している。

この選挙買収事件は、そもそも溝手氏に対する私怨を募らせていた安倍元首相の意向から案里氏を公認候補として擁立し、溝手陣営の10倍にもなる1億5000万円の巨額を選挙資金として投入、その上、金で票を買うという重大な公選法違反がおこなわれたものだ。その事件の大きさから陰に隠れがちだが、このように対立候補を陥れるために下劣なネット工作がおこなわれ、原資が税金の政党交付金から約300万円もの金がネット工作業者に注ぎ込まれていたことが公の場で明らかになった事件でもあったのだ。

事実、この税金を使ったネット工作問題について、本日の参院代表質問で森ゆうこ議員が「政党交付金を原資とする1億5000万円(編集部注:1億5000万円のうち1億2000万円が政党交付金)がネット工作に使われていなかったと断言してください!」と迫ったにもかかわらず、岸田首相は前述したように「ルールに従って発信をし、選挙運動をおこない、政治活動をおこなうべき」と答弁しただけで、ネット工作に税金が使われたことを否定しなかった。

しかも、克行氏が少なくとも2017年の衆院選時からネット工作を依頼していたことを考えれば、自民党にとってネット工作業者を雇うことは日常茶飯事なのではないか。

現に、克行氏に雇われて架空のブログやSNSで対立候補のネガティブ情報を流し、「買収リスト」の消去作業まで担ったネット業者の代表取締役I氏は、じつは自民党衆院議員の秘書を務めた経験を持ち、2009年には自民党横浜市連青年局次長として横浜市議会議員補欠選挙に立候補(落選)。この選挙戦では菅前首相も応援に駆けつけていたという情報があるだけでなく、冒頭に紹介したネトウヨ向けサイト「政治知新」の運営者である菅前首相に近い自民党神奈川県議の弟とも親交があり、A氏自身も「SNS上の与党ばかりを応援するブログやSNSアカウントと関係があるのではと噂になっていた」と報道されていた(「NEWSポストセブン」2020年11月2日付)。

さらに、河井夫妻のネット工作を請け負ったA氏が代表取締役を務めるこの会社は、河井夫妻のみならず他の自民党議員とも取引。政治資金収支報告書を確認すると、Dappiの発信元だったウェブ・広告制作会社とも取引があった小渕優子・自民党組織運動本部長が代表の政治団体「未来産業研究会」は2019年に「ホームページ対策コンサルティング」代として11万円を、下村博文・前政調会長が代表の「自由民主党東京都第十一選挙区支部」も同年に「コンサルタント費」として2回、計130万2000円を支出しているほか、複数の自民党議員が同社と取引をおこなっている。

●ネトウヨはトンデモ論理でDappi擁護も、オーストリアではメディア操作発覚でクルツ首相が辞任

ともかく、選挙戦において自民党議員が業者を雇い、場合によっては原資が税金の政党交付金を使って対立候補のネガティブ情報を積極的に拡散させるなどのネット工作をおこなっているという事実を踏まえれば、野党や政権批判をおこなうメディアを攻撃し、フェイク情報も流してきた有力ネトウヨアカウントであるDappiも、同じように自民党からの依頼でネット工作を実行してきたとしても何ら不思議はない。そして、繰り返すがこれが事実であれば、政界を揺るがす大スキャンダルである。

一方、ネット上では「Dappiが法人で何が悪いのか」、「リテラもDappiも同じようなもの」「dappiがダメなら赤旗もダメ」などという意見まで出てきているが、バカも休み休み言ってほしい。当然ながら、本サイトはいかなる政党からも金を受け取っていないし、赤旗はそもそも政党機関紙だと名乗っている。かたやDappiが問題になっているのは、自民党と取引がある法人であることを隠して一般人になりすまし、政権を擁護するだけでなく作為的に野党など自民党の「政敵」に対してフェイク攻撃を仕掛けていたこと、さらにはそのネット工作に公金が流れている可能性さえ出てきたからだ。

先日、オーストリアのクルツ首相が辞任を表明したが、これはクルツ氏らが過去に〈クルツ氏に有利な世論が形成されるよう、世論調査会社やメディアグループに公金を支払った疑い〉(朝日新聞10日付)があり、クルツ氏や側近らを検察当局が強制捜査したためだ。検察当局はクルツ氏率いる与党・国民党の党本部や首相官邸、財務省などを家宅捜索したというが、同じ民主主義国家である日本でもこうした捜査がおこなわれて然るべきだし、本来、Dappi問題は徹底調査がおこなわれなければならない重大事なのだ。

今朝になってようやく東京新聞がDappi問題を報じ、前述のとおり国会でも取り上げられた。岸田政権はこのまま知らんぷりするつもりなのだろうが、今後、メディアによる徹底した報道が必要なのは言うまでもない。
(編集部)

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