「どうせすぐ体がぶっ壊れると…」 7年の肩痛、元鷹左腕が過ごした“奇跡の1年”

今季はBC茨城アストロプラネッツに所属した坂田将人

BCリーグ茨城の坂田将人が5年半ぶりの登板、シーズン全うして引退決断

5年半ぶりの公式戦登板となった4月4日。目に映る全てが愛おしい。「ブルペンで準備している段階とか、ベンチから伝達がくる時間とか、そんな一つ一つが新鮮だったんです」。元ソフトバンクで、ルートインBCリーグ・茨城アストロプラネッツの坂田将人投手が、肩痛で苦しみ続けた先に見た景色。あっという間に駆け抜けた2021年シーズンは、44試合に登板。万感の思いで、ユニホームを脱いだ。【北原野乃】

2010年のドラフト5位でソフトバンクに入団。同期には、育成選手だった千賀滉大投手や甲斐拓也捕手、牧原大成内野手がいた。2017年に退団するまでの7年間で1軍登板なし。育成と支配下を行ったり来たりもした。半分以上の4年間は、肩痛との戦いだった。2018年から3年間在籍したBCリーグ・栃木ゴールデンブレーブスでも登板には至らず。治療費に充ててきたNPB時代の貯金も心許なくなってきたころ、奇しくも肩の状態が上向き「あと1年」と決めた。

「どうせ何試合か投げたらすぐ体がぶっ壊れると思っていました」

好転したと思ったら悪化する。もう何度も繰り返し、今季も半信半疑だった。茨城には練習生として加入し、開幕に合わせて登録選手に。迎えた4月4日の古巣・栃木戦では、9回に登板して1イニングを1安打無失点。緊張よりも圧倒的に楽しさが上回った。その後も、信じられないほど肩からの悲鳴は聞こえない。気がつけばリーグ2位の44試合を投げ、1勝2敗3セーブで防御率2.91の成績が残った。

肩痛に悩まされた現役生活も最後の1年で「全てが報われました」と語る坂田将人【写真:荒川祐史】

周囲に支えられたプロ人生「僕よりも僕のことを諦めていない人たち」

球団から契約更新の話もあった。もしかしたら肩は耐えられるかもしれないが、球威に限界を感じているのも事実。そして何より、湧き立つ思いがある。「これだけ腕を振って投げられた。まだやりたいという気持ちよりも、達成感の方が大きかったです」。引退の決断に、晴れやかな笑みが浮かぶ。

11年間のプロ生活は、自分ひとりだったらとっくにリタイアしていた。家族やチームメート、治療してくれた専門家、そしてファン。「僕よりも僕のことを諦めていない人たちのことを見ていると、諦めるわけにはいきませんでした」。時間はかかったが、ようやく果たせた恩返し。「僕が投げているということに、みんなは驚いたと思います」と頭をかいた。

もう、朝起きて左肩を回して確かめる必要もない。安堵が占める心の中に、少しだけ寂しさもある。言うことを聞かない肩と付き合ってきた日々。なぜ辞めなかったのかと問われれば、少しだけ思いを巡らせて言う。「野球が好きだから」。何物にも代え難いマウンドでの高揚感を、最後に堪能できた。「全てが報われました」。心置きなく、第2の人生に向かっていく。(北原野乃 / Nono Kitahara)

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