「クライモリ」 捜索する父親を描くことで立体感 ちょっとの工夫でリブート成功 【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味のホラー道 第5回「クライモリ」

2003年に公開され、その後、6作ものシリーズ作を生んだ『クライモリ』がリブートされた。訳あって、山奥の道に迷い込んだ若者たちが、そこに人知れず暮らす、人食い連中に襲われるというストーリー。『ターミネーター』シリーズの視覚効果で知られるスタン・ウィンストンがプロデューサーと特殊メイクを担当し、出演俳優も本作の後に『トゥルー・コーリング』や『ドールハウス』といったTVシリーズで人気を博したエリザ・デゥシュクをはじめ、現在も活躍中の若手俳優が顔をそろえていた。映画自体もなかなかの完成度で、よくありそうな設定の中、スリリングな描写を連続し、最後まで息をつけない出来になっていた。

問題はその後のシリーズ化で、ヒット作の続編にありがちなパターンで、前作の設定を踏襲するだけで、演出はどんどん雑になり、見る影のないシリーズになっていってしまったのだ。第5作では『ヘルレイザー』シリーズのダグ・ブラッドレィが出演するテコ入れを行ったりしたが、派手になっていったのは音響効果くらいだった。

だが作り手たちは可能性をあきらめていなかった。若者たちが禁じられたところに入ってしまう基本設定はそのままに新たな作品作りにチャレンジし、見事、大成功した。全米ではイベント上映で終わったものの、間違いなく一見の価値のある作品になっている。自分は輸入盤のブルーレイで観たのだが、時間軸をうまく使った語り口や、恐怖感をあおる音響効果に夢中になってしまっていた。

若者たちが、山奥にある自然歩道でキャンプを楽しもうとするが、つい冒険心が湧き上がって、立ち入り禁止地区に入ってしまったため大災難に遭ってしまう。これだけなら従来と似たようなものだが、6週間後、行方不明になった若い女性の父親スコットが、娘と友人を探す様子を並行して描きだすことで、映画に立体感が生まれている。よくよく考えれば、失踪者の家族が必死に捜索するのは当然で、本作ではそのことがとても自然に見えるのだ。そして観客は若者たちが行方不明になるのは分かっているので、いつどこで、そうなるのか、そして父親は娘たちを探し出すことができるのかが、より緊張感をもって見守ることになる。

父親のスコット役にはマシュー・モディーンが配役された。スタンリー・キューブリック監督の『フルメタル・ジャケット』など、今更説明の必要がない大スターだが、若い映画ファンには『海底47m』や、Netflixの『ストレンジャー・シングス 未知の世界』で悪役の博士を演じていたことで記憶されているかもしれない。ある意味、陰の主役と言える存在なので、彼のファンとしては、久々に満足できる作品とも思えた。

基本的な話は変わらないものの、ちょっとした工夫や見せ方、世界観の広げ方で、観客の満足度が全く変わってくることを証明した本作。リブートやリメイクはもう飽き飽き、というファンも多いとは思うが、本作を観れば、そこに可能性はまだまだ秘めていると感じてもらえるはずだ。公開規模はかなり小さい作品なので、見逃しがちになりそうだが、優先順位を高くして、公開が始まったら、早めに映画館に駆けつけてほしい。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


■作品情報
クライモリ
2021年10月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
配給:AMGエンタテインメント
(C) 2020 Constantin Film Produktion GmbH

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