安田賢司(監督)×福井晴敏(シリーズ構成/脚本)- 「宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 前章 -TAKE OFF-」世代交代・継承というものを描いています

出した条件がヤマト世代じゃない人という事

――安田(賢司)さんは『宇宙戦艦ヤマト(以下、ヤマト)』どストライクの世代ではない中、今作から参加されたという事ですが。

安田:

はい、そうです。『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち(以下、新たなる旅立ち)』は79年の作品で、当時7歳ですから観ていてもおかしくはないですが。

――内容から考えるとお兄さんの作品という感じですね。

安田:

そうですね。

――今作で安田さんに監督をお願いすることになったその経緯を伺えますか。

安田:

今までのリメイクシリーズはストライク世代の方が制作されていて、『ヤマト』に愛着のある皆さんの作られた作品という事で非常に濃いモノが出来あがっていきました。今回は新クルーが出てくるという事もあってあえて世代ではない人にやってもらいたいという事だったので、そういう事であればお引き受け出来るかなと思ったんです。細かいルールや世界観を本当に知らなかったので最初は荷が重いなという気持ちもありましたが、ゼロからスタートできるのであれば参加してみようという所で引き受けさせていただきました。

福井(晴敏):

「好きな振りはしないでいいです」とお伝えしていました(笑)。私は前から参加していたのでそこから引き続きという事になりますね。『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち(以下、2205)』制作は『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち(以下、2202)』の制作中に決まっていました。『2202』でああいった決着を迎えたことで私の中でやり切ったという思いはあったんです。ですが、作品の登場人物たちや地球の運命を思うと酷いところに放り出してしまったような気もしていました。最終回だけ見るとこれから物事が良くなっていくのかもしれなという微かな希望を感じて終わっていますが、じっくり考えてみると丸裸になったという事じゃないかと。

――文明ふくめてほぼスタートに引き戻された形ですからね。

福井:

そうなんです。周りになんの悪意もない世界であればいいですが、色んな異星人が居るという事が分かっている世界で丸裸なんです。しかも、古代進と森雪の引き換えにそうなってしまったので、居づらいに違いないですよね。その辺を押さえつつ、ちゃんとリメイク物としての体裁を整えてという事を考えると私じゃなきゃ無理だと思ったんです。それで引き続き参加しています。

――監督として安田さんをお誘いしたのは何故ですか。

福井:

安田さんも先ほどおっしゃっていましたが、『2205』を作るにあたって出した条件がヤマト世代じゃない人という事だったんです。そうでないと、原作の『新たなる旅立ち』をなぞってしまうことになると思ったんです。まるっきりなぞるのであれば、原作を見るのが一番いいですから。

――デジタルリマスターでいいじゃないかとなってしまうわけですね。

福井:

そういう事です。『ガンダム』をやった時に分かったのですが、画調を揃えようと本来のシーンに合わせてどんなに頑張って描き直しても元々の作品より良くは出来ないんです。思い出補正に勝つことは絶対にできない。でも、まるっきり繰り返しでは意味がないので、今の時代に合わせた物語にし直していくために新作アニメを作る気構えで来てもらわないと困ってしまうんです。『ヤマト』を作るんだという気構えで来られてしまうとそこがブレてしまうことになるので、今回はその点を安田さんに担っていただきました。ベストな方に引き受けていただけたと思っています。

思い出・印象に残っているところは押さえられていると思います

――原作『新たなる旅立ち』の印象を伺えますか。

福井:

『ヤマト』を『ヤマト』たらしめているものがあるとすれば、その重しが一番ギュギュっと乗った作品だと思います。それは何かというと人情物語であって、悪い意味ではそこを優先するがあまりのご都合主義的な展開も見受けられます。ファミリーで観られる作品を意識していった結果、出来上がった作品だと思います。 安田:そういった意味では今回のリメイクはそのままやる訳でないという事でホッとしたところもあります(笑)。福井さんのおっしゃる通り、冒頭のデスラーが星を巡るやり取りなどご都合的なところがありました。もちろんリスペクトするところはリスペクトしながらではありますが、『2205』では一新されて説得力と驚きを伴った出来になっていると思います。

――リスペクトと説得力を伴ってという事ですが、どのようにして脚本を作り上げていかれたのでしょうか。

福井:

『2202』完結時での地球や登場人物たちの置かれている状態があって、その先の大きな道標としては『新たなる旅立ち』に描かれるイベントが待っている。これだけの条件がそろっていて、あとは物語を縫い合わせていくだけなので、脚本での苦労はあまりなかったです。

――安田さんからこういった形はどうだろうかのような提案はあったのでしょうか。

安田:

自分からこれやりたいんだという事があったわけではないので、お任せして上がってきたものを確認しながら進めていくというのが主な作業でした。自分の考えるオリジナル展開やキャラクターといった色気を出すよりもシリーズ作品の世界観に乗せてもらったというような感覚ではあります。プレッシャーはありましたが、「知らない人間にやって欲しい」という事で呼ばれたんだからとそこは割り切って、早い段階から知らないことは聞き、自分のやるべきところを見つけながら特化していく方向にシフトしていきました。

福井:

そのままでは新たに作る意味はないのでアプローチは変えています。そうは言っても、このシーン・この音楽といった印象に残っているものはきちんと再現しているので、そういったポイントで『新たなる旅立ち』を観ているんだという気持ちになってもらえると思います。また、『宇宙戦艦ヤマト2199』『2202』と同じ線路上を走っているのでシリーズ作品としても見所のある作りになっています。

安田:

ヤマトファンのみなさんの中にある思い出・印象に残っているところは押さえられていると思います。単純に原作を再現している訳ではないですが、観ていただけると『新たなる旅立ち』だと思ってもらえるんじゃないかなと。

福井:

当時のストライク世代の人たちがこうだったら良かったのにと思ったことにきっちり答えようと制作しました。全く違うものを持って来るのではなく、『ヤマト』のあの雰囲気・お話・画は押さえています。

確かめるために乗ってきている

――今作では新クルーが登場します。その中には『新たなる旅立ち』や『宇宙戦艦ヤマトⅢ(以下、ヤマトⅢ)』のキャラクターもいて、その辺りについて伺えますか。

福井:

旧シリーズでは『新たなる旅立ち』から登場しているキャラクターが、その後いなくなっているんです。なのに『ヤマトⅢ』では新人が来ましたという態で土門(竜介)たちが来る。旧シリーズでは大河的なスペクタクルを描こうとしているのですが、シリーズを通して物語が繋がっていかなった箇所も多くあります。リメイクシリーズでは先々までの流れを考えて、今作を起点にして(キャラクターが)巣立っていけるよう種まきをしていきましょうという意識で描いています。自分や安田さん以上にヤマト世代であるスタッフのみなさんの方がそこをちゃんとやろうという意識が強くて、それに答える形で配置していきました。

――苦労された点やディスカッションされたキャラクターはいましたか。

安田:

苦労した点は誰をどこに配置するかという事ですね。

福井:

そうですね。今回は三隻もいるので、そこをどういう風にしようかと悩みました。

――キャロライン雷電など今までのシリーズにはいなかったタイプのキャラクターも出ていますが。

安田:

雷電が何故女性になったかはまた別の話ですが、地球を救う話なのに日本人しかいないというのは腑に落ちないところもあったんです。そのことを聞くと「そういうもんだ」と返ってきて。

福井:

そんなに自信満々には答えてないです。俯きながら、ボソボソっとでしたよ(笑)。

安田:

そうでしたね(笑)。いろんなタイプのキャラクターはいた方がいいかなと思っていて、そういった話もしました。

福井:

雷電が女性になったのは、薮(助治)が再登場して、徳川(太助)もいる。流石に恰幅のいいキャラが3人は多いので「雷電はいらないだろう」という話も出ましたが、雷電は『ヤマトⅢ』で印象に残っている人もいるしという意見もあって、どうするかとなった時に女性化したらどうかという驚きのアイデアが出てきたんです。なので、ああいう大変身を遂げました。安田さんも言っていますが、日本人しかいないということは、今後リメイクシリーズが続いていくとしたら、どこかで説明しないといけないポイントではあるかなと考えています。『2202』では他の人種がいることは描いていますが、やりすぎると『ヤマト』っぽさがなくなってしまうので難しいところですね。

安田:

そうですね。そこは『ヤマト』っぽさという点では割と大きな要素だったりするんですよね。ヤマトという戦艦に日本の名前の人たちが乗って、活躍して、宇宙だけど海の上のように戦っている。そこが変わってしまうと別の作品になってしまうんだろうなと思います。

――『ヤマト』っぽさと、現代の感覚、作品としての整合性はこれからも挑戦していくことになりますね。

安田:

そうですね。

――今作で重要な存在と言えば土門になりますが、どういった点を意識して描かれましたか。

福井:

古代がああいう立場になって四六時中だれかに見られていて、世間からは「あいつが居なければこんなことにならなかったのに」という事を陰で思われている。でも、それは外の話で『ヤマト』の物語は90%以上が艦の中で繰り広げられるので、艦の中では仲間が庇うじゃないですか。

――そうですね。

福井:

庇われても古代は1人で悩んでいると思いますが、困ったり・言葉に詰まると周りの仲間がフォローしてくれる。それではドラマにならないし、古代進という男がどこへ進んでいくのかという物語を描くにあたって、ぶつかる相手が居ないとダメなんです。その相手が土門でその相手を面前に置き、いつも庇ってくれる雪と真田さんを外しました。

――二人は今作では違う艦に居ますもんね。ほかにも新クルーが入ってきていて、最前線を知るヤマトクルーたちと、侵略を受けた経験はありつつも最前線を知らない新人たち。その精神面での格差があると思いますが、その心理的な部分を描く際に意識されたことについて伺えますか。

福井:

そうですね。原作の『新たなる旅立ち』では選ばれたことで浮足立つ新人たちと、最前線を経験して戦いの現実を知っているクルーたちの対比になっていますが、今回は違います。作中の時間では、ついこの前、誰しも大きな戦災を経験しているはずなんですよ。

――そうですね。

福井:

原作では描かれていませんが、本来は戦火の傷跡がガッツリ残っているはずです。大半の人が肉親を戦災で失っている、それは新人クルーたちもそうなんです。土門も戦災ではないですが、大切な人を失っている。そうすると彼らにとってヤマトに乗るということはキャリアを上積みするためではなく、親たちが命を懸けて守ったこの世界は命を懸ける価値があったのだろうかという事を確かめるために乗ってきているんです。その点が原作とは大きく違っています。むしろ、前線で戦っていた古代たちよりも真っ直ぐで強烈でズンとくるそういう強さを若いクルーの方が持っているかもしれないですね。

――待つ立場が持っていた不安もありますからね。

福井:

古代たちはなんだかんだ言っても、沖田(十三)艦長に守られて育てられました。『2202』ではそこを取り外して独り立ちさせています。新人クルーたちは指針がないまま今の世の中に参加する価値があるのかなという不安を抱えながらやってきていて、世の中に対して自分たちがどうアプローチしていいのか分からないと状況でグラグラしていて、その気持ちを古代に突き詰める。そういった世代交代・継承というものを描いています。

――安田さんならではの視点で切り込まれたことがあれば伺えますか。

安田:

福井さんもおっしゃる通り、宇宙に出てしまうと艦の中でしかお話が出来ないんです。そういった中でも別の視点が必要であろうという事で、土門というキャラクターに新しい役割も持たせています。当然乗組員であれば活躍の場もありますし、非常に良いバランスで配置できたのかなと思います。実際に劇中でも新人たちが活躍するシーンも沢山あります。そういった意味では古代の気持ちをまだ理解できてない人たちの姿を通して、古代たちの立場が浮かび上がっているのかなとも思います。

――いよいよ上映が始されましたが、改めて『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』に対する思いをお伺いできますか。

安田:

ヤマト世代の人にとっては思い入れとともに新しい展開が待っていますし、ストライクではない世代の人にとっても新人の土門たちと一緒に『宇宙戦艦ヤマト』の世界や、古代やデスラーといったキャラクターたちのドラマチックな物語、そして迫力ある映像と音楽、楽しんでいただける沢山の要素が詰まっています。ぜひ大きな画面と大音響で楽しんでいただければと思います。

福井:

これだけ話しても『ヤマト』に対する先入観はまだまだあると思います。このシリーズはそういった方々が想像しているものとは本当に違うものになっています。今回は特にその点を凄く突き詰めていて、誰が見ても共感できて泣ける作品になっていると思います。なので、騙されたと思って観てもらえると嬉しいです。冒頭には今までのあらすじもついているのでスルッと観れると思います。ぜひ劇場で観てください。

©西﨑義展/宇宙戦艦ヤマト2205製作委員会

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