<社説>衆議院解散 安倍、菅政治の総括を

 岸田文雄首相は14日、衆議院を解散した。首相就任からわずか10日で解散、解散から17日後には投票というのは戦後最短の異例の日程だ。 岸田首相はコロナ禍で選挙後の補正予算の実行を急ぐと言うが、ならば野党から要求があった予算委員会の審議に対応してもいいはずだ。政権支持率の高いうちに総選挙を実施してしまおうという党略にしか映らない。衆院を解散して国民に何を問うのか、大義を明確に示すべきだ。

 衆院選は今年最大の政治決戦として自公政権の継続に対する是非が示される。直接的には岸田政権だが、問われるべきは9年近くに及んだ安倍、菅政権の政治姿勢だ。

 国民が政治に求める最重要事項が新型コロナウイルス対策であることは間違いない。現在は感染状況が落ち着いているが、長い緊急事態宣言で国民は不自由を強いられ、経済も疲弊してきた。盤石を誇った安倍、菅政権もコロナ対策で後手に回ることが目立ち、退陣に追い込まれる引き金となった。

 未知の感染症に対する政府の初期対応に不備はなかったか。感染拡大に伴い多くの自宅療養者が出る中で、国民の暮らしと命を守る取り組みは十分だったのか。第6波への備えは大丈夫か。与党は総括を示すべきであり、野党は対案を示して競うべきだ。

 経済や社会活動を動かすための政策や支援策も重要だ。一方で聞こえのいい「ばらまき型」ではなく、財源確保の裏付けも含めた責任ある議論が欠かせない。

 経済政策で岸田首相は「新自由主義的な政策の転換」を掲げるが、具体策は見えない。円安株高を誘導して大企業と資産家を潤わせ、中小企業や労働者にはその後に恩恵がしたたり落ちてくるとした「アベノミクス」の総括と評価こそを、まずは国民に問わなければならない。選挙の顔をすげ替えたからといって避けて通れる議論ではない。

 沖縄については安倍、菅政権の下で、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設が推し進められた。対話を求める県の求めに耳を貸さず、政府は2018年12月に埋め立て海域への土砂投入を強行。以降も各種選挙や県民投票の結果にもかかわらず、「粛々と進める」という態度を貫いた。沖縄戦の激戦地だった本島南部の土砂を埋め立てに使用する計画の是非が問われる。

 岸田首相は所信表明で「丁寧な説明」「対話による信頼」に言及したものの、沖縄への姿勢が前政権までと変わるのかどうか具体的なことを示さずに衆院選を迎える。

 南西諸島への自衛隊の部隊・装備配備が強化され、日米一体の演習強化も進んでいる。対中関係の動向次第で沖縄周辺での武力衝突の可能性が強まってきている。外交や安全保障のかじ取りを誰に任せるのか、沖縄の将来に関わる重要な総選挙となる。

© 株式会社琉球新報社