読書の楽しさ、目の見えない人にも 朗読図書を制作 佐世保の牟田口さん

朗読図書を編集したり、聴いたりする機器を説明する牟田口さん=佐世保市内

 視覚障害がある人もない人も共にライトノベルなどを楽しむ「バリアフリー読書サークル YAクラブ」(埼玉県上尾市)の3代目代表に、長崎県佐世保市内ではりなどの治療院を運営する牟田口達也さん(49)が就任した。同クラブの発起人の一人でもあり「見える人にも見えない人にも、いろんな人に本の楽しさを伝えていきたい」と意気込みを語る。
 牟田口さんは同市出身で生まれつきの全盲。幼い頃から本が好きで点字図書館や盲学校の図書室に入り浸っていた。しかし、置いてあった本は専門書やベストセラーなど大人向けの作品ばかりで、子どもが楽しめるライトノベルや漫画はほとんど無かった。当時は調べる方法がなかったので、置いてある書籍以外にどんな選択肢があるのかすら分からなかった。「どういった本があるか分かっていて『読まない』ことと『読めない』ことは違う」と牟田口さん。
 県立盲学校の専攻科を出て、関東の大学に進学。友人らに「漫画を読みたかったが自力では読めないので諦めていた」との気持ちを打ち明けた。すると友人が「目が見えなくても漫画やライトノベルを楽しめるグループを作ろう」と発案。1999年5月に、障害がある人とない人約10人で同クラブを発足させた。
 同クラブは視覚障害者らのための複製・公衆送信が認められる文化庁の個別指定を受け、音訳などの活動をしている。現在全国の10代から90代までの74人が所属。このうち障害のある人は50人で、24人は障害がない人。会員から要望があった図書などのうち、視覚障害者を対象にインターネット上で点字や朗読図書の提供などを行う「サピエ図書館」には無い図書を、同クラブの協力員が音訳して朗読図書を制作し、貸し出している。
 蔵書総数は1317作品に上り、1冊約3~10時間。月に数回「Zoom(ズーム)」などを利用して会員同士の交流会も開き、作品の感想を語り合うなど「本を楽しむ喜び」を共有している。漫画の音訳は「『あ』に濁点をどう読むか」、「想像できる余白を残しつつ絵をどこまで説明するのか」など難しいため、ライトノベルに比べ数は少ないという。
 99年に帰郷した牟田口さんは、これまで朗読図書の編集作業などで同クラブを支え、代表には今年6月に就任した。好きな漫画は高橋留美子さんの「らんま1/2」。「とりとめのないドタバタ感」が乙なのだそう。牟田口さんは「どんな人も、好きな時に自分のペースで好きな本が読める。そんな日が来ることを願っている」と結んだ。問い合わせは同クラブホームページで。

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