衆院解散

 答弁を終えて自席に戻る吉田茂首相のつぶやきがマイクに拾われ、これが呼び水になった1953年の「バカヤロー解散」は直前の衆院選投票から165日目の出来事だった。否決されるはずだった内閣不信任決議案が自民党反主流派の思わぬ欠席によって可決されてしまった大平正芳内閣のハプニング解散(80年)は226日目▲衆院の解散は〈全議員を一度にクビにする仕組み〉と説明されることがある。えっ、せっかく選挙を勝ち抜いたばかりなのに…当時の議員さんたちの悲鳴が聞こえる気がする▲そんな「一寸先は闇」を地で行く事態に比べれば、関係者の準備も覚悟も格段に整っているはずだ。そうでなければおかしい。「バンザイ」の音量が高めに聞こえたのは気のせいか。4年間の任期を7日だけ余して衆院が解散された▲主要政党の公約がほぼ出そろった。選挙の間際になって各党が発表を競う様子は、新学期を目の前に宿題に追われた夏休みをどこか思わせるが…吟味を急ぎたい▲岸田文雄首相の命名は「未来選択選挙」。仰せの通り、選挙はいつだって未来選びだが、与党は正も負も清も濁も合わせた“過去”や“実績”も評価対象。お忘れなく▲政治史に残る短期決戦だが、そこを言い訳にしないところから始めてほしい。熱い論戦を望む。(智)

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