「海外では当たり前の環境」18歳の海外留学で挫折も…川島永嗣が7カ国語を操れる理由

今や活躍の場に海外を選ぶアスリートが増えているが、多くの日本人選手が直面するのが、「言葉」の壁ではないだろうか。サッカー日本代表最年長38歳の守護神・川島永嗣は今年6月、2018 年から在籍しているフランス1部のストラスブールとの契約を2年延長した。クラブからの絶対的信頼を得ている理由の一つが「語学力」という武器を使ったコミュニケーション力に他ならないだろう。いったいどのように語学を身につけていったのか? 自身の経験を通じて、サッカー選手における語学の重要性について明かしてくれた。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、写真提供=Global Athlete Project)

海外で言葉でコミュニケーションを取ることで抱いた、ある感情

――川島選手は語学に対する意識が高い印象があります。すごく印象に残っているのが、スタンダール・リエージュ(ベルギー1部)に所属していた2012年にインタビュー取材をさせてもらった後に、川島選手が自分と担当編集をイタリアンレストランでの貸し切りパーティーに呼んでくれて。フランス語、英語、イタリア語、日本語が飛び交う中で、川島選手がそれぞれの間に入って通訳して、ということをさりげなくやれていたことに感動しました。

川島:ありましたね(笑)。懐かしい!

――一番得意なのは何語なんですか?

川島:一番は英語じゃないですかね。それと、今はフランス生活が長いのでフランス語も。続いてイタリア語、スペイン語、ポルトガル語、オランダ語はちょっとした会話ならばできる程度です。

――最初に語学を勉強し始めたのはいつ頃ですか?

川島:自分で勉強し始めたのはプロに入ってからです。それこそ(高校を卒業し、大宮アルディージャへ入団した後)、18歳の時にイタリア留学した後くらいからですね。

――イタリア留学して、パルマに練習参加へ行ったことがきっかけで、ということですか?

川島:そうですね。そこでかなり刺激を受けました。自分自身の言葉で直接コミュニケーションを取ることで相手を理解したいという気持ちを強く抱いたんです。例えば、練習にしてもそうだし、コーチが何を自分に伝えようとしているのか。練習の意図は何なのか。

ピッチ外でも、それまで日本にしか住んだことがなくて、日本では正解だったものがイタリアの文化では正解じゃないということがあるわけです。そういった日常の中で、その違いをどう受け取るかで自分自身が成長するきっかけが全く変わるんじゃないかとすごく感じたので。考え方も含めて。

あとは、例えば練習に行ったら、チームメートと仲良くなるじゃないですか。そこで表面的に仲良くなるだけじゃなくて、相手が何を考えているのか、もっと深いところまで話せる関係になりたいなというのはすごくありました。

――具体的にはどのように勉強したんですか?

川島:最初は独学で、単語を一生懸命書いたり、文法の本を買ったりという感じです。基本的に毎日時間を決めて、15~30分くらいやっていました。

――そこから20年くらいのキャリアの中で、ずっとそのような勉強を続けているんですか?

川島:さすがに今は、書いて勉強するというよりは、分からないことを調べたり、自分が関係ない分野の記事を読んだりして分からない言葉を調べたり、という感じですね。特にフランスにいると、自分が知らないフランス語がサッカー以外の日常生活で結構使われるので、それが勉強になっています。

相手を理解した上で自分がどういう行動を取るのか判断基準ができる

――自分自身の言葉で直接コミュニケーションを取れるようになったことで、具体的に変わったことは?

川島:まず大前提として、それぞれの国で風土も違うし文化も違うじゃないですか。その中で、実際に言葉を通して会話することで、相手をより理解できるようになる。相手を理解した上で自分がどういう行動を取るのかという判断基準が自分の中でできるというか。ただ一概に一つの方向から見た関係だけではなくて、いろいろな方面から見た中でその人がどういうことを考えているのか、より感じられるようになったと思います。

――サッカーの指示で使う言葉だけでは、ピッチ内でもピッチ外でもコミュニケーションが全然足りないということですよね。

川島:指示が出せればそれだけでもかなりチームメートと信頼関係を築くことはできると思いますけれど、やはり指示を出すだけではなくて、どうやったらチームが良くなるかを考えなきゃいけないですし。どうしたらチームメートが100%以上の力をチームの中で発揮できるのか。チームメートを理解することでチームをより良い方向に導いていけるんじゃないのかなと思います。

――勉強し始めてすぐにできるようになるわけではないですよね。挫折したことはありましたか?

川島:最初は分からないこともたくさんありました。例えば、英語を勉強している時は、試しに実際に自分で海外の旅行先のホテルに直接電話して予約の確認をしてみたりすると、自分が勉強した言葉と実際に使う言葉が違ったり。そういったギャップは、最初の頃は多く感じていました。挫折というか、話せない悔しさを感じる部分はありましたね。

――それでも努力し続けるためにどんな工夫をしましたか?

川島:楽しく勉強することは忘れなかったです。うまく伝えられなかったり理解できなかった時に、「自分には(語学は)できない」とか「語学が向いてない」とか、そこで答えを出してしまうことはしなかったですね。失敗した時には次にどんなアクションを起こしたらいいかとか、理解できるようになったら、次はどうしたらよりレベルを上げられるかなと考えていました。

サッカーをしながら英語を学ぶ。川島の経験を生かしたスクール

――そういった自分自身の経験が、現在、川島選手がアンバサダーを務めているGlobal Athlete Project(グローバルアスリートプロジェクト)にも生かされているんですか?

川島:そうですね。そもそも、言葉を話せないことってすごいストレスなんです。今でこそ僕は多言語を話せるようにはなっていますけど、さっき話したようにイタリア留学した時は何も分らない状態で行ったので、初日から相手の言っていることが理解できなかったり、「自分の存在価値って何なんだろう」と感じるくらい孤独を感じたこともありました。

今の子どもたちには、そういうことを経験してほしくない。僕たちの時代って外国語に対して壁が一枚あったと思うんです。話せないのが当たり前というか。でも、やっぱりこれからの若い子たちにはどんどんその壁を取り除いてほしいと思うし。逆に外国語を話せるのは当たり前という感覚になっていってほしいなと思います。

――グローバルアスリートプロジェクトでは、サッカーやキッズチアといったスポーツを通して、“英語を学ぶ”ことに目的を置いているのがすごくいいですよね。

川島:ただ勉強するだけでは挫折しやすいし、なかなか覚えられない。勉強しても実際に口から言葉が出てこなかったり。動きながら勉強することで、まず、「楽しく学べる」こと。それから、「体を動かして連携させる」こと。行動と言葉を連携させることで、より身になるということが大きいです。

海外では複数言語を話せて当たり前。日本でも普通になってほしい

――サッカー選手としてだけでなく、キャリアや人生の選択肢が増えるという意味でも語学力はすごく大きな武器になると思います。川島選手はそういったことを意識していたんですか?

川島:僕は結構旅行が好きで、海外へ出ると英語プラスもう一つの言語を話せるのが当たり前という環境だったりします。ベルギーにいた時は特にそうでした。2、3カ国語話せて当たり前。一歩外に出てみるとそういう日常があるので、例えば英語を話せるだけでもすごく世界が広がると思います。実際にその国の言葉でコミュニケーションを取れるようになると、相手の反応や自分が理解できることが変わっていくんです。若い時に考えていたわけではないですけど、旅行に行ったりする中で、逆にそれが普通じゃないといけないんだなと感じました。

――フランスに移籍することになってからフランス語にチャレンジして、今ではフランス語でコミュニケーションを取れるようになったのもそういうことですよね。

川島:今のチーム(ストラスブール/フランス1部)でも「フランス語を話せ」って言われます。その国の言葉で話すことによって、受け入れられ方は全然変わってくるのかなと。あとは何より自分が一番楽しいです。話せることで、チームメートやクラブスタッフたちとコミュニケーションが取れるし、私生活の中でもより多くのことを知れるので。

――初めての海外でベルギーに移籍した当初(2010年)は、英語はどのくらい話せたんですか?

川島:自分が言いたいことを何とか伝えられるくらいで、そんなに会話はできなかったです。当時は英語で話していると、言いたいことは伝えられるけど自分の言葉を話している感覚がなかった。話しているのに話していない、というような感じがすごかったんです。日本語でこうやって話すのと違って、ボキャブラリーがないから。

言語は自分自身の可能性を広げてくれる

――海外に出ていく選手が以前では考えられないくらい増えています。語学は海外へ行く前に身につけておいたほうがいいですよね?

川島:海外へ行く前はもちろん、行かなくても勉強しておくに越したことはないです。自分の可能性を広げるという意味では、海外に出たかろうが出たくなかろうが、勉強しておいたほうが確実に可能性は広がると思います。

――グローバルアスリートプロジェクトの活動の背景にも、そういった思いがあるんですね。

川島:そうですね。日本人の「外国語に対して一枚壁がある」という感覚から、これからの世代には、逆に「英語を話せて当たり前」となってほしいという思いが強いです。

――今では海外から多くの人が日本に来るようになりましたし、インターネットの発達によって日本から出なくても海外とやりとりできるようになり、世界がより身近な世の中になりました。

川島:今は、Google翻訳のような通訳機能も含めて、技術が発達していろいろなサービスがあるじゃないですか。でもやっぱり、人に言われた言葉を自分自身の中で考えて理解したり、自分の言葉で話して伝えることは、人と人同士だからこそできることだと思います。

<了>

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川島永嗣選手がアンバサダーを務めるGlobal Athlete Project(グローバルアスリートプロジェクト)では、現在、英語サッカースクール、英語キッズチアスクールの事業拡大に伴い、新規スタッフを募集しているとのこと。詳しくは、下記Webサイトの「スタッフ募集」をご確認ください。

PROFILE
川島永嗣(かわしま・えいじ)
1983年3月20日生まれ、埼玉県出身。サッカー男子日本代表。浦和東高校卒業後、大宮アルディージャに加入。名古屋グランパスエイト(当時)、川崎フロンターレを経て、2010年に初の海外移籍。リールセ、スタンダール・リエージュ(以上ベルギー)、ダンディー・ユナイテッド(スコットランド)、メスを経て、2018年からストラスブール(以上フランス)に所属。日本人GKとして初のUFFAヨーロッパリーグ、UEFAチャンピオンズリーグ予選に出場を果たす。日本代表93キャップ。FIFAワールドカップ3大会出場。英語・イタリア語・フランス語など複数言語を理解するなど語学が堪能なことでも知られる。スポーツを通じて日本人の語学面をサポートする「グローバルアスリートプロジェクト」の発起人兼アンバサダーも務めている。

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