ロックンロールの成立に大きな影響を与えたシスター・ロゼッタ・サープの『ライヴ・イン・1960』

『Live in 1960』(’91)/Sister Rosetta Tharpe

1964年、マディ・ウォーターズ、オーティス・スパン、サニー・テリー&ブラウニー・マッギー、レヴァレンド・ゲイリー・デイヴィスらブルースアーティストと、ゴスペルシンガーでギタリストのシスター・ロゼッタ・サープが参加したヨーロッパツアーは大盛況に終わった。イギリスはマンチェスターのみの公演であったが、マンチェスター南部の廃駅でサープが行なったテレビ用のパフォーマンスは、エリック・クラプトン、ミック・ジャガー、ブライアン・ジョーンズ、キース・リチャーズ、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックなど、多くのブリティッシュロッカーに大きな影響を与えることになった。今回取り上げるのはロックンロールを生み出した世界最初のアーティストと言えるシスター・ロゼッタ・サープの本領が発揮された『ライヴ・イン・1960』(’91)で、エレキギターを搔き鳴らしながらシャウトする彼女の職人技が収められている。

スピリチュアルからスウィングへ

僕の手元に『フロム・スピリチュアル・トゥ・スウィング』(’59)という2枚組(LP)のレコードがある。このレコード、1938年と39年にカーネギー・ホールで行なわれた歴史的なコンサートを抄録したもので、ロックやR&Bが生まれる前のさまざまな音楽を紹介する実に貴重なアルバムである。タイトルにあるように、教会で歌われるスピリチュアル(ゴスペル)、ブルース、ブギウギ、ディキシーランドジャズ、スウィングジャズなど、ロックが生まれるために必要な栄養分をたっぷり含んだ重要な録音がたくさん収録されている。特にロックンロールに直接の影響を与えたブギウギは、このアルバムで初めて世界に知られることになる。アルバート・アモンズ、ピート・ジョンソン、ミード・ルクス・ルイスのトリプルピアノによるブギウギを聴き感銘を受けたアルフレッド・ライオンが、翌年ブルーノートレコードを創設するのは有名な話である。

1999年、このアルバムのコンプリート盤(3CD)がリリースされ、そこにはシスター・ロゼッタ・サープとアルバート・アモンズの共演が2曲収められていた。30年代にもかかわらず、この時点でサープのギターは既にロックンロールのスタイルを確立しているのである。この時の演奏が当初のLPに収められていたなら、ロックンロールの歴史は少し変わっていたかもしれない。

シスター・ロゼッタ・サープのこと

サープは1915年生まれで、母親が教会のゴスペル歌手兼ブルースマンドリン奏者で、彼女は幼少期から母親を真似てゴスペルを歌いながらギターを弾くようになる。6歳の頃にはギターと歌で巡業を始めているので、かなり早熟のプレーヤーである。彼女のギタースタイルは、ジャズとブルースの中間的なフレージングが特徴で、ゴスペルに合う演奏スタイルを試行錯誤しながら身につけたものだろう。

39年に最初のソロレコード「ロック・ミー」をリリースする。このレコードがゴスペル界において初のミリオンセラーヒットとなった。前述の『フロム・スピリチュアル・トゥ・スウィング』に出演したのは38年で、自身のレコードデビュー前に大物たちと共演しているのだから、デビュー前から相当に人気があったと思われる…というか、当時はギターを弾く女性自体が珍しいのに、独創的なギターを弾きながら歌を歌い、曲も書いているのだから相当注目されていたはずである。

そして、サープは40年代に入ると早くもエレキギターを手にして活動するようになる。

ロックシンガー、 ソウルシンガーへの影響

彼女の出すレコードはヒットを重ねる。エルビス・プレスリーは「学校が終わると家に走って帰り、ラジオ局WELOから流れるシスター・ロゼッタ・サープのギターと歌に聴き入っていた」(『ロックを生んだアメリカ南部 ルーツミュージックの文化的背景』ジェームス・M・バーダマン、村田 薫共著、NHKブックス)そうである。

他にもヴォーカリストとして、サープの真似が得意なリトル・リチャードにはデビューのきっかけをお膳立てし、ジェリー・リー・ルイス、アレサ・フランクリン、ティナ・ターナー、ジョニー・キャッシュ、アイザック・ヘイズらにもカリスマ的パフォーマーとして大きな影響を与えている。

ギタリストの面で言えば、チャック・ベリーは「デビューしてからずっとサープの真似をしているだけ」とインタビューで答えているぐらい彼女のギターに影響されているのだ。もうこうなると、ロックンロールはシスター・ロゼッタ・サープが生み出したものと言ってもいいのではないだろうか。

本作『ライヴ・イン・1960』について

本作は60年のサープの弾き語りライヴを収録したもの。ひとりでのパフォーマンスだけに、ハイテクニックなギタープレイと力強いヴォーカルがしっかり聴ける作品となっており、ベースやドラムがなくてもちゃんとロックできることを証明している。収録曲は「キャント・シット・ダウン」「プレシャス・ロード」「ザ・ゴスペル・トレイン」といった彼女の代表曲や、マンチェスターの廃駅でのパフォーマンスでブリティッシュロッカーたちを魅了した「ディドゥント・イット・レイン」なども収められている。

彼女の作品はオリジナルアルバムの他に多くのコンピレーション作品がリリースされているのだが、ロックンロールの元祖という意味ではライヴ盤を推したい。ライヴ盤はスタジオ録音と比べてかなりワイルドな仕上がりのものが多いのでオススメだ。

なお、YouTubeでもサープの演奏は数多く収められているので、観たことのない人はぜひ! ブリティッシュロッカーを引きつけた廃駅での演奏は「Sister Rosetta Tharpe "Didn’t It Rain?" Live 1964」で検索してください。

TEXT:河崎直人

アルバム『Live in 1960』

1991年発表作品

<収録曲>
1.Can't Sit Down
2.He's Got the Whole World in His Hands
3.Vacation in the Sky
4.Didn't It Rain
5.Can't No Grave Hold My Body Down
6.Two Little Fishes and Five Loaves of Bread
7.Gospel Train
8.Precious Lord
9.Down by the Riverside
10.Mansion in the Sky
11.Is Everybody Happy?
12.Peace in the Valley

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