チェ・ゲバラをパクった⁉金正恩Tシャツの狙い 北朝鮮ウォッチャーが唱えるステマ説

金正恩総書記(ロイター)

岸田文雄首相は15日夜、韓国の文在寅大統領と就任後初めて電話会談した。核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への対応で、日韓間や日米韓3か国の連携を強化することで一致した。その北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記について、「激ヤセだ」「影武者だ」「キティラーだ」と何かと話題に事欠かないが、先日、“ご尊顔”をデカデカとプリントした「金正恩Tシャツ」が披露され、北朝鮮ウオッチャーや韓国メディアがざわついている。

平壌で11日、朝鮮労働党創建76周年記念の「国防発展展覧会 自衛2021」が盛大に開催された。その模様は翌12日夜、朝鮮中央テレビが約34分半にわたって報道。このニュース映像の20分過ぎ、会場で演奏する楽団が映る。指揮者が着ている白Tシャツの前面には、大きな顔がプリントされている。鮮明には映らないが、明らかに正恩氏の“ご尊顔”だ。別の地元メディアの配信写真にも、これと同じTシャツ姿の楽団女性メンバーが写っている。

国内外の北朝鮮ウオッチャーは大騒ぎで「朝鮮総連が販売しないの?」「洗濯できるのか?」などと続々ツイート。韓国の聯合ニュースも13日、「“金正恩の顔Tシャツ”北朝鮮で初登場…西洋をマネて?」の見出しで報じた。記事を読むと、この「西洋」とは、同様に顔のプリントTシャツが世界中で広く出回っている、キューバ革命の指導者チェ・ゲバラを指すようだ。

北朝鮮では金ファミリーの肖像や写真が極めて慎重に扱われ、国内には正恩氏の祖父・金日成国家主席や父・金正日前総書記の肖像画や銅像が数多くある。人民(国民)は、この2人の顔もしくはどちらかの顔が印刷されたバッジの着用が義務。ただ北朝鮮ウオッチャーによれば「まだ若い金正恩は偶像化を嫌悪していて、バッジや絵画、銅像にはなっていない」という。

ところが今回の展覧会では、軍服姿の正恩氏の巨大肖像画などが掲げられた。中でも目を引く「金正恩Tシャツ」お披露目の背景について、前出ウオッチャーが唱えるのはステマ説だ。

新型コロナウイルスの防疫から長く鎖国状態の北朝鮮では、外国人観光客の土産にと作った北朝鮮国旗のTシャツがだぶついてしまった。国営メディアは昨年から今年にかけ、この国旗Tシャツを着た人民の姿を盛んに映していたという。

「社会主義の風紀を守るため、人民には街を歩く時のドレスコードがある。男は襟付きシャツ、女はブラウス。だが最近はTシャツでの外出もOKに。金正恩のTシャツという親近感あふれるアイテムで、経済難により高まる不満を拭い去りたい狙いもあるのでは」

このイベントでは、特殊部隊とみられる屈強な兵士たちによる北朝鮮特有の武術「撃術」も披露された。首の筋肉で鉄筋を曲げたり、手の甲を乗せた瓦をハンマーで叩き割ったりと、まるで“ビックリ人間”大会。ナイフを投げる演武では、日の丸の鉢巻きをしたチョビひげ男や、西洋人の顔が木製の的にされた。人型の的も登場するが、映像を見た日本人が「ナイフ投げの的になってたの金正男だった」とツイートするや、たちまち拡散。14日には、韓国の中央日報がこの話題を取り上げた。

正男氏は4年前、マレーシアの空港で猛毒の神経剤VXを顔に塗りたくられ、暗殺された。指示役とされる男4人は北朝鮮国籍で、事件直前にマレーシアを出国し行方知れず。「正男氏は北朝鮮国内で誰も知らないことになっているはず。だが国家行事に出席できる高位クラスの軍人や党幹部は、軍にも顔が利いた正男氏の死の真相を口コミで聞いているかも。“裏切り者は死んでも許さない”という正恩氏の怒りを見せつけ、軍の綱紀粛正を図ろうとしたのでは」(前同)

正恩氏は“ヤバイTシャツ屋さん”だ。

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