〝タリバンを追い続けた男〟久保田弘信氏「日本の歴史で例えたアフガニスタン」

アフガニスタンの帰還民の町で子供たちと(2010年)

【直撃!エモPeople】 駐留米軍が今年8月末、アフガニスタンから完全撤退し、20年にわたる“米史上最長の戦争”が終結。政権を握ったのは20年前に米国が崩壊させた武装勢力タリバンだった。その戦前から同国を取材している戦場ジャーナリスト・久保田弘信氏はどうみるか。長年の取材と自身の半生を振り返り、見えてきたものは――。

2001年、米国同時多発テロ(9・11)の報復として、米国が実行犯の国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの引き渡しを求め、始まった戦争で、武装勢力タリバンは一度は崩壊したが、今回の米軍撤退で新生タリバンとして政権に復活した。ニュースではタリバン支配を恐れ、国外脱出を希望する国民が空港に殺到する姿が映し出された。

1997年からアフガニスタンを取材してきた久保田氏は「空港に殺到している人はお金持ちが多い。この20年間には国を捨てて国外に行った人が裕福になって帰国し、首都カブールでビジネスをしていた。タリバンから見たら“欧米文化に毒された人々”なわけです」と独自の見方をする。

20年間の米軍統治を経て“元の木阿弥”となった戦後処理は何が間違っていたのか。

「アフガニスタンは旧ソ連の侵攻(79~89年)で、ただでさえ発展が遅れていた。20年前、4つの勢力による23年間の内戦を経てタリバンが権力を掌握したばかりで、そこに米国が攻撃、崩壊させ統治し、米国に近いカルザイ氏を大統領に据えた。日本でいえば、徳川家康が天下統一をしたところに外国が出てきて薩長同盟に潰させた構図。タリバンの女性差別政策は良くないといわれるが、日本も江戸時代は同じ。日本が265年かけて江戸幕府から明治政府になったのを、アフガニスタンは20年で変えようとしても無理だったと思う」

米国の失敗については「米軍は2万2000人以上の兵士が犠牲になったというが、アフガン人を殺しすぎたのも事実。罪もない一般人が殺されたら、その親族の怒りは代々続き、なけなしのお金をタリバンに寄付し、旧タリバンではあり得なかった過激派のIS(イスラム国)との連携につながった面もある。戦後統治は米国ではなく、国連主導のルールでやるべきだった」とみている。

久保田氏はアフガン戦争で日本人では唯一、タリバン側の本拠地を取材。2003年のイラク戦争時には、現地から本紙に約1か月にわたり生リポートを寄せた。衛星電話越しに米軍の空爆の着弾音が聞こえていた。

「最も死を覚悟したのはイラク空爆。後で知ったのは7時間で3000発のトマホークが爆発していた。遺書をスーツケースに入れ、アルファ米と即席みそ汁を口にして最後の食事と覚悟しました」

母親に電話し「すまんな、こんなとこに来て」と伝えると「私より先に死ぬのは親不孝やからね」とだけ言われた。のちに「電話を切った母が隣にいた妹の前で号泣していた」と聞いたという。

原点は幼い頃からの冒険心。「やれば何でもできる」という思いだ。

「小学校2年のとき、深夜に2階のベランダから抜け出してタクシーを拾い、離婚した母親に会いに行ったり、小6で寺を見たくて岐阜~京都間を自転車で往復したり。離婚した両親を恨むこともあったが、今思えば、苦労した全ての経験が戦場カメラマンとしての仕事に生かされている」

大学では宇宙物理学を学び、研究者を目指したが、家庭の事情で大学院進学を断念。写真スタジオのアシスタントを皮切りにカメラの道へ。並行して熱中したバイクレースで出版関係者と出会い、旅行雑誌の仕事で訪れたシンガポールでパキスタン人と出会った。そのつてでパキスタンを訪れ、アフガニスタン難民の現状を見たのが運命だった。

「目の前で1~2歳の子供たちがバタバタ亡くなっていく。想像を絶する光景を目にし、何かできないかと思いました。写真をきっかけにNGOの支援につながった」

写真で難民や戦下の一般人の命を救うという信念のもと、その悲惨さを伝えるために戦争の最前線も取材してきた。

「今思えば、バイクレースや戦場に行くことなど、危険を伴うことを止めることなくやらせてくれた両親には感謝してます」

18年に内戦が続くイエメンの取材後、コロナ禍で海外渡航ができない状況が続いているが、ライフワークの難民問題を追い続ける。

☆くぼた・ひろのぶ 岐阜県大垣市生まれ。大学では宇宙物理学を専攻し、卒業後は写真家に。旅行雑誌の撮影で海外取材を始め、1997年に訪れたパキスタンでアフガニスタン難民を取材し、ジャーナリストとしての仕事を開始。2001年のアフガン戦争ではタリバンの本拠地カンダハルを取材。03年のイラク戦争では首都バグダッドから本紙をはじめ、テレビ局にリポート。著作に「Who? 報道されないアフガンの素顔」「僕が見たアフガニスタン」「世界のいまを伝えたい」など。

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