浦上駅前の全焼火災から1年 「奇跡的に残った看板をまた掲げたい」 まるなか本舗総本店

火災現場の建物やがれきは取り除かれ、さら地になった=長崎市岩川町

 昨年10月、長崎市のJR浦上駅前で起きた店舗火災から17日で1年。戦後間もなく原子野にできたかまぼこ店「まるなか本舗総本店」は全焼した。4代目の中村吉治社長(44)は、先代が築き上げた「特別な場所」を失ったが、客とのつながりをかみしめ「多くの人に支えてもらった」と感謝の言葉を口にする。
 昨年10月17日午後0時半ごろ、火災は発生した。飲食店「割烹(かっぽう)ひぐち浦上本店」とパチンコ店「浦上まるみつ」が入る建物(木造2階建て)と、隣のまるなか本舗総本店(木造3階建て)が全焼、隣接する住宅1棟が半焼した。けが人はいなかった。
 まるなか本舗は今年で創業90年。営業拠点だった総本店は火災で閉店。その後、たくさんの応援の声に後押しされ、昨年12月1日に臨時店舗を近くに開いた。
 コロナ禍での火災。これまで半分を占めていた空港と駅での売り上げはかなり落ち込んでいた。それでも「走り続けるしかない」。通信販売を拡充し新たな取引先を見つけるなど販路拡大に力を入れた。売り上げはここ1年、以前の7割ほどで推移している。だが営業担当の従業員たちは、生産現場がある三重工場(京泊3丁目)に拠点が変わり、通勤時間が3倍の1時間あまりになっても、1人も辞めずに「頑張ってくれた」。

「多くの人に支えてもらってありがたい」と語る中村社長=長崎市岩川町の臨時店舗

 今でも客からは「大変だったね」「かまぼこ食べて応援するけん」などと心配や励ましの声が届くという。中村社長はそのつながりが「すごくありがたい」と何度も口にする。
 火事で焼けた建物やがれきはすでに撤去され、現在はさら地になっている。中村社長は記憶にある景色とのギャップをいまだに受け入れられずにいる。跡地の活用については「コロナ禍で先が見えない中、次のステップまでなかなか考えられていない」。
 ただ希望も残っている。旧店舗の玄関横に位置し象徴的存在だった歴代職人の看板がほぼ無傷だった。大切に保管し、思いを胸に秘めている。「奇跡的に残った看板をまた掲げたい」

火災後、ほぼ無傷で残っていた歴代職人の看板(中村さん提供)

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