スーパーフォーミュラ・ライツ新王者の名取鉄平、目標の戴冠も接触の結末に「複雑な気持ち」

 10月16〜17日、栃木県のツインリンクもてぎで開催された全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権第6大会。チャンピオン争いは3人に絞られていたなかで第15戦/第16戦/第17戦という3レースが開催されたが、10月17日の第16戦の段階でチャンピオンが名取鉄平(Byoubugaura B-MAX Racing 320)に決まった。

 2021年のスーパーフォーミュラ・ライツの最終大会となる今回のもてぎラウンドは、第1戦から優勝を飾り、第4大会まで毎ラウンド優勝を重ねてきた名取が選手権をリードし迎えた。優勝回数こそ少なかったものの、抜群の安定感で表彰台を重ねてきたジュリアーノ・アレジ(Deloitte. TOM’S 320)、ツインリンクもてぎでの第5大会で3連勝を飾るなど、追い上げていた佐藤蓮(TODA FIGHTEX)がチャンピオンの可能性を残していた。

 そんな名取だったが、もてぎでの第5大会でもチャンピオン決定の可能性があったが、タイトルを意識しすぎたか思うような結果を残せず、悔し涙をみせていた。今回、「チャンピオンよりも楽しみたい」と後半戦で勝てていなかった状況を打破したいという思いがあったが、金曜の専有走行ではまさかのトラブルに見舞われ、エンジン交換でグリッド降格のペナルティを受けていた。

 ただ、走行時間が短いながらもトップタイムをマークした公式予選を経て、迎えた第15戦では4位でフィニッシュ。優勝したアレジに差は詰められたが、チャンピオンへ向け一歩前進した。そうして迎えた10月17日の第16戦では、名取は2番手からスタートを切った。

 ポールポジションのアレジの加速が鈍り、第15戦の時点でチャンピオンの可能性がなくなった佐藤が3番手グリッドからトップを奪う一方、名取は3コーナーでアレジのインを突く。ただ、そこで2台は接触。アレジは左フロントタイヤのパンクチャーに見舞われ、2ラップダウンに。名取も接触によるドライブスルーペナルティ、さらにフロントウイング交換と同様に大きく順位を落としたが、この結末で名取のチャンピオンが決まった。

 後味が悪い結果となってしまったが、レース後すぐに名取はTOM’Sのピットを訪れ、「ドライバーなのでお互い思うところはあると思いますが、ペナルティも出ていますし僕が悪いので、謝りたいと思って」とアレジに接触を謝罪。ふたりは握手をかわした。

 その後行われた記者会見でも、名取は「チャンピオン獲得の記者会見ではありますが、第16戦が終わった直後の今の正直な気持ちは、3コーナーで接触してしまったジュリアーノ・アレジ選手とTOM’Sのチームの皆さんに申し訳ない気持ちでいっぱいです」と改めて謝意を述べた。

「前回大会も今回も専有走行からトップタイムを出せていました。特に今回はエンジン交換をしていて、テストメニューをまったくこなせていない中でのトップタイムだったので、仕上がりは悪くなく、普通に走れば勝てる力があったと思います」と第6大会を振り返った名取。

「10月16日の第15戦では、エンジン交換によるグリッド降格を受けてのスタートで、最低限の4番手まで取り戻すことができました。シーズン前半の流れは良かったのですが、ここ最近は優勝から遠ざかっているので、第16戦はチャンピオンを決めることよりも、本当に優勝したかったです」

 苦しんだ後半戦だったものの、今季目標としていたチャンピオンを獲得することができた。「スーパーフォーミュラ・ライツは昨年から出場しているカテゴリーなので、全勝するぐらいの覚悟で今シーズンに挑みました」と名取は今シーズンについて語った。

「開幕の富士大会では1レース目で勝ち、幸先よくスタートできましたが、すぐ2レース目で負けてしまい……。鈴鹿大会では3連勝できましたし、それ以降もレースウイーク中に1勝はできていたのですが、シーズン後半に入って、もてぎでは一度も勝てていないんです。もてぎ自体は得意なサーキットなので、もっと自分自身が頑張らないとと思っています」

 名取はホンダの育成プログラム出身。F1ドライバーを目指し、2019年はFIA-F3を戦うも、2020年に帰国。ただ、2020年は失意の年となった。「イギリスから帰国して良い結果が出せず、ホンダの育成プログラムも外れ、本当に今年チャンピオンを獲れなかったらレースを止める覚悟で戦ってきた」と今季にかける意気込みは強かった。

「チャンピオンを獲れたのは、今は嬉しくはないですが、結果だけ見たら複雑な気持ちです」と目標達成も苦い結末に複雑な心境をみせた名取。「現状、自分に弱いところもありますし、ドライバーとして足りないところもあります。将来は世界で活躍できるドライバーになりたいです」とチャンピオンの称号を胸に、将来への飛躍を誓った。

スーパーフォーミュラ・ライツ第16戦 1周目の3コーナーで接触した名取鉄平とジュリアーノ・アレジ
2021年全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権チャンピオンを獲得した名取鉄平(Byoubugaura B-MAX Racing 320)
レース後、TOM’Sのピットを訪れアレジと言葉をかわした名取鉄平
2021年のチャンピオンを獲得した名取鉄平(Byoubugaura B-MAX Racing 320)

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