20周目マルチアクシデントのそれぞれの見解。平川は軽い脳震とうでドクターヘリで病院へ【第6戦もてぎ決勝】

 3度のセーフティカーが導入された全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦もてぎ決勝。20周目には3コーナーで3台がリタイアするアクシデントが発生した。ここではレース終了直後のドライバー、そして関係者のコメントともに、中継映像では垣間見ることのできなかった20周目のアクシデントの状況を振り返る。

■坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)

 小林可夢偉(KCMG)と9番手争いを展開しながら3コーナーに向かっていた坪井翔はスピンを喫しコースオフ。グラベルからの脱出も叶わず、今季4度目のリタイアとなった。

「あのときは可夢偉選手と争っていました。まだ原因はわからないですが、3コーナーの入り口で突然スピン状態になりました。ゆっくりとスピン状態に入るのではなく、唐突にリヤがブレイクした感じです」

「コース上には濡れているところもあったので、そこに乗ったからなのか……。それは今も映像を見返しているところです。ただ、まだ原因ははっきりとしてはいませんが、他車に押されたという感じはなかったですね」

 2020年にはシーズン最多勝となる2勝を記録するも、2021年シーズンはいまだ表彰台へも上がれず、苦しいレースが続くまま最終戦を迎える坪井。

「僕自身、今年はスーパーフォーミュラでまったくいい結果を残せておらず。本当はチームを引っ張っていかないといけない立場なのですけど、足を引っ張っている感じになっているので、チームには申し訳ない気持ちでいっぱいです。あと1戦、最終戦がありますので、今まで足を引っ張ってきた分いいところを結果で見せてチームに恩返しがしたいですね。思いっきり納得できるレースをしたいなと思います」

小林可夢偉(KCMG)とポジションを争う坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)

■山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)

 13番手争いを繰り広げていた山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)と平川亮(carenex TEAM IMPUL)は、坪井がコースオフを喫した同じ20周目に3コーナー手前で接触し、2台ともマシンにダメージを受けてリタイアとなった。

 中継映像では接触の瞬間が映し出されず状況が不明確であったが、「平川選手の左フロントと僕の右リヤが当たりました」と、当事者のひとりである山本は語った。

「平川選手が(横に)いたのは認識していたので、彼のスペースを開けることはもちろん考えてはいました。しかし、前方でスローダウンしている車両(大湯都史樹)がいたこと、さらにJMS P.MU/CERUMO・INGINGの一台(坪井)が単独スピンしているのが見えました」

「あの視点からだと、なにが起きたのかがわかりにくい状況だったので、先の方で混乱が起きていると思いました。そのためマージンを取ったつもりだったのですけど、若干意識がそちらに行っていたので、平川選手に対する意識が少し薄くなってしまいました」

「今は少し頭が痛いので、結構な衝撃はあったのかと思います」と振り返る山本だが、接触するかたちとなった平川を心配する。

「平川選手は検査のため病院に行っているみたいで、彼の身体も心配です。裁定としてはレーシングアクシデントでしたけど、接触したことには間違いはないですし、平川選手のレースも台無しにしてしまったので、彼には申し訳ないと思っています」

山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)と、平川亮(carenex TEAM IMPUL)

■carenex TEAM IMPUL(平川亮)

 山本との接触でリタイアとなった平川は、軽い脳震盪の可能性があるということで、念のためドクターヘリで病院へ運ばれることになった。

 接触の映像を見たcarenex TEAM IMPULの高橋紳一郎工場長は「山本選手が、コース幅ギリギリのところを走る平川に寄っていったという感じです。結局、そこで2台は接触して、ガードレールに当たってそのまま滑っていきました」と語る。

 また、平川を担当する大駅俊臣エンジニアは「決勝は後ろからのスタートでしたが、ドライにも自信があったし、レースには自信がありましたね。ただ、ずっと無線のトラブルで平川との通信ができませんでした」と、スタート直後から無線トラブルがあり、平川とはコミュニケーションが取れない状況だったと振り返り、1度目のセーフティカー導入のあとにウエットタイヤのままコース上にステイしたのは作戦ではなかったとも明かした。

「もうチャンピオンにはなれませんが、平川は今季1勝目を手にしないといけないですからね! 最終戦鈴鹿は仕切り直してしっかりとやることができればと思います」と、大駅エンジニアは最終戦に向けた思いを語った。

■大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)

 逆転タイトルの可能性を残し、8番手からスタートを迎えた大湯だったが、オープニングラップの2コーナーで坪井と接触。このアクシデントで左リヤのホイールが割れ、タイヤのビートが落ちコントロール不能となった。

「2コーナーで3ワイドになり、僕が真ん中にいました。イン側は滑りやすいこともあり、イン側のマシン(坪井)が徐々に外側に膨らんでくるなか、かといって外側に避けるわけにはいかず、挟まれるかたちでした」

 その後はピットに戻り、再びウエットタイヤに交換。その後はラップダウンとなるもハイペースで周回を重ねていたものの、サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)の一時的なストップにより導入された1回目のセーフティカーが解除された際、リスタート時の追い越し違反によりドライビングスルーペナルティが課せられてしまう。

 18周目に発生したタチアナ・カルデロン(ThreeBond Drago CORSE)のクラッシュにより、この日2度目のセーフティカーが導入されると、ラップダウンの大湯は隊列の2番目からリスタートを迎えた。

「すると『後ろに下がって』とチームから無線が来たので後ろに下りました。そしたら、平川選手と接触した山本選手が背後から飛んできたので、避けたという流れでした」

「いろいろな場所で少しづつ先に行かせるのも……。それはそれで他車の邪魔になってしまいますし、抜かさせるということはレーシングラインを外すということです。コーナーの濡れたイン側によけたらスリックタイヤなのでズルンといってしまうかもしれないので危険です。それであれば、1本の長めストレートで行かせるしかないなと思いました」

「とはいえ、バックストレートは上ってから下るストレートなので、それはそれで危ないと考え『ここだ!』と思い2コーナーの先で減速しました」と、大湯は3コーナーまでのストレートで他車を先行させようとした意図を語った。

 31周目には「あれは意地です」と語る1分31秒422のファステストタイムを記録しているものの、14位でノーポイントに終わった大湯。ドライバーズランキングでも関口雄飛(carenex TEAM IMPUL)に先行されポイントランキング3位に後退している。

「今日は速かったんですけどね」と、大湯は普段の飄々とした表情を見せず、肩を落としながら振り返った。次戦鈴鹿は昨年初優勝を手にした舞台、噛み合わない週末となったもてぎの悔しさを晴らすような走りを楽しみにしたいところだ。

 セーフティカー3回という荒れた展開となったが、まずはクラッシュ、アクシデントに遭ったドライバーたちの無事を祈るとともに、最終戦の鈴鹿でのレースではまた、クリーンなバトルが行われることに期待したい。

首位の大津弘樹(Red Bull MUGEN Team Goh)の背後を走る大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)はラップダウン。

© 株式会社三栄