タリバンがあっさり政権を奪えた理由は「田舎の保守的な考え」とのマッチング

© 株式会社ワニブックス

先日、茂木敏充外相はアフガニスタンからの出国を希望していた日本大使館や国際協力機構(JICA)のアフガン人職員と家族ら約140人が、カタールを経由して日本に退避すると発表。日本政府はアフガン人職員ら約500人の退避を目指しており、300人超が既にアフガンを脱出、そのうち168人が日本に入国した。

このように、遠い日本においてもアフガンが非常事態であることはわかりますが、実際にはどんなことが起こっているのでしょうか。新聞やテレビでは絶対に知ることができない内情を、博覧強記の郵便学者・内藤陽介氏が解説します。

国よりもわが身を守るために逃げる政府軍

2021年3月から4月にかけて、クリミア情勢の緊迫化をきっかけに、西側諸国のアフガニスタンからの撤退方針が固まると、ただでさえ低かったアフガニスタン政府軍の士気はさらに低下していきました。一方、タリバン側はさらに攻勢を強めていきます。

5月以降、アフガニスタンの全34州中25州が戦闘状態となり、2カ月間で6万世帯が難民化。そのほとんどが、タリバンの支配を嫌って首都カブールに流入しました。

EU関係者によると、2021年に入ってから、約40万人のアフガニスタン人が避難しており、イランへの難民も8月以降に急増したとされています。

さらに、7月5日には、タリバンの攻撃を受けたアフガニスタン政府軍の兵士1,037人が、“自らの命を守るため”国境を超えて隣国タジキスタンに逃亡しました。

国を守るべき兵士が、国よりもわが身を優先して逃げ出したわけですから、政府軍の士気の低さがうかがえます。

これを受けて、タジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領は、ガニー政権の崩壊に備えて、2万人の予備役軍人の動員をシェラリ・ミルゾ国防相に指示。国境警備のほか、テロや過激主義、麻薬密輸などの対策も強化しました。

▲タジキスタン大統領エモマリ・ラフモン 出典:ウィキメディア・コモンズ

また、ロシアからしても、アフガニスタンでタリバンが勢力をもつことで、麻薬(タリバンの資金源)やイスラム過激派を周辺に拡散されては困ります。

そのため、8月5~9日には、アフガニスタンでの不測の事態に備えて、ロシア・タジキスタン・ウズベキスタンの三国が、タジキスタン領内のアフガン国境に近い演習場で合同演習を実施。計2,500人以上の兵士が参加し、戦車やドローンも投入され、テロリストの侵入などを想定し連携を確認しました。

ちなみに、演習初日の5日、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は、ウズベキスタンに対して「武器や軍事機器の追加の供給について調整している。軍の装備の性能を上げ、兵士への訓練も提供する」と発言し、ウズベキスタンを軍事支援する意思を表明しています。

ロシアを「最大の脅威」と位置付けているバイデン政権からすれば、米軍をアフガニスタンから撤退させたことで、米国の長年の“不採算部門”を切り捨てただけでなく、ロシアにその後始末を押し付けた(ロシアが政治的・軍事的リソースをアフガニスタンに振り向けざるを得ない状況を作り出した)ことは、まさに一石二鳥というべき成果だったわけです。

なお、米軍のアフガン撤退については、“アフガン最大の隣国”である中国にとっても当然無視できない大きな問題になっていたのですが、それについては話が複雑になるので、また別の機会にご説明したいと思います。

アフガニスタンは「攘夷」の国

さて、アフガニスタン政府軍が“自分たちの命を守るために”、国境を越えてタジキスタンに逃亡してから1か月後の8月6日、タリバンは南西部ニームルーズ州の州都ザランジを制圧しました。これは、米軍の撤収開始後、タリバンによる初の州都制圧です。

そして、これ以降、各州の州都は雪崩を打って陥落していきます。

14日、ガニー大統領は「治安部隊の再動員が最優先で、必要な措置が進行中だ」と述べ、戦闘を継続する意志を明らかにしました。しかし、翌15日、その舌の根も乾かぬうちに大統領はタジキスタンに脱出。これによりガニー政権は事実上、崩壊しました。

ガニー政権は、米国の支えがなければどうにもならないグッダグダ政権です。武器こそ、米国をはじめ西側諸国から最新鋭のモノをもらっているのですが、残念なことに使いこなせず、ろくにメンテナンスもできません。

だから、アフガニスタンの政府軍は、米軍が現地で指導してくれないと、どうにもならないわけです。外国に頼り切っている軍隊というのが、非常に弱いものだということがよくわかります。

▲アフガニスタン国軍 出典:ウィキメディア・コモンズ

それに対して、タリバンはどうか。

アフガニスタンは、第一次大戦前にはイギリスの侵攻を受け、第二次大戦後にはロシアの侵攻を受け、9.11後に米国の侵攻を受けてきました。

そのため、アフガニスタンの人々は、外国勢力を排斥する「攘夷」でまとまりやすい性質があります。特にタリバンのような兵士たちはそうした傾向が強いわけです。

しかも、彼らは外国勢力そのものよりも、ダニー政権のように“外国勢力の手先”になっている人たちを、より一層憎みます。ようするに、ガニー政権との戦いになると、非常に士気が高まるわけです。ましてや、肝心の米軍が撤退したとなると、政府軍とタリバンとで勢いに圧倒的な差がつくのは当然だと言えます。

▲タリバンの現最高指導者ハイバトゥラー・アクンザダ 出典:ウィキメディア・コモンズ

ただし、タリバン自体が強力だったから、これほどあっさりとガニー政権を倒せたのかというと疑問符がつきます。

と言うのも、アフガニスタンは各地域に軍閥があり、米国のアフガン侵攻後もずっと戦国時代のような内乱状態が続いていました。つまり、地元の人々からすると「もうこれ以上、戦争に巻き込まれるのは嫌だから勘弁してくれ」という状況だったわけです。

そのため「秩序を回復してくれるならタリバンでもいい」という形で、タリバンを受け入れた人々も、特に地方レベルだと少なからずいたと思われます。

また、タリバンは「かなり極端なイスラム原理主義」だと世間一般には認識されていますが、誤解を恐れずに言うなら、彼らの考え方というのは、アフガンの田舎の、さらにド田舎の人々の感覚とそれほどかけ離れたものではありません。

「昔ながらのしきたり通りに全部やればええんだ。人権? よくわからん。女が勉強? そんなモン必要ねえ!」……そういう田舎の保守的な考えと意外とマッチしている点も多いのです。そういう地域ではタリバンを受け入れる土壌は十分にあります。

もちろん、タリバンが凧揚げなどアフガン伝統の遊びを禁止したり、民謡歌手を殺したりするなど“やり過ぎ”なことをすれば反発も出てきますが、基本的にはタリバンを受け入れる土壌が国内各地にあり、それを背景にタリバンは勢力を拡大してきたわけです。