景況感に明るい兆し、新型コロナの新規感染者数急減で9月景気ウォッチャー調査が改善

全国の新型コロナウイルスの新規感染者は10月11日に369人になりました。2020年10月19日の316人以来、約1年ぶりの低水準です。第5波のピークは8月20日に25,868人で、新規感染者の過去最高でした。10月11日の新規感染者数は過去最高水準から▲98.6%と大幅に減少したことになります。

感染力の強い変異ウイルスが猛威を振るい、緊急事態宣言が21都道府県に発出されていた時から2カ月も経っていません。急激に新型コロナウイルスの感染状況が改善したのです。

ワクチン接種は順調に進んでいます。ワクチン接種完了者が全人口の3分の2近くになりました。ワクチン接種が完了した割合は、8月3日時点では29.27%と3割を下回っていましたが、8月31日に45.0%まで上昇し、9月30日では59.0%になりました。10月12日時点では64.63%です。10月に入ってからのペースが維持されると、10月末には73%程度という数字が期待されます。

9月22日データでワクチン接種が完了した割合が日米で逆転しました。米国の数字は、10月12日時点で55.67%です。日本は10月12日時点で64.68%のドイツにほぼ並びました。現在G7で一番高い国はカナダ(72.06%)ですが、10月に入ってからのテンポで増加すると10月末には74%程度になる見込みです。日本はかなりトップのカナダに接近するという計算になります。

こうした状況下で、速報性があるデータの「景気ウォッチャー調査」は8月から9月にかけて調査結果に大きな変化が生じました。今回は9月調査「景気ウォッチャー調査」から最新の景況感をご紹介したいと思います。


9月の景気ウォッチャー調査、8月から一転改善を示す

8月の景気ウォッチャー調査は、厳しい内容でした。調査期間は8月25日から31日までです。全国の新型コロナウイルスの感染者が過去最大だった8月20日が調査期間の直前で、調査期間前半の25日~28日は感染者が2万人台と多かった時期に重なりました。

現状判断DIは前月差13.7ポイント低下の34.7と3カ月ぶりに悪化しました。7月から大幅に低下した業種は、緊急事態宣言の影響を大きく受ける、百貨店、旅行・交通関連、レジャー施設関連、飲食関連などでした。先行き判断DIは前月差4.7ポイント低下の43.7になりました。

一方、9月の景気ウォッチャー調査の調査期間は9月25日から31日までです。この時期には、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着き、ワクチン接種が順調に進み、緊急事態宣言の全面解除が決まりました。経済正常化への期待が高まりました。

9月の景気ウォッチャー調査は、現状判断DIが42.1と前月差7.4ポイント上昇しました。改善は2カ月ぶりです。百貨店、旅行・交通関連、レジャー施設関連、飲食関連などの業種が改善しました。但し、現状判断DIは7月の水準を上回れませんでした。

2~3カ月先の見通しを示す先行き判断DIは56.6と12.9ポイント上昇と大きく改善しました。景況判断の分岐点になる50を超えるのは3カ月ぶりで、56.6は13年11月(57.6:過去最高水準)以来、歴代5番目の高水準です。

9月調査で現状判断DIと先行き判断DIで改善の差が出たのは、景気ウォッチャー調査の調査期間が25日から月末まである一方、政府が緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の全面解除が10月1日だったことが影響しているでしょう。緊急事態宣言下で厳しい状況が続いている中では、現状判断は厳しめになったと考えられます。

一方、宣言解除が決まっていることから期待が高まり先行き判断は大幅に改善したとみられます。

「新型コロナ」絡みの、関連DIは軒並み改善

景気ウォッチャー調査の判断DIは「良」から「悪」までの5段階の回答を1~0まで0.25刻みで点数化し、回答数で加重平均計算するシンプルなものです。注目される事象に関するコメントだけから算出したDIを簡単に作成出来ます。全体のDIと、注目される事象に関するコメントから算出した関連DIを比べることで、その事象の影響を判断することが出来ます。

「緊急事態宣言」関連判断DIを作成すると、9月分の現状判断DIは39.7で前月差13.1ポイント上昇し2カ月ぶりの改善になりました。一方、先行き判断DIは65.9で前月差28.5ポイントの大幅上昇です。解除前と後に関する判断のため、景況判断の分岐点50を「下回る・上回る」で現状判断と先行き判断が大きく分かれました。

「新型コロナウイルス」関連判断DIを作成すると、9月分の現状判断DIは44.2で前月差15.2ポイント上昇し2カ月ぶりの改善になりました。一方、先行き判断DIは58.9で前月差18.3ポイント上昇し、新型コロナウイルスという言葉が景気ウォッチャー調査に初めて登場した2020年1月以降の最高水準を更新しました。現状判断、先行き判断とも「新型コロナウイルス」関連DIは全体DIを上回り、新型コロナウイルスが景況感の足を引っ張らなくなったことを示唆しています。

ワクチン接種が順調に進む中、9月の「ワクチン」関連判断DIは現状が55.3、先行きが67.1と判断の景況判断の分岐点50を大きく上回りました。

「第6波」という言葉が、先行き判断のコメントに出てきました。「第6波」関連先行き判断DIは55.1と景況判断の分岐点の50を上回っています。「緊急事態宣言が解除されても、新型コロナウイルス感染第6波も想定されるため、外食などは余り増えないと考えられる。」(南関東:スーパー(販売担当))という慎重な意見がある一方、「ワクチン接種の進展により緊急事態宣言解除後の第6波が来ないことに期待しつつ、各納品先が通常営業の状態を維持できるようになればとの期待を込め良くなると考えている。」(沖縄:輸送業(経営企画室))という楽観的な意見もあります。

懸念の「中国」と「半導体不足」、先行き判断は底堅く

新型コロナウイルスの他にも、景気への懸念材料があります。「中国」関連判断DIを作成すると、9月の現状判断DIは37.5で、先行き判断DIはそれより高い45.8になりました。「中国の大手不動産会社の経営危機によるショックが大きくならなければ、下半期も堅調に推移すると予想される。」(近畿:人材派遣会社(支店長))というコメントがありました。中国の動向は、環境規制の強化と二酸化炭素排出削減を背景にした電力供給懸念もあり、要注視でしょう。

「半導体不足」関連判断DIを作成すると、9月の現状判断DIは33.0で、先行き判断DIはそれより高い48.1になりました。「半導体不足で自動車生産などが部分的に止まっており、関連中小企業は苦しいが、半導体製造装置メーカーは大変忙しく、関連部品メーカーが大増産になっている。近々自動車関連メーカーに半導体が届くようになれば、製造業の多くが動き出す。」(南関東(東京都):人材派遣会社(支店長))というコメントがありました。半導体不足等が製造業に与える影響に関しても要注視です。

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